From owner-he-forum@ml.asahi-net.or.jp Wed May 31 14:01 JST 2000 Received: from ml-dist.asahi-net.or.jp (ml-dist.asahi-net.or.jp [202.224.39.110]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id OAA23356 for ; Wed, 31 May 2000 14:01:37 +0900 (JST) Received: from ml.asahi-net.or.jp (ml.asahi-net.or.jp [202.224.39.111]) by ml-dist.asahi-net.or.jp (8.9.3+3.2W/3.7W) with ESMTP id OAA19808; Wed, 31 May 2000 14:02:06 +0900 (JST) Received: from localhost (daemon@localhost) by ml.asahi-net.or.jp (8.8.8/3.7W) with SMTP id NAA14258; Wed, 31 May 2000 13:58:02 +0900 Received: by ml.asahi-net.or.jp; Wed, 31 May 2000 13:57:57 +0900 Received: (from ml@localhost) by ml.asahi-net.or.jp (8.8.8/3.7W) id NAA33644 for he-forum-outgoing; Wed, 31 May 2000 13:53:30 +0900 Message-Id: <200005310453.NAA33644@ml.asahi-net.or.jp> To: he-forum Subject: [he-forum 956] 静大教職組の意見書 X-Mailer: Mew version 1.94.2 on Emacs 20.4 / Mule 4.1 (AOI) Mime-Version: 1.0 Content-Transfer-Encoding: 7bit Date: Wed, 31 May 2000 13:13:20 +0900 (JST) From: Hiroaki Ozawa X-Dispatcher: imput version 20000228(IM140) Lines: 132 Sender: owner-he-forum@ml.asahi-net.or.jp Precedence: bulk Reply-To: he-forum@ml.asahi-net.or.jp Content-Type: Text/Plain; charset=iso-2022-jp Content-Length: 8492 静岡大学教職員組合は以下の「意見書」を学長宛に提出しました. 自民党文教部会・文教制度調査会 「提言 これからの国立大学の在り方について」に対する意見書 2000年5月22日 静岡大学教職員組合執行委員長     田  中  克  志  1)5月9日、自民党文教部会・文教制度調査会は、党内の行革推進本部幹 部会との調整を経て、提言「これからの国立大学の在り方について」を発表し た(全文は、不二速報第2号掲載)。この「提言」は、去る3月30日、自民 党内の高等教育研究グループによる提言案「これからの国立大学の在り方につ いて」が自民党文教部会・文教制度調査会合同会議で承認され、その後自民党 の行政改革推進本部幹部会においても了承されたものであるが、今後、政調審 議会などでの検討を経て、党としての「提言」がまとめられる見通しである。  なお、文部省は、この「提案」がだされたことをふまえて、文部省としての 基本的立場をまとめ、国立大学学長会議を開催する予定とされているが、これ が5月26日と決まった。  2)この「提言」は、国立大学を独立行政法人化するにあたって、「独立行 政法人通則法を100%そのまま国立大学に適用することは、大学の特性に照 らし、不適切」であり、「基本組織、目標・計画、評価、学長人事、名称の5 点については」、「大学に対する国の関わりと大学の研究教育の特性との調整 を図る観点から」、「通則法との間で一定の調整を行う調整法(又は特例法) といった形で、法律上明確に規定すべきである」と述べる。また、「なお」書 きとはいえ、「国土の均衡ある発展の観点から、地方の国立大学が地域の産業、 文化の振興などに果たしてきた役割を十分評価し、その維持強化を図るべきで ある」とし、「国立大学が、基礎研究や、社会の需要は乏しいが重要な学問分 野の承継、発展において果たしてきた機能についても、一層強化すべきである」 とも指摘する。  こうした一応の配慮にもかかわらず、この「提言」の核心は、「国際的競争 力を高め、世界最高水準の教育研究を実現する」という学術研究や高等教育政 策を完遂するには、「国の意思を法人運営に反映させうる」独立行政法人制度 を「大学の特性に配慮しつつ」活用することが「適切な方法」であるとすると ころにある。  3)この「提言」は、国策として「21世紀を輝ける時代とするため、『教 育立国』と『科学技術創造立国』の2つの目標」を掲げつつも、「わが国の科 学技術の遅れに対する危機感、焦燥感」から、「戦後、画一化され」、「研究、 教育とも必ずしも十分に満足できる状況とは言いがたい」という国立大学に対 する認識のもと、「国際的な競争力を高め、世界最高水準の教育研究を実現す る」ために、「国立大学を護送船団方式から脱却させ、より競争的な環境に置 く」べきものとする。 そして、この「競争的な環境」のなかで、国立大学は「選別と淘汰」を避け られず、「学部規模の見直し」、「国立大学間の再編統合の推進」が提起され る。そして、「画一的で、総じて個性や特色を失いつつある」国立大学を「様々 なタイプの国立大学が併存するような姿に変えていく」とともに、「真に世界 的水準の教育研究の遂行を目指す大学を中心に大学院に重点を置く方向で、研 究組織の編成を見直」し、そのため「公的投資も、欧米諸国並の水準に拡充す べきである」とする。そして、こうした「世界的水準の教育研究の展開を目指 すような大学」においては、「競争的環境の整備の一環として、教員の任期制 の積極的な導入」をし、「若い教員にも多くのチャンスを与えるとともに、厳 しい選択を経て、真に優秀と認められる教員にテニュアを付与するような開か れた教員人事の在り方」の検討をも説く。  他方、「競争的な環境」のなかで、勝ち抜くために、「執行の最終的責任者 たる学長が、様々な場面でリーダーシップを発揮しうる権限と体制を確立すべ き」であり、そのために、全学選挙による「学長選考を見直し」、「現状の教 授会中心の運営の在り方を抜本的に改めるべき」とする。このことは大学にお ける教育にも反映し、「自ら未来を切り開く先駆的な精神と、社会や国家への 貢献、さらに世界への貢献という高い使命感を持った真のリーダー」を育成す るという視点が重要とであると強調する。  4)しかし、かように理解し得る「提言」には、様々な問題を含んでいる。  第1に、高等教育政策の目標として標榜されている「世界最高水準の教育研 究」の実現には膨大な教育・研究上の裾野が必要である。しかしながら、この 「提言」は、「様々なタイプの国立大学が併存しるような姿に変えていくべき である」とし、「学部の規模の見直し」、「国立大学間の再編統合」をあわせ、 一部の国立大学のみを少数精鋭的に「研究重点大学」として編成することを意 図している。これでは、研究機能の減退を免れ得ない地方の国立大学は、これ までに「地域の産業、文化の振興に果たしてきた役割」すら果たせなくなって しまう。  第2に、「世界最高水準の教育研究」の実現が「選別と淘汰」という弱肉強 食的な競争原理によって達成しうるという競争主義信仰がみられる。ここには、 大学及び研究者・教員が「切磋琢磨」し、わが国の大学における研究・教育全 体の水準向上をめざし、これの基盤整備を国が責任を持って行うという視点が 欠落している。また、「競争的環境の整備」とされる任期制の大幅導入は、生 活の不安定な、成果を挙げることのみに汲々とする視野の狭い若手教員・研究 者を増やしてしまう恐れが多い。  第3に、「全学選挙による学長によって選考が行われる結果、必ずしも適任 者が学長に選ばれない」とか、学部教授会の「自治」が「大学改革の前進に大 きな障害」となっていると論じるがごとく、大学構成員による自主的・自律的 な大学運営、すなわち大学の自治に対する敵意にも似た発想がみられる。  第4に、国策のもと、強大な権限を有する学長からのトップダウンによる管 理下で、自主性・自律性の認められない、精神的に抑圧された教員・研究者か ら、自由で、独創的な発想・研究は生まれようがない。この「提言」には、学 問の自由という言葉すらみられない。  第5に、この「提言」が指摘する「豊かな教養、優れた想像力、高い倫理観、 自立した精神、健全な社会性」のある「人づくり」は、「競争的な環境」や 「選別と淘汰」によってではなく、大学教育のみならず、初等教育から、教職 員の自律性・自主性を尊重する教育制度があってはじめてなしうることである。 この「提言」はこの点の認識が不足しているといわざるを得ない。 第6に、国立大学においても、この「提言」が指摘するように、欧米主要国 に比して「極めて低い水準」の高等教育、学術研究に対する公的投資のもと、 さらに格差的な人的・物的整備によって、実態としては、すでに一部の研究重 点大学と多数の、研究・教育も満足にできない大学に振り分けられているといっ ても過言ではない。この格差を前提に、あるいはこれを解消しないままで、競 争的環境に置かれれば、大学が個性化・多様化されて「序列意識の解消にもつ ながる」というのはあまりにも実態を無視した楽観的な論調といわざるを得な い。「序列意識」はますます助長されよう。  第7に、この「提言」は、「わが国の大学制度は、歴史的な経緯の下に、国 立、公立、私立の3つの形態が併存し、それぞれの性格に応じて、特異な領域 を伸ばしつつ、また、時には競い合いながら発展してきた点に大きな特徴があ る」と評価し、「わが国の大学制度の多様性で柔軟な構造自体は、今後とも基 本的に維持されるべきである」と提言する。しかし、他方で、「国公私立合わ せて600を超す大学が、画一的な大学である必要はない」とか、「戦後の国 立大学は、総じて個性や特色を失いつつ」あるとか、指摘し、矛盾に満ちてい る。 第8に、この「提言」は、「国立大学を国から独立した法人を与えること」 により、「大学運営をめぐる日常的な国の規制が弱まる点も、教育研究の遂行 上、メリットが大きい」と述べつつも、「国は、主として国費で運営される国 立大学については、国が、その運営や組織編成の在り方に対して、相当の関わ りを持つことは当然であ」ると、矛盾したことを説く。また、「護送船団方式 から脱却させ、より競争的な環境に置くためには、国立大学に国から独立した 法人格を与えることの意義は大きい」となると、独立行政法人化により、すで に指摘した競争主義の弊害が増幅されることになろう。  つまるところ、この「提言」は、「大学の教育研究の特性」に配慮するとし つつも、はじめに「行政改革」、「国立大学の独立行政法人化」ありきであっ て、これが「わが国の科学技術の遅れに対する危機感、焦燥感」に支配された 「高等教育政策」によって粉飾されており、「強い警戒感と不信感」を禁じ得 ない。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 静岡大学教職員組合 tel & fax 054-236-0173 suu@jade.dti.ne.jp http://www.jade.dti.ne.jp/‾suu/index.htm □□□□□□□□□□□□□□□□□□□