「新・東京都立大学改革計画2000」(案)                                      6月13日 総長 T.前提的諸事項 1.本計画の性格と今後の進め方  「東京都立大学改革計画2000」(2000年2月29日評議会承認、以下「改革計画2000」とよぶ)は、この秋に都において策定される予定の「東京構想2000」(50年後を見通しつつ、15年後の東京のあり方を構想する)の中に東京都立大学政策が位置づけられることを戦略的課題として策定されたものであった。「改革計画2000」は、そのような長期的視野にたった場合の本学の将来の姿を全体として構想したものである。  本計画は、「改革計画2000」において述べられた改革諸課題のうち、当面取り組むべき重点課題を整理したものである。但し、2月以降の新しい状況に対応するために、「改革計画2000」に対する補足及び修正を含む。  本計画に基づき、各項目の実現に向けて具体的な計画を策定し、学内調整と内部努力でできることは積極的に取り組み、他大学・関係機関との調整を要するものについては状況を見極めながら、設置者との折衝を進めていく。 2.本計画の目標  本計画は「社会に開かれた大学」を目指す改革を主たる目標とし、次にあげる3項目を重点課題とする。 2.1. 社会との連携を担う機関及びそれを背後で支えるための研究教育機関の新設ないし拡充(重点課題1)。 2.2. 大学生が「出口」で評価される時代の到来に対応するための学部教育改革(重点課題2) 2.3. 初等教育から高等教育までの全教育体系の改革を促しうるような入試改革(重点課題3) U.社会との連携(重点課題1) 1. 高度専門教育大学院の新設 1.1. 人文科学専門コース  人文科学研究科院生教育部にいくつかの専門コース(修士課程のみ、または修士課程及び博士課程)を設ける。 1.2. ロースクール  法学政治学研究科院生教育部内の1専攻として、法科大学院(ロースクール、修士課程)を設置し、現在司法制度改革審議会等で検討中の法曹養成制度改革に対応した「法曹養成コース」と、企業法務等実践的な法律専門知識への社会的需要に対応できる「企業法務コース」を設ける。昼間だけでなく夜間も開講し、都心キャンパスをめざす。ビジネススクールと連携することをめざす。法科大学院設置基準の内容に応じて定数増が必要になることもありうる。 1.3. ビジネススクール  経済学研究科院生教育部に、主として社会の第一線で活躍する社会人のリフレッシュ教育を目的とする、夜間もしくは昼夜開講のビジネススクール(修士課程及び博士課程)を設置する。そのために、都心に十分なキャンパス(研究室、教室、図書室等)を確保することを絶対的な条件とする。ロースクールとの連携を特色の一つとして打ち出し、「企業経営や法律実務等に関する実践的なコース」(「危機突破・戦略プラン」)の社会的需要に応える。 1.4. 公共政策学院  分権化時代の国・自治体職員の政策形成能力育成を主たる目的とする、夜間もしくは昼夜開講の公共政策学院(修士課程及び専修コース、専攻としては、たとえぼ都市政策専攻、社会福祉専攻等)を、都心にキャンパスを確保して新設し、主として都市科学研究科がこれを支える。 1.5. エンジニアリングスクール 科技大及び都立の工学系高等専門学校との連携により、都心キャンパスを確保して、主として社会人のリフレッシュ教育を目的とする夜間ないし昼夜開講のエンジニアリングスクール(修士課程)を設置する。 2.都市に関連する研究の充実  都市及びその後背地、またこれらを取り巻く社会的・自然的環境を総合的に研究教育し、研究成果を社会へ還元するための体制の構築を、設置者が「都」である本学の最大の特色として位置づける。 2.1. 都市研究所の拡充  東京に代表される大都市に関わる問題の実践的なプロジェクト研究組織としての機能を持つ都市研究所を、社会との接点に位置する研究機関として位置づけ、大幅に拡充するとともに、全学で支援する体制を構築する。専任研究員、兼任研究員及び学外からの客員研究員を中心に研究体制を組威し、学外の諸研究機関及び地域との連携を推進する。 2.2. 都市科学研究科の大幅な拡充  既存の都市科学研究科を大幅に拡充する。この研究科は、国際的視点に立脚して、都市及びその後背地、またこれらを取り巻く社会的・自然的環境を総合的に研究教育する機関として位置付け、都市研究所との密接な連携を維持する。規模は5〜7専攻程度を想定、総合性の観点から文理融合の組織とする。研究科の名杯の変更も検討する。 2.3. 都市科学研究科に対応する学部  都市科学研究科に対応する学部の新設問題は、今後引き続き検討する。 3.フロンティア・センターの新設−産学公連携の拠点−  産学公連携による産業活性化支援のため、フロンティア・センターを新設する。学内の研究の中から産業化に貢献する可能性のあるものを移管して研究を行う戦略研究プロジェクト部(ERI)と、学外に対して研究受託・共同研究・起業支援・コンサルティング等の窓口枚能を持つインターフェイス部から成る。専任教貞及び相当数の専門家により組織する。 4.統合先端科学研究稗の新設 4.1. 21世紀の基幹産業として期待される最先端の科学技術分野(生命科学、環境科学、新物質機能科学、情報科学、…等)を重点的に取り上げて、統合的に研究を行い、フロンティア・センターを通して成果を社会に還元するとともに、新産業創出を担う人材の育成を行うことを目的として、統合先端科学研究科を新設する。 4.2. 統合先端科学研究科に村応する学部  統合先端科学研究科に対応する学部の新設問題は、今後引き続き検討する。 V.学部教育改革(重点課題2) 1.基本方針                        一方における社会の複雑化と学問の高度化、他方における青年層の未成熟傾向の深刻化をふまえ、高校教育との接続に留意しつつ、インテンシブな教育を行って、現代社会を生き抜くための基礎学力、知的創造力、幅広い教養とヒューマニズムの精神、複雑化する社会を多角的に観察しうるための専門的知見を備えた人材を育てることを基本目標とする。その際、特に重視することは、単なる専門的知識の保有者ではなく、他者と協働し共生する意欲を持ち、その方法を身につけた公共的人格を育てること、広く世界の中に自己を位置づけ、人間関係的能力(コミュニケーション推力、協調性、リーダーシップ)を身につけて、組織や地域社会の中で行動することのできる人材を輩出することである。 2.一般教育(=創造力開発教育+基礎学力教育+教養教育) 2.1. 創造力(想像力・統合力・展開力)開発教育−少人数ゼミ−  ここでいう創造力(想像力・統合力・展開力)とは、与えられた課題を正確にこなすだけの力(受験勉強で鍛えられる力)ではなく、現にあるものを常に批判的に眺めて、それとは別様のものを自由に多様にイメージすることができ、そこから出発して問題を自ら発見し、課題を設定し、課題解決に向けて情報を収集し、調査し、収集した資料を読みこなし、思索し、そして書き、発表し、議論し、反省的に思考する、…、そのような、能動的な知的主体たるための理性と感性の運用能力のことである。何を知っているかという閉じた力ではなく、その時々に知るべき情報、学ぶべき事柄が何であるかを的確に判断し、ただちにそのための行動と思索に志向してゆく開かれた力であり、そうした力を学生同士の協働と競争の環境の中で実現していく人間関係的な能力である。  以上のよう意味での創造力(想像力・統合力・展開力)を育むために、1年次ないし2年次に少人数ゼミを設ける。高年次における専門科目に関するゼミにおいても、創造力開発に資する方式に十分に留意する。 2.2. 基礎学力教育  国際化時代の基礎学力教育として、言語表現力教育、外国語教育及び情報教育を重視する。 2.2.1. 言語表現力教育  上記「創造力」の重要な一部をなす「言語表現力」(大学生に望まれる水準の日本語能力)の育成を必修科目とする。 2.2.2. 外国語教育 (1)英語  国際共通語として実際に運用する横会が多いこと、多くの学生にとって既修であることに鑑み、運用能力の向上を教育の重点目標とする。英検、TOEFL等の資格取得を奨励する制度を導入する。 (2)英語以外の外国語  英語以外の外国語については、外国語の基礎と外国の文化への理解を目標とする。 2.2.3. 情報教育  前提として、コンピュータ・ネットワーク利用環境を整備する。その上で、情報社会で活動するのに誰もが必要とする理論と実習の教育体制を確立する。講義担当者、実習担当者及び支援体制の確保が不可欠。 2.3.教養教育  大学設置基準の大綱化以降に全国の大学で進行した教養教育の縮小・解体に対する反省に立ち、本学では、専門領域の如何にかかわらず、全ての専門人が共通に備えるべき、幅広い視野を有する公共人として生きるためのヒューマニズムの精神を涵養する教養教育を重視する。そのために、いくつかの必修教養科目を設ける。 3.専門教育(=主専攻+副専攻)  専門に関する広い視野を持つ人材を育成するために主専攻及び副書攻を設ける。 3.1.主専攻プログラム  各学科において学士認定に必要な専門科目を主専攻プログラムとして編成する。 3.2. 副専攻プログラム  各学科は、他学科生が基礎的専門科目を体系的に学ぶことができる副専攻プログラムを提供する。学生は所属学科の指示に従って副専攻を履修する。 3.3. 学科または学部横断的主専攻プログラム 社会的需要に応える学科または学部横断的なプログラムを編成し、これを主専攻として選択することができる制度を新設する。たとえば、公共政策プログラム、国際関係プログラム、法経プログラム、比較文化論プログラム、…等を構想し、いずれかの学部において学士の認定を行うものとする。 3.4. 体験学習プログラム  1つのセメスターを海外研修、都庁研修、企業研修、・・・等の「体験」にあて、一定の条件で副専攻と認定する。 4.履修指導体制  個別的な履修、学習上のアドバイスを行う体制(クラス担任制等)を整備、充実する。 5.授業制度改革 5.1. 厳格な出口管理  各年次の終了判定及び卒業判定のためにGPA(Grade Point Average〕制度の導入等を検討する。 5.2. セメスター制の完全実施 5.3. 秋季入学・手業制度の導入を検討する。 5.4.主として社会人を対象とするパートタイム学生制度の導入を検討する。 6.高校教育との接続(高大連携教育)  中等教育と高等教育との不連続、不整合が深刻な問題になっていることに対して、高等学校との連携強化を図る。 (1)都立高校と連携プログラムを組み、高校教育へ参加する。 (2)2006年度から6年制中等教育学校に移行する附属高校と連携して中高大一貫教育のモデルを構築する。 (3)高枚生に本学の講義を聴く横会を提供し、入学すれば正規の単位として認定する。 7.他大学との教育上の連携  多度地区の大学間で、単位互換の推進を図る。更に、講義の共同開講等大学コンソーシアムの可能性を検討する。 W.入試改革(重点課題3) 1.基本方針  知的好奇心が旺盛で意欲的な若者を選抜できる入試方法を大胆に開発し、個性を殺す過度の受験準備教育から高絞生を解放する。      そのために、高位生が偏差値を基準としてではなく、大学における研究・教育の内容の一端にふれることを通じて志望大学・学部・学科を選択することができるようになるための入試方法を開発し、かなりの比重で採用するとともに、従来方式にも改良を加えることとする。 2.AO(アドミッションオフィス)入試 2.1. 高大連携教育を活用する選抜  都立高校と連携プログラムを組み、高校教育へ参加しながら、高校教育の成果に基づいて入学者選抜を行う。 2.2. 科目等履修生制度を活用する選抜 (1)各学部が指定する科目を履修させることにより大学教育を体験させ、その結果と高校教育の成果に基づいて入学者選抜を行う。 (2)科目等履修生制度を活用して社会人を受け入れる制度を検討する。 (3)科目等履修生制度を活用し、高校卒業資格を持たない者に対して都立大受験資格を認定する制度を検討する。 2.3. パートタイム学生の受け入れ 3.従来方式入試の改良 (1)試験科目数を増やす。 (2)重複学力試験(センター試験と二次学力試験)の見直しを検討する。 4.アドミッションオフィスの新設  上記の入試改革を実行するために、専任教員及び相当数の職員からなるアドミッション・オフィスを設置し、(1)都立高校と連携事業の企画・実施、(2)都立大進学プログラムの企画・実施、(3)入試に関する学部間調整、(4)入試に関する調査研究、(5)従来の入試課入試業務、等の機能を担う。 ∨.その他の重点事項 1.大学院部局化−大学の基本組織としての大学院− (1)社会の複雑化と学問の高度化等によって、少なからぬ分野において専門教育が学部4年間では完結し難くなった状況をふまえ、専門教育のターミナルを大学院に設定する。このことに対応して、大学院研究科を大学の基本組織とし、教員の所属を学部から大学院に移す。 (2)部局の単位は、人文科学研究科、法学政治学研究科、経済学研究科、理学研究科、工学研究科、都市科学研究科、統合先端科学研究科とする。 2.組織編成 (1)大学の担う機能を、大づかみに、研究、教育、社会との連携、の3つに求め、組織編成としては、 @大学院研究科=研究部(教員組織)+教育部(院生教育組織)  A学部(学生数育組織)  B連携部(社会とのインターフェイス) とする。 (2)大学院研究科を、教員の所属する研究部と院生の所属する組織である院生教育部に分離し、個々の教員が柔軟に複数の院生教育組織にかかわることができるようにする。 (3)連携部は、   @入試業務全体を管理するアドミッションオフィス   A産学公連携の拠点としてのフロンティア・センター   B行政及び地域社会との連携部門としての都市研究所 等から成るものとする。 3.メディアセンターの設置  図書館と情報システムを一元的に管理・運営するメディアセンターを設置し、専任教員を配置する。 4.管理運営と説明責任 4.1. 運営諮問会議の設置  都立大学の教職員以外の有識者により構成する運営諮問会議を設置し、教育、研究、大学の運営等に関する重要事項について、総長の諮問に応じて審議し、助言又は勧告を行う。 4.2. 評価システム  点検・評価活動による社会的な説明責任の履行を、本学発展の原動力の一つと位置付け、学生による授業評価等を含む自己評価及び大学評価・学位授与機構による外部評価等を積極的に実施する。