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2000 年 6 月,「数学セ ナー」書評原稿(2000.6.10)

``中学生の教科書-- 美への渇き -- ''
小林昭七ほか
四谷ラウンド(1400  )

「中学生の教科書」のタイトルの下に, 「何を何のために学ぶんだ」という帯がまか れている. 中学生に学問とは何かを語ろうという本である.

帯の主張のとおり, 中学生とかぎらず, 何を何のために学ぶのかはもっと考えられて良いだろう.「あとで必要だから」の 言葉で今を削られるのは, 楽しいことではない. しかし, 伝える側に は良いものを伝えたい思いがあるはずだ. だとしたら, それはいったい何か.

とはいえ短期的なゴリヤクでない「何のためか」を自分のことばとして持つことは, 実は大変なことだと思う. 個人の経 験は限られている. 適当な語り部がいれば話をきいてみたい.この魔ノはそんな「渇き」に応えようという, 明確な意垂ェ感じられる. 数学について, 小林昭七先生がお書きである. 少し引用. 「数学は単純であるから普遍性がある. 日常生活でも似たようなことがいえる. 包丁ひとつあれば, 菜っ葉も刻めるし, 大根の皮もむける. しかし(中略)単純と いうことは易しいということではない.」 柾曹フテーモヘ美であるが, 数学の美をどう伝えるか.先生は ``畳 きの問題" をとりあげて(矢野先生の文庫本で見た覚えがあり, 評者にはなつか しかった), すっきりわかるとはどういうことかを説き, またギリシャの 3 大問題をあげて論証の文化を強調されている.

本書は, 他に吉本隆明・宗茂・多田富男・大橋良介・W.カリーという人々の文章から なる. 同名で, 「死を想え」 の過激な 副題をもつ一冊目が昨年末に出ていて, この本は続篇. 一冊目には 野崎昭弘先生 もお書きである. (その中のツルカメ算の思い出話は, 良い話である.) 二冊とも卒直な潔さが感じられ, 多少の乱調とともに椎名林檎に通じる(?)かもしれない. 書店では哲学書のコーナーにも置かれ,版を重ねているようだ. 大人にも面白くなくては子供に 勧めてはいけないだろう. さらに三冊目, そして読者の感想文もこれから本に編まれる予定という. 数学について,中学生からどんな感想が出てくるだろうか.

なお 小林先生には「 の数学」「微分積分読本」の近著があり, 最近の「数学のた のしみ」にも御自身の体験を綴っておられる. 奥様によれば, お天気の日には庭で光線の向きととも に場所をうつしながら執筆されるのだそうだ. 「微分積分読本」には「1変数」とあった.こちらの続篇「多変数」も待ち遠しい.

長谷川 浩司(はせがわ・こうじ, 東北大学)





Koji HASEGAWA
Thu Jul 27 19:16:55 JST 2000