供給過剰に不況が重なって, 優秀な大学院生にとってさえも 「受益者負担」が想定したような職は限られている. 幸運な分野以外は, 学位取得者であっても 研究と両立する非常勤の職を探せるだけで 好運とあきらめるしかない. これを自由競争と呼び推奨しても, 優秀な学生ほど研究などすまいと思うのではないか. 大学で優秀な人がいつ現れても良いように教官の席を空けておくこと も, 教育負担が過剰になっていて従来のようにはできない.数学の場合院生数は従来のほぼ 10 倍にはなっていると思うが, 教官は全くといって良いほど増えていないのである.
教官の研究に支障をきたすばかりでなく, 各研究分野の学問的発展に応じた形で後継者を育てるという知的活動の
継承のあるべき形が,
行政上の制約で大きく損われていると感じる. 日本の国立大学はこれま
で欧米の大学と肩を並べうる地位を保っており, これは欧米の半分といわれる投資額
に比べれば驚きに値すると思う[19].