NHK の番組「教育 Today」(「大学は生まれかわれるのか」, 第1回 : 10 月 30 日)に感じた問題点

番組の主題は、ここ数年の大学生の学力の急速な低下という問題であった。 この問題に関しては、番組にも登場した西村和雄教授(京大経済)の共著 2 冊 (「分数のできない大学生」「算数軽視が学力を低下させる」) が最近刊行されてもいて、タイムリーな番組ではある。 しかし残念ながらこれらの本の論旨は生かされず、この 問題を大学の問題としてのみ捉え論ずるかのようであったことを特 に問題としたい。これでは現象論にすぎる。性急な初等中等教育の制度変更 の結果だというのが西村教授らの本の重要な論点なのだが、 これは番組でほとんど言及されなかった。

これをこそ議論するのでなくては、問題の源を視聴者が理解し、共に考えること は不可能と思う。番組が主としてとりあげたのは、大学におけるいわば対症療法 の処方箋の書き方の問題のみである。折角西村教授に取材しておきながら、議論 が的を得ていなかったのが残念である。

その後第 2 回・第 3 回が放映されたが、ともに文部省の体質は問題とさ れぬままにおわってしまい、NHK 報道の限界を感じた。大学が悪いという以前 に、適切な投資を怠ってきた政府の公共投資中心の予算配分こそ問われるべき だし、そこまで踏みこむのでなくては本質は変わらないと思う。第 3 回の立 花氏へのインタビューもその点は同じであった。

いわゆる通則法下の独立行政法人化は大学を念頭においたものでなく、 本来中央省庁の天下り機関である各種特殊法人の改革が目的だったはずである。そのため、この法律による法人化によるとき、大学が主務大臣の決定に大いに依存せざるを得ない。これにより理学部などで行なわれている基礎研究に経済原理がもちこまれることも予想され、研究の自主性(あるいは、憲法にいう学問の自由)に大きく反する との問題点が指摘されている。

大体国立大学をたとえ民営化しても浮く予算はたかだか年 2 兆にも満たない。財政再建のためならば年に 5 兆円, 7 兆円と国債を乱発したり、利払いだけで年に十兆円以上が 積み重なる産業構造こそが問題である。予算を伴なわない改革はスケープゴートにすぎない。国立大学は一時の経済よりも崇高な使命があると信ずる。

このような問題は立花氏も御存知ないはずがないと思うが、編集のせいか触れられないままであった。立花氏が東大で非常勤講師をし大学事情に詳しいという紹介とあわせて、ひとり大学のみが問題児であるかのような印象をあたえたのではないかと心配である。

そもそも有馬前文部大臣でさえ、大学への投資が欧米の半分にすぎないと各方面に嘆いていた。番組ではそれにも触れぬまま、第 1 回で「発表論文数は米国の半分」という出典の不明なグラフさえ示していた。投資半分、人口半分で、更に英語の壁があってさえも、論文数が米国の半分に達していると考えれば、現状は十分驚くに足り、不足する努力はむしろ行政側の人・物両面への投資の不足にあると思うが、どうだろうか。(もちろん論文数だけで研究のレベルが測れるわけではないが、あえてその土俵にのるとしてもの話である。)

12月4日(土)21時45分〜22時59分、NHK−BS1の 「BS討論」で、 「独立法人化は必要か〜国立大学の改革」 という番組があるらしい。実際には主務大臣(今のように、公務員削減などの政治日程に大学が左右されやすい状況では、それは労働大臣にさえなるかもしれない)の下の「従属行政法人」と成り下りかねない。これは長期的に国立大学を不安定にし、現在の私立大学平均以下(失礼)に教育・研究環境を悪化させると思う。法人化で大学に寄付が集まるというのも、日本で特にこれからの経済では考えにくい。このような諸問題についてどれだけ切り込めるか、番組に注視したい。(1999. 11. 21)