◆思いやり予算、日本の削減論に反発高まる


 在日米軍駐留経費の日本側負担(ホストネーション・サポート=HNS)、いわゆる「思いやり予算」の見直しをめぐる日米交渉で、米国政府が現状維持を求めて攻勢を強めてきた。駐日公使が各党に直接出向いて米側の主張をアピールするなど、力の入れようは相当なもの。背景には、日本の削減論に対して米国内で反発が高まり、対応を誤ると日米安保体制に影響が出かねないとの危機感がある。加えて、七月の沖縄サミット(主要国首脳会議)に絡めて交渉した方が、日本側の譲歩を引き出しやすいとの計算も働いているようだ。

 フォスター駐日公使らの各党への説明は、今月一日、まず公明党に行われた。

 「HNSは『思いやり予算』ではない。日米同盟とアジア・太平洋地域の安定に欠かせない戦略的貢献だ」

 「日本は米軍駐留コストの59%を分担しているが、その四割以上は土地賃貸料や基地対策費。キティーホークの空母部隊の運用費は一日数億円かかるが、これはHNSに入っていない」

 米大使館ではこのためにパソコン用のプレゼンテーション資料を作成。公使自身がノートパソコンを操作して説明にあたった。

 これに対し、同党の赤松正雄外交・安保委員長らは「今はルールがない。基地内のレジャー施設にも(思いやり予算の)経費が使われている。負担のあり方を見直すチャンスだ」などと削減の必要性を強調した。

 この日の意見交換は平行線に終わったという。米大使館は、自民、自由、民主各党などにも説明する予定だ。

 米側の動きの背景には、米国内で日本の削減論に対する反発が高まっていることがある。

 二日、ワシントンで開かれた日米関係シンポジウムでも、知日派で知られる米上院議員から「日本がHNSを削減するのは重大な誤り」(ウィリアム・ロス共和党上院議員)、「我々は財政事情が厳しくても、日本への駐留を減らしたりしなかった」(ジョゼフ・リーバーマン民主党上院議員)などと、不満が相次いだ。

 米駐日大使館幹部は「このままでは『安保ただ乗り』論が再燃し、日本への風当たりが強くなりかねない」と指摘する。

 こうした懸念は外務省を中心に日本政府側にも強い。「与党にも削減論が少なくない現状では、米側と折り合うのは難しい。今はできるだけ事を荒立てず、総選挙を終えてから決着を図るべきだ」(政府筋)といった声も聞かれる。

 しかし、米側はむしろ、沖縄サミットに絡めて交渉を進めた方が得策と判断している節がある。

 ピカリング米国務次官は、来日中の今月一日、自民党の森幹事長に対して「沖縄サミット前に決着すべきだ」と強調した。コーエン米国防長官も十六、十七両日に来日するが、瓦防衛庁長官らとの会談では、思いやり予算をめぐる議論を中心議題とする構えだ。

 沖縄サミットの成功は日本側にとって至上命題。そのためにも、米国との間で摩擦の種はできるだけ取り除いておきたいところ。こうした日本側の事情を見越して、米側が「サミット前決着」を掲げていることは否定できない。

 日本政府内にも「交渉のテンポが日米両国でずれてきている。しかも、現状は削減か否かに議論が特化してしまい、双方ともいらだちを強める悪循環に陥りつつある」(外務省幹部)と懸念する声がある。このため、「HNSがなぜ日米両国にとって必要なのか、根本的なところから議論を積み重ねた方がよい」(同)との見方も出ている。

(3月5日23:26)


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