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戦術編

さて、そこで適当な本を選んだとして、ようやく本題。 どのようにして読んだらよいでしょう?

よく「高校のときのように勉強すれば、大学の数学だってわからなくはならない」といわれます。多分そのとおりなのですが、はじめは 本や講義のスタイルにとまどったりしていると、 一年くらいあっという間に過ぎてしまいます。大学に入って、他に考えること、面白いことも多多あるでしょうし...。 何かアドバイスになるとしたら-- まず、よくいわれることですが、 手を動かすこと。微積分のチェイン・ルールなどは 「手が覚えてくれる」もので、そのためには手を慣らせることです。 もっと先にいっても、数学の技術的側面は決してなくなりません。 計算をしてみる、問題を解くというのが大事なゆえんですが、 いざ解こうとしたときにはもうワケがわからなくなっている、 ということも確かにおこります。 そのための予防策は、これも良くいわれるように、 読みながら 要点を書きだしてノートを作っていくという方法があります。

しかし数学の本はすでにその要点を まとめたものとも言えるので、 はじめは写すのとあんまり変わらない気がするかもしれません。 高校までと比べて目標とすることがらも大きくなっているので、 ひとつのことがらをキチンと組み立てるためにある章がまるごと費される、ということもおこり、その間は問題もピンとくるようなのがなかったりします。 (やりかたにもよりますが、たとえば実数、積分、ベクトル空間の次元の定義など。)すると何のために何をするのかがわからず、 ノートを作りながら読むといっても そのうちに不毛に思えてくるかもしれません。

あきらめる前に、まずはひとつのことを理解するのに(何週間とか何カ月とか) 長い時間がかかるのは良くあることだと思いましょう gif。数学の数学らしさのひとつに、原理的には実験装置もなにもなしで、コトの正否が全て自分で 確かめられるということがあります。 数学書の議論(特に、証明)を追うのは、実験を追体験するようなものです。 わかるまで時間がかかるのも、無理のないことではありませんか。

しかし考えずに放っておいても突然わかるようにはまずならないので、 自分がまだ理解していないということを認めるのが第一だったりします。 そのチェックのためにこそ、例や問題があります。 例で理解すれば、証明は読まなくてもとりあえず心配にならない場合もあります。 行列の対角化やジョルダン標準形など、その典型といえるでしょう。

このように、 読んだからといってすぐ意味がわかることにならない、 はじめは読まなくて良い証明というのもあります。 一方で証明には重要なアイデアが含まれていることもあり、 すべてとばすとこれまた何も残らない可能性があります。またとばすにしても、 「これは認めてしまおう」とはっきり自覚した方が精神的にあとを引きません。そこで逆説的ですが、わからなくても気にせずに先の方まで パラパラ眺めてみるというのもありえます。 全体の構成や、やりたいことがわかることで、今とばして良いこと、 わかっておくべきことがはっきりする場合があるからです。 それから現在の場所にもどってみると、 「ここはこういうことか」と思えるかもしれません。 更に、仲間を作って友達や先輩と雑談する、 教えあうというのが、非常に良いことです。 こむずかしく考えることはない、要は「習うより慣れろ」だと言った B教授もいます。 問題を解いてみて安心するとか、人と話していてわかってなかったところがわかったとか、 そういう経験はみんなあるでしょう?

さて、そんなふうに自分の居場所を確認して、やはりここはキチンと消化しようということになったとします。こうなったらある期間集中して、 本で読んだことを自分用にまとめなおしてみる、 問題があればまた問題を解いてみる、というのが、 回り道のようでも逃げられないところでしょう。 ここでもまた、例は大事です。 自分で良い(反)例を作るのは、非常に良い勉強になります。 「こう考えるとここで困る」とか、いろいろ気がつくものです。 そしてできればダメオシとして、 気づいたことを折込みながらもう一度まとめ直すと良いでしょう。 いわば自分用の教科書を書くわけです。 大学院に進み、更に研究というべき段階に進んでも、 面白そうな問題に対してまずはこのようにして 人の理解、自分の理解を整理し、その不十分なところを段々と明らかにすることが基本のひとつです。 ちなみに私の場合、こんな風なことをおぼつかなくも始めたのは 2 年生になってからで、 自分で授業とは独立に魔読んだのは 3 年になってからでした。 更に言うと、何であれ一通り不安がなくなるのは、 自分がその内容を論文で使うか、 あるいは講義などで人前で話してからというのが普通!そして、こういう人はどうも私だけではないようです。 まことに人に説明するというのは勉強になるものです、というべきか? (^^;) そこで仲間で交代で「講義もどき」をするのが「セ ナー」とよばれる活動です。



Koji HASEGAWA
Wed Nov 24 01:23:30 JST 1999