相前後して、大学評価機構による評価方法案に大きな疑義が呈された。非常に核心をついている。「案」は研究者個人に 4 段階評価をつけるというような乱暴な話をうたっていて、小学校の通信簿のほうがマシと揶揄されている位であるが、これがひとり歩きすれば偏差値の弊害どころではない重大な過ちとなるのは目に見えている(一生ビクビク怯えながら研究するなんていうところが大学だろうか)。
大学にも同様のランクづけをするらしいが、同様の仕組みを作ったイギリスではランク落ちしないように「国体選手」的なスーパースターをよんだり、彼らが大学を渡り歩いたりというだけの不毛を生んでいるという。批判が私学側からのものであることは大いに歓迎したい。国立大学内部からは現在組織としては非常に物がいいにくくなっていると思うから。現状が変だと思っても物がいえない自民党内部のように、というとわかりやすすぎるだろうか。(2000.11.16)
「教育改革国民会議」は小渕前総理が設けた私的諮問機関にすぎないことを確認したい。意中の人には断られての発足であったとも聞く。森政権の脆弱さからいつまで続くかと思ったが、意外と続いて恐ろしい結論に向いつつある。「奉仕」の制度化には慎重な意見も出て、自民党からさえ法制化には反対の意見があいついでいるが(村上参院議員会長、野中幹事長=9月12日朝日)、おそらく江崎会長には会議がコントロールできていないのであろう。
[たとえば、ここ。「奉仕活動義務化論」に対して江崎会長が「だけれども、1 年間 120 万の人間が働く場所ですよ...」「1 年、充実した奉仕をする場は今ちょっと見当らない...」などとたしなめていて、江崎氏の苦笑が見えるようである。]
このまま進行して教育予算がすこしばかり増えても、チャータースクール(これもアメリカでは失敗が報告されており安直な導入には問題がある)のための新校舎建設などにいくのが落ちではなかろうか。会長がノーベル物理学賞の意地をみせるには辞任しかないかと思われる。
参考:教育基本法の全文. 一体どこが問題なのか。この理念がこれまで達成されなかったことこそ問題であり、そのための教員の増員などの環境整備を行ってこなかった政府、諸外国に比しておよそ半分という教育への投資額を予算の硬直化から是正できなかった国会に根本的原因があるのではないか。このような形で教育を馬鹿にする社会に子供が敬意を感じなくても不思議がないであろう。子供が減る今こそ、過大な投資をせずに小人数教育をする好機である。(2000.9.13 記)|その他、最近の教育改変について.
教職員の国大協への署名(2000.7.24)|署名運動その後(8/24)|この署名運動の趣旨(2000.7.10)|日本科学者会議による反対ポスター(2000.10.05)
・更新する時間がなかなかとれないのですが、とりあえず必見と思われる以下のサイトを追加しておきます。総選挙で教育や大学の独立行政法人化が争点にされ、憲法や教育基本法の改訂をはじめ、変な方向にいかなければ良いがと祈る今日この頃です。(2000.4.27)
文部省作成の独立行政法人に関する資料(三重大医学部のページより、PDF files)|オンライン版(附属資料など)|国立大学等の独法化に関する調査検討会議(7/31) の配布資料|設置形態検討特別委員会(8.10)資料
7/20 の NHK 報道について(辻下発)|7/20 朝日新聞|7/19 毎日新聞|7/19 共同通信
独立行政法人化の実状:すでに独立行政法人化が進行中の国立環境研究所発。|科学技術庁発|都立大学の石原改革|都立大改革 2000
鹿児島大学学長発(6.13)|ユネスコ宣言から見た国立大学独立行政法人化問題(工学院大学蔵原教授)|東大の国立大学制度研究会の中間報告について(7.10,東京新聞)|7/15 日の NHK の報道の問題について|東大の青山委員会の中間報告案について: 7/18, 東大新聞
過去の署名運動:蓮實国立大学協会会長(東大)への意見書(独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局)|その結果|辻下氏の国大協会長あて意見書|その他の文書|若手研究者の OD 問題についてなお、現在発売中の雑誌「数学セミナー」7月号(日本評論社)には、辻下氏(北大教授)をはじめ岡本和夫氏(東大数理科学研究科長)、荻上紘一氏(都立大学総長)ら数学者による論説が収録されています。(2000.6.13)|6/14,毎日他の速報|同日、読売オンラインより(参考:読売の過去の記事)|6/14, NHKテレビ「明日を読む」|6/15,東京新聞|全国院生協議会の独法化反対声明|近藤学教授(滋賀大学)の論説
・ついにきまってしまう?国立大学の独立行政法人化について。 6.7 の北大評議会での議論より:辻下発|北大ネットワーク発: 今迄あまりにも霞ヶ関の論理が 過ぎたのではないか?政府は大学を本当に良くしたいのか?という当然の疑問。
・現在東北大学では全学教育についての見直しが進行中ですが、非常勤講師(身分保証の点で、ほとんどフリーターと同じといわれる)を科目によっては半数も使わなくてはならない現状は、どう考えても異常です。大学の正規教官が教えるべきだというのはもっともですが、今のままの学生数対教官数である限り、非常勤講師全廃は研究の停止を意味することになりかねません。大学について議論するのであれば、こうした面も含めて議論するのでなくてはいけないと思います。結局国の予算配分が変わることが必要で、そうでないかぎり、制度だけいじっても現状が良くなるとは想えません。安易な教育改革・大学改革は日本版文化大革命になりかねないのではないかと恐れます。(6/12 記)参考:最近の動き|光熱費がなくなる?|光熱費続報|政府の科学技術政策の動き6/9,科学新聞の記事
「国立大学独立行政法人化の問題」:(中嶋哲彦氏の論説)。 |公立大にも独法化?:kouritudai-kaikaku ML|石原都知事の発言|人事 千葉大学学生有志の発言:頼もしい限り。 | 北日本新聞社説(5.31):まさにその通りです。 参照:この新聞の地盤?である富山大学有志の意見 | 静大職組発。 | 文部省、総務庁のアカウンタビリティはどこで示されたのか?報道によれ ば、学長人事をはじめとして、自民党の麻生委員会の提言より更に後退した内 容になりそうである。戦前のように、良識ある大学人の追放さえおこるのでは ないかと、昨今の自民党人の失態を見ていて心配になる。(文教族総理の失言 は彼個人のものかもしれないが、文教族がそろってあの通りだとしたら。... それ故にこそ行革本部に何も言えなかった?行革の中心のひとつである総務庁 は、行革がなければリストラの対象であったろうという話もきく。担当者は大 学を批判にたえうる調査の上でやってるのだろうか。公務員の削減という与党 のかけ声の犠牲になっているように思えてならない。) 21 世紀の日本の将来 の一部を少なくとも決めようとしているのであるが、これからは選挙で、役人 にストップをかけることのできる人はしばらく誰もいないであろう。... ちな みに紀元前における学問の中心として知られ、シーザー以来数次にわたる火災 その他であとかたもなく滅んだアレクサンドリアの図書館(ムセイオン)の衰退 のきっかけは、軍人が館長になったことであったと聞く。そこまでは(幸い)大 袈裟であったにしても、 大学が特殊法人化しない保証はあるだろうか。(管理強化により、今以上 に中央省庁から天下り先にされるという問題がある。)(5/18 記)(5/22 訂正) (「文 部省や財界の人たちは多分、...」)よくある質問「私立になれ ば良いのでは?」に関して:イギリスで聞いた話だが、ケンブリッジ大学から オックスフォード大学まで、両大学の敷地だけを歩いて渡ってゆけるのだそう だ。両大学の距離は、丁度筑波から八王子位にあたる。ここからの地代収入に加 え、イギリスはなおこの両者に潤沢な資本投下をしているのである。研究を普 遍不党に保つため、それ位の財政基盤があるべきだという認識が背景にあるだ ろう。 アメリカにおいても、私立州立を問わず大学への国費投入は常識である。 なお日本では税制の問題から、今のような不景気でなくても寄付金は集まりに くいといわれている。(東北大学の場合、敷地は大蔵省から借りているが、法人化された場合に大学に委譲される保証はまったくない。まさかではあるが、逆に地代を要求されたら大変なことだ。) |参考:広大広報紙 web 版より。 アメリカの大学の最近の財政データあり。
・最近聞いて耳に残ったことば:「すぐ役にた つものはすぐ役にたたなくなる。」
・教育について:我が意 を得たり、の文章:高崎金久さん(京大)による。
「不平等社会日本」、などの紹介:嶋田丈裕氏の掲示板。(7/17 追加)
欧米なみに増や すというが文部省の教員増員案(といいつつ、内容は非常勤講師頼みのお 寒いもの)について。(東京新聞社説、5/20)
教育会議国民会議 :前総理からひきつがれた、総理の諮問機関。(中教審との関係や法的根拠 はどうなっているのだろうか。私は(たとえば)中教審の委員構成 (出身母体)をフランスにならって明文化し、 専門家の組織的意見を反映させるのが筋だと思う。人的予算的裏づけもない制 度いじりやスローガンだけでは、現状が良くなることはありえないだろう。人 選は誰がどのように行ったのだろうか。)
金子郁容氏の掲 示板:教育会議国民会議の委員でもある、慶応幼稚舎の先生(?)の発言が 読める。国民会議の様子がわかるようで興味深い。|関連の掲示板
日本の高等教育はこれでいいのか?評論家立花隆氏のページ。|参考まで: 大学教科書関係の出版社へのアンケート(ちょっと昔のデータですが、本質的に事情は変わっていないと思われます。)
以下は旧聞に属す話題ですが、そうかといって心配がなくなったわけでは ありません。
読売オンラインその他の 報道によれば、小渕総理の私的な諮問機関である「21世紀日本 の構想」懇談会(座長=河合隼雄氏)は、政府の役割を縮小し個人の自己 責任を重視するべきだという最終報告をまとめた。この中には、英語の第二公用 語化の提言などとともに、義務教育の週 3 日化(!)が述べられている。現在すでに、週休 2 日化が教育に与えている深刻な事態 を、これらの委員の方々は御存知ないのだろうか。それともそれは承知の上で、 国民一人あたり 500 万円を越えた財政赤字のため、あえて学校教育をも小学 校から大学にいたるまで「スリム」にせざるを得ないのであろうか。そもそも、 教育は答申がいうような「国民が義務として身につけるもの」ではなく、国が 構成員に文化的生活の一部として保証すべきものではなかったか。
これを 保証するのが教育基本法 であり、またこの精神を骨抜きにする過程が戦後教育の辿ってきた歴史と も呼べると思う。政府は最近、この過程には触れぬまま、教育基本法改訂に着手するという。どん な政策にも必要な金はなくとも、教育現場への国旗の徹底くらいはたしかにタ ダでできよう。それはしかし何かやった気にはなるかもしれないが、困難の本 質に迫るものでは全くなく、笑止千万である。明日の日本をより真剣に考える ならば、大事な日々の授業のため時間を使えるよう、先生をより解放する方向 に向うべきであろう。政治家も同時により現実の問題にたちかえって、いたず らに制度を いじること(その 1) (そ の 2)で何かできるとは思わないでもらいたい。(以下こちら に続く)( 寸評その 1)( その 2)( リンク:大学についての学生さんのページだが 「おくれた後進国となるでしょう」に同感。)ユネスコ高等教育に関す る世界会議・21世紀の高等教育に向けての世界宣言:展望と行動政府関係 者はこれを良く読んで赤面してもらいたい。(ユネスコ文書の検索)
先日某旧帝大系の同僚に、い づれも理学系の学生の話として聞いた話だが、sin(x)/x の x->0 での極限が とれない、連立 2 次方程式が解けない、などの現象がすでに生じているとの こと。
同時に、教育系大学には入試で理系科目を課さぬよう行政指導 しており、同様の理由から教員採用試験では大学での成果を試す内容が出 題できないという。更に、教員養成カリキュ ラムさえ専門科目のスリム化が進められており、かわりに教育心理や道徳 教育などを学ぶらしい。一方、旧来理学部などで専門を修めた者が教師になる 例も多く重要だったと考えられるが、近年文部省はこの道も狭めている。複数 の教授から聞いた話では、このような制度の結果、各県でひとつくらいは教員 養成に特化した私立大学が現れており、4 年間を教採模試にあけくれて教科の 深い理解もないままに教壇に立つ教師もあるという。
このような文部省の 教育課程その他の制度 改変の結果、近い将来小中高において理科・算数・数学をこれまでの程度で教 えられる教師は稀有な存在となるだろう。改善計画を策定しても、そのカリキュ ラムを小学校で施行してから 20 年以上は、影響を除くことはできないと思わ れる。この間に教育の 塾への依存が更に進行し、教育の機会均等が大きく損なわ れるであろうことを私は心配する。教育とはそもそも個人が育つ ことの手助けであり、そのために良いものを伝え自立を助けることが本質と思 うのだが、文部省の方針はそのどちらも放棄したかのようである。本来先生を質も量も充実させることが正攻法であろう。政 府あるいは大蔵省がこれを長年認めてこなかったのが原因とすれば、彼らもま た責めを負うべきである。もはやイデオロギーの時代ではなく、国旗や国歌論 争で国民を不毛な議論にまきこむ愚を与党がおかしていることには、耐えがた い絶望を感じる。このために文部省と現場の教師の間のコミュニケーションが 取れず、教育政策が現実的対応からはなれていることが、今日のように問題を 深刻にした原因の少なくとも一つであると考える。
数学教育世界会 議が今年幕張で開催され、浪川 教授(日本数学会前理事長、名古屋大学)が Can College Mathematics in Japan Survive ? a Project of Reform の題で報告を行 う。国際的な場において現状が討論されることは、教育と研究の政治からの独 立を保つ為に大事なことである。あいつぐ改変のため、残念ながら日本の現状 は国際的 に見ても問 題あるものに思われる。これが広く明らかになれば、日本の技術神話もく ずれ、600 兆円の借金を抱える日本経済の今後にも直ちに係わるのではないか。私は 役にたつばかりが教育であってはいけないと考える者ではあるが、愛知万博 のように外から言われてみっともない馬脚を出すであろうと思い心配であ る。
内閣 および総務庁 がす すめる「改 革」の下での国立大学 の法人化(通則法の下の独立行政法人化)も、学費の値上 をは じめ さまざまな問題を内包しており、非常に心 配だ。通産省も大学を打ち出の小槌以上には見よう としない。このままでは上手くいっても単に大学が天下り 先と利権の対象にされるだけで、教育研究の環境整備は二の次にされるだ ろう。私は国立大学の独立行政法人化に強く反対すると共に、単に「小さな政 府」にすれば良い式の安直な改革に強く反対する。ニュージー ランドやイギリスなど、すでに失敗した手本があることをちゃんと参考に しているか大いに疑問だからである。マスコミもこれらの事例についてもっと 報道してほしいものだ。
生きている内に、旧ソ連のように?日本が崩 壊しないよう、政府の担当者は今からでも心を入れ変えて、くれぐれも経済万能主義や自分の業績のため等のさもしい心で 「改革」を行なわないように希望する。政治家も同じだ。 公共事業こそ再編すべきである。景気回復を待ち望みながら教育でもいじって みるか、では迷惑千万である。
関連して:通産省産業政策局産業技術課の正体(佐藤氏@北大の 情報):上の「試案」のファイルのある URL(12.8 の wget image)は三菱総合研究所(MRI)のサーバーの中 : 通産省が一企業に国中の 大学の評価方法を「丸投げ」したとしたら問題でなかろうか。なお 12 月 8 日現在、通産省の ホームページの中にある産業政策局のページ には大学等連携推進室のことは書かれていない。
イギリスの現状 についての資料=Ensuring Standards, Quality and Accountability:"The Learning Age"(英国 Secretary of State for Education and Employment)より。= 大学評価基準の 一例?
なお文部省中教審中間報告に相前後して、 NHKの番組「教育 Today」(「大学は生まれかわれるのか」, 第1回 : 1999 年 10 月 30 日)が放映されていた。
上の原稿は、当初この NHK の番組の問題点 を指摘する目的のものであったが、 問題の大きさから番組を離れて議論することが適当と考え、 タイトルを変え内容もより充実させたものである。推敲の上、 西村和雄教授(京大経済研究所) 編「分数のできない大学生・3」(近刊)に所載予定。
なお、NHK に限らず、報道各社はよろしく理系人間を多数雇用し、単なるレトリックでない真実に迫る報道をしてほしい。 大新聞でも安心はできない。困ったものだ。
教育問題と大学法人化問題の参考書:
卒業生の修士論文 菊田義規「量子展開環のオシレータ表現に付随する L 作用素」 (1998. 3 修了) jlatex2e
貴重本は、近々本館に移されることになりそうです。
(参考までに、ときどき写っているフィルターは 52 mm 径の Kenko skylight です。)