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高次元へ

Yang-Baxter 方程式は 組紐の関係として, 実 3 次元における実 1 次元の部分空間を 扱うものであった. またアフィン・リー環は 1 次元の変数をもつゲージ群のリー環, あるいは 弦理論における世界面上の対称性という意味があった. これらを高次元化する試みが勿論ある. 例えば, 3 次元格子模型の転送行列を基に考えられたBaxter の四面体方程式がある. 2-category の変形と解されるが, 解の全貌は未知というべきだろう. 他方, アフィン・リー環の n 次元化として複素単純リー環を n 変数ローラン多項式環へ係数拡大し 中心拡大した所謂トロイダル代数があり, 中心拡大の分類や q 類似も知られている. 2 変数のときは単純特異点の理論の拡張の観点から現れた 斉藤の楕 ルート系に関連して調べられていたが, その q 類似が格子模型においてアフィンリー環と Hecke 環対称性とが 生成する代数として現れ, また実 4 次元における共形場理論の類似にも現れるという. アフィン・リー環の頂点作用素表現の類似もあるが,最高ウェイト加群の理論は良い三角分解がなく困難である. 佐藤理論[2]の高次元化でも同じ困難があったところで, 新たな原理の必要を感じさせる.

Yang-Baxter 方程式は(岩堀の,Cherednik の,...)Hecke 環とも関係した.Hecke 環はある空間上の 束全体に働く対称性の環として一般化され, Lusztig や柏原・谷崎らによりアフィン Hecke 環や 量子展開環(の半分)の 構成に(旗多様体上で) 用いられた[28].一方中島はインスタントンの解空間と関係して 曲面上の Hilbert 概形の Hecke 環を研究し, アフィン・リー環が現れることを発見した. 共形場はモンスター群のムーンシャイン現象とも深 く関わり, テータ関数など一重の無限積が出てくる世界を成していたが[3], これが2重(以上)の無限積 へと繋がっていることがM 理論の進展で明らかになった:Borcherds, Grichenko, Nikulin の一般 Kac-Moody 代数の分母公式, Moore - Witten らによる Donaldson 不変量の母関数等 [29]. 中島の研究 もこの文脈で S 双対性の理解を 目指したものだが, アフィン・リー環の現れる理由は不明だという[30].



Koji HASEGAWA
Thu Aug 17 14:28:33 JST 2000