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佐武一郎先生
から長谷川宛のメッセージ
バークレー発、1999 年 11 月 19 日付
長谷川様、
ローマ字で書きますが悪しからず。
字. 漢字カナ表記は長谷川による.}
E メールどうもありがとう。
数学教育の問題は色々の要素があり、複雑ですが、よく分析されたと思います。
小生は数学者は (あまり色々な配慮はせず) essential なことをなるべく
ストレートにシンプルに抽象する方が良いと思います。
以下小生の考えを少し書きます。
-
よく人は「易しくすれば判りやすくなる」といいますが、これは明らかに
トートロジーで無意味である。
- 数学を判りやすくすることは勿論大切で、数学者も文部省の役人も政治
家も真剣に考えなければならない問題である。
-
数学の面白さ、数を数えること、計算すること、図を書くこと、更には証明する
こと、等 それぞれの段階で実際にその経験を通して数学の面白ろさをわからせる
ことが一番大事だと思う。
九九を覚えさせることは絶対に必要。それによって計算ができる喜びを知ることが
できる。
-
数学のひとつの面白ろさは、ステップ・バイ・ステップにやさしいことを積み重ね
てゆけば難しいことも判るところにある。このような論理性を身につけることが
大事で、その為には国語(日本語)をしっかる教えること、論理的に物事を説明する
力をつけさせることが基本だと思う。
-
数学の概念にはところどころ大きな飛躍がある。例えば、算術の問題を方程式で
解くなど最初の飛躍である。高校の数学について言えば、一般の自然数 n を
扱うことが多きな飛躍である。これによって、数学的帰納法、二項定理、 の
微分、等が一挙にできるようになる。これが高校の数学の一番の山だと思う。
-
文部省の「指導要領」なるものは今述べたような数学の面白ろさ(数学の一貫性、
相互の関連、飛躍の大切さ)を全て無視して、ただ項目の操作だけによって作られて
いる。例えば、多項式の微分は 3 次式までにせよと言った、愚劣なことが書いてあ
る。(3 次式より n 次式の方が簡単なことに気がついていない!)
また、数学的帰納法、二項定理、 の微分などはお互いに関連しているから、
まとめてやれば判りやすいのに、分散させている。また をやる代りに、
(a は実数)などをやらせているのも理解できない。
-
要するに、易しい基礎的なことに時間をかけてしっかりやること ( の微分など
やめて の微分をわからせること)、 数学の一貫性、相互の関連、を大事にし
て、注意力を集中させるようにし、(応用上大事のことでも)本筋からはずれた項目は
できるだけ省略するようにしたい。
-
以上のように、ナンセンスな「指導要領」は全国の高校、大学で一致して無視し、
入試問題などももっと自由に作れば、自然に学生の勉強方針、教科書の書きかた、
先生の教えかたも変ってくるのではないか。勿論、そう簡単にはいかないでしょうが、
大学や学会がもっと強く、文部省の天下り的(場当り的)方針を強く批判すべきだと思
う。
大いに頑張って下さい。佐武一郎
Koji HASEGAWA
Sat Dec 18 14:18:24 JST 1999