方程式(1)を解くには, 3 次の関数等式を解かねばならないばかりか未知量に比べ条件が極めて多い. 系統的に フュージョンで解けることには意味があると思われた.Drinfeld は Yang-Baxter 方程式を基槙ヨ係式として定義される 代数に余積構造 が入る(表現のテンソル積が考えられる. 模型の原子の数を自然に増やせる)ことから, この代数は群上の関数環の非可換変形 であると認識した. 半単純リー群は群としては変形できないが, その上の関数全体が成す環は `群らしさ'を保ちつつ非可換に変形できるというのが, 非自明な解(R 行列)が意味することである. 関数環の非可換化は量子力学的観測量を思わせ,Drinfeld はこの新構造を 量子群と名づけた. 正確には, 量子群とよぶべき対象と双対的に Drinfeld - 神保の量子展開環 があり, より基俣Iである. 群上の関数環にあたる前者に対し, 後者は単位元近傍での微分作用 素のなす環にあたり, Kac-Moodyリー環 の展開環 の 変形である. 例えば は
で定義される. 余積 でテンソル積表現が作られ, 準同形 が Yang-Baxter 方程式の解を与える. 実は普遍 R 行列とよばれる解の`親玉'が に(無限和で)存在し, 解は適当な条件下では 普遍 R 行列の像である.特に表現の 組 ごとに解はほぼ一意である.
古典力学的戸田格子の方程式が単純リー群の余接束上で 展開環の中心元がきめるハ ルトン流であることは, 70 年代にKostant らにより知られていた.[11] 神保は戸田格子 の差分化をLax 形式で行うのに必要な関係式を調べ量子展開環の定義に至ったのであった. 一方 Drinfeld はこうした変形がどんな群に対して存在するか考察し, 量子群の準古典極限(1次近似) としてポアソン・リー群とい う構造を抽出した. R 行列の準古典極限 を意味づけたと言っても同じだが, これにより既知の戸田格子や Calogero 系におけるLax 形式や高次のハ ルトニアン同士の可換性も明解になった. ただ解 の`スペクトル'変数 の意味が謎めくところだが,その後少くともr 行列については は期待されたごとく一般にリーャ当ハ上の点と思 うべきこと, 更に先走ればr 行列に対応する Lax 行列は, Yang-Mills 方程式の簡約としてHitchin が得た可積分系における `Higgs 場'[12]に他ならないとわかっている.よって R 行列で定まるXYZ スピン鎖などはその量子化 + 差分化とも考えられる.