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受賞者 
  小谷元子 教授  第25回猿橋賞受賞

>>日本数学会 >>猿橋賞

 小谷元子教授が,自然科学の分野で顕著な研究業績をあげた女性科学者に贈られる「猿橋賞」の第25回受賞者に選ばれました.5月28日東京・霞ヶ関・東海大学交友会館に於いて,「女性科学者に明るい未来をの会」(古在由秀会長)より授与されました.同賞は,1980年10月に猿橋勝子博士(地球化学研究協会専務理事・元日本学術会議会員)により創設され,1981年の第一回受賞以来,これまでに25名が受賞しています.

 受賞対象となった「離散幾何解析学による結晶格子の研究」とは次のようなものです.  植物学者のブラウンにより観察された花粉粒子の極めて不規則な運動(1827年)を,アインシュタインが熱運動する分子の衝突に起因するとして数学的な説明を与えてから(1905年),ランダムな運動の数学的研究が始まりました.その一つのモデルとして,単位時間ごとに位置をランダムに変えていくランダム・ウォークが考えられます.この研究で考察するのは,粒子の取りうる位置の集合が,周期的に配置されている場合です.このような配置は,ちょうど結晶中の原子配列と似ているので,結晶格子といわれています.そして,この結晶格子上でアトランダムに歩き回る歩行者を思い浮かべます.ただし,現実の結晶は3次元ですが,この研究では2次元や高次元の一般的な結晶格子を扱います.

 ランダム・ウォークの長時間挙動の基本的な問題は,時刻 n で達しうる位置の平均(大数の法則),平均値近くの分布の様子(中心極限定理),および,平均値から離れた値の分布の様子(大偏差)の三つを知ることです.これまで,このような研究は確率論の観点から行われてきました.小谷氏の研究の特徴は,幾何学と組み合わせ論の立場に立ち,さらに手法として,小谷氏がその開発・発展に大きな貢献をしてきた離散幾何解析学を用いる点にあります.幾何学は物の形を研究する分野であり,組み合わせ論は,いろいろな場合を数え上げる学問です.幾何解析学は,もともと連続的な空間上での微分方程式を,大域的観点から研究する分野ですが,そのアイディアを離散的な空間,この場合は結晶格子に対して適用するのが,離散幾何解析学です.

 中心極限定理は,標語的には「ランダム・ウォークは長時間でブラウン運動に収束する」と述べられます.本研究では,ランダム・ウォークは離散的な空間である結晶格子間を動きますが,長時間で連続かつ一様な空間のブラウン運動に近づいていきます.この連続的な空間は,結晶格子の形に応じて「ひしゃげた」ものになっています.この「ひしゃげた」空間をちゃんとした形にすると,今度は結晶格子のほうが変形します.標準的なランダム・ウォークの場合,こうして得られた結晶格子は,結晶の配置から決まるポテンシャルエネルギーが最小になる配置であること,またこの配置はもっとも対称性が高く美しい形をしていることが,小谷氏によって証明されました.この不思議な事実を示すのに,離散幾何解析学が用いられたのです.

 大偏差の理論では,時刻 n で達しうる位置全体を,n に比例した距離から観察すると,n を大きくしていくにつれ多面体が見えてきます.この多面体を調べるのに,空間の収束理論と組み合わせ論を使います.多面体については,ギリシャ時代からたくさんの研究がなされてきましたが,高次元の場合は今でも結構難しい話題であり,数理科学の広い分野で多面体の研究が行われています.本研究では,この多面体をグラフ理論という,組み合わせ論の代表的分野に結びつけます.なぜグラフが現れるかというと,結晶格子が周期的であることから,この周期性の基本単位に当たる部分を取り出すことにより有限グラフが得られるからです.小谷氏は,大偏差理論に登場する多面体を完全に特徴付けることに成功しました.この多面体はまた,結晶格子を無限遠方から見た図形の幾何を決定しています.

 結晶格子は,結晶の物理的モデルでもあります.これまで述べた研究が,物理的モデルとしての結晶格子にも応用されることが最近分かってきました.すなわち,磁場の下での電子の動きをモデル化した「離散的磁場付きシュレジンガー作用素」の研究です.特に,磁場を変化させるとスペクトルがどのように変化するかが,小谷氏により詳しく調べられました.

 従来の微分幾何学は連続的な図形のみを扱ってきましたが,小谷氏は,斬新な視点で幾何学と確率論,組み合わせ論を深く結びつけ,「離散的な幾何学」「特異性を持つ幾何」という概念を具体化し,画期的かつ美しい結果をもたらしました.これらの業績に対し,猿橋賞が授与されました.



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