研究内容

粘菌の走化性運動を記述するKeller--Segel系の解の長時間挙動の解析を主な研究対象としています. 数学的観点からは, Keller--Segel系は拡散項の引き起こす拡散現象と移流項の引き起こす集中現象という相異なる2つの現象を内包している. これらの現象が複雑に絡み合うことにより豊富な数理構造が期待され, 特に解の挙動の分類に興味を持っています.

非線型の感応性関数をもつKeller--Segel系の解の挙動

走化性の感度の飽和を表す感応性関数を持つKeller--Segel系を対象としました. この系の定常問題は冪乗型非線型項をもつ代表的な楕円型方程式であり幅広く研究されておりますが, 時間発展問題の研究は進展しておりませんでした. 非線型な感応性関数を導入することにより方程式系の持つ変分構造が崩れてしまい, 従来の手法でエネルギー評価が構成できないことに起因します. Fujie-Senba (2016 DCDS-B)・Fujie-Senba (2016 Nonlinearity)では, 空間局所的な質量の流入に注目することで, 空間局所的にエネルギー評価を構築できることを示しました. 特に, 空間2次元において対数型の感応性関数をもつ放物・楕円型Keller--Segel系の爆発解の非存在を導出した. さらにFujie-Senba(2018, Nonlinearity)では, 連立系であるKeller--Segel系を非線型熱方程式の摂動として捉え, その誤差評価を行うことで解が時間大域的に存在するための感応性関数の十分条件を高次元の設定で与えました.

構造的視点によるKeller--Segel系の高次元化

Keller--Segel系の変分構造とTrudinger--Moser不等式・Adams不等式との対応関係に着目しました. Fujie-Senba (2017, JDE)・Fujie-Senba (2019, JDE)では, Keller--Segel系の変分構造を一般化した構造をもつ 新しい方程式系を導入し, 空間4次元における臨界現象を明らかにした. この結果は, 新しい方程式系の解の挙動がKeller--Segel系の解の挙動の高次元化と捉えられることを示唆している.

この研究に関する講演資料はこちら (Equadiff 2017 (Invited minisymposia), Bratislava Slovakia - July 24-28.2017)

非線形拡散項をもつ1次元Keller--Segel系の臨界指数の非存在

冪乗型拡散項 \(\nabla \cdot ( (1+u)^p \nabla u)\) (\(p\in \mathbb{R} \))をもつKeller--Segel系を対象としました. 空間次元\(n\)が2以上の場合には, \(p=1-2/n\)が質量臨界指数であると知られています. すなわち, \(p=1-2/n\)のときには, 総質量の大小によって解挙動が変わるという臨界現象が研究されておりました. これに対し, 空間1次元特有の新しい変分構造を発見することで, 空間1次元において臨界値と予想される\(p=-1\)の場合に, 時間大域可解性と解の有界性を示した. これにより, 空間1次元の場合には臨界現象が起こらないことを明らかにしました(Cieslak-Fujie, 2018 Proc. AMS).

この研究に関する講演資料はこちら (The 12th AIMS Conference on Dynamical Systems, Differential Equations and Applications July 5 - July 9, 2018 Taipei, Taiwan)

様々な生命現象を記述する数理モデルの解の長時間挙動の解析

生命現象を記述する数理モデル全般に興味を持っております。 Fujie-Ito-Winkler-Yokota (DCDS, 2016)では, がん浸潤現象を記述する数理モデルの解析を行いました. 数理モデル固有の数理構造を見つけること, Keller--Segel系の研究手法を適用・拡張することが課題です.

最近では, 大腸菌のパターン形成の過程を記述する数理モデルを研究対象としています. 対象とする数理モデルがKeller--Segel系と類似した変分構造や定常解の構造などを持つことに注目しました. Fujie-Jiang (CVPDE, 2021)では, この数理モデルの解の長時間挙動に関して, 空間2次元で臨界現象が起こることを示しました. 特にこの臨界現象は, 「有限」時刻爆発の有無で分類されるKeller--Segel系の解挙動とは違い, 「無限」時刻で解が爆発するかどうかという新しい形の臨界現象であることを明らかにしました.