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組紐圏(モジュラ圏)の数学

圏論のアイデアの一つは対象間の関係が実在を規定するという ものであろう. 組紐圏は関係を一次元的な文字列でなく, いわば空間における絡み目の絵で記述するのが 自然な世界である[24]. 格子模型における R 行列, 共形場におけるモノドロ ーデータが 典型であるが, その`構造定数'により例えば Witten による Jones 不変量の場の理論的解釈も実際的なものとなる [25].

さて, 有限体上の代数群(Chevalley 群)の有限体上の表現論(モジュラ表現論)は複素数体上と比べ困難な点が多い.Lusztig は, アフィンリー環の表現のBGG 分解 に現れるKazhdan-Lusztig 多項式で有限Chevalley 群の標準的表現の既約成分が記述されるであろうと, 次のようなステップを構想した [26]: アフィン・ワイル群 アフィン・リー環の旗多様体の幾何および表現論 q が1の羃根の量子展開環の表現 有限 Chevalley 群の表現. q が 1 の羃根のとき, 量子展開環の表現論は 種々の構造定数が発散するためにデリケートとなり, 有限体上では 指数写像のテーラー級数の項の分母が発散する等の困難と似ている. これが実際ある意味で 同じ構造だったといえよう. 振り返ると, Baxter の格子模型においてもq が 1 の羃根のときの現象が反映していた. 彼の模型が与える組紐群表現はレベル正整数の共形場におけるモノドロ ー表現と同値であるが, 上でアフィン・リー環と 量子群とをつなぐDrinfeld の圏同値がこれに対応する[22]. 最後の矢印も1995 年までに実現され, 数学内部の問題に対してアイデアが統計力学から来たとも言える. 共形場のモノドロ ーは絶対ガロア群に関する Grothendieck の Esquisse[27]の理解にも示唆的で, Drinfeld の仕事の背景にもなっている.

ところで, Calogero 系の差分化として Macdonald 系が, その固有関数として Macdonald 多項式とよばれる多変数直交多項式系がある[17]. A 型の Macdonald 多項式は 2 パラメータ をもち, では 進代数群の Hecke 環の 佐武同型を, また 微分極限 で対称空間の球関数を再現する. この Macdonald 多項式の内積が 組紐圏の構造から決定されてしまうという Etingof らの仕事がある[14]. 彼らは臨界共形場から Calogero 系を得る方法のq 類似を使い, 絡作用素の交換関係が組紐圏的構造で決まっていることを用い内積公式を得た. この延長上には, カイラル共形ブロックから実の相関関数を得るためのエル ート内積の問題があり, 最近 M 理論がらみで進展があった(Schweigert ら).



Koji HASEGAWA
Thu Aug 17 14:28:33 JST 2000