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「科学技術創造立国」というにしては, 現在の政策には
問題が沢山ある.我々大学教官がホームページなどで科学の普及に努め, 特に高校生の進路決定にあ
たって資料を提供するなどのことは, もちろん必要だ.
しかし専門家の批判が社会的にうけいれられず, 労働条件の面
でも必ずしも恵まれない点にも問題の根はあり, いわゆる理系離れにも現われているのではないか.
地道ではあっても, 学問的に批判に耐えうる議論を尊重することこそ,
教育・研究を活性化する道である.どうか「混沌に穴を開けて殺す」の愚を犯さないようにと思う[21].
すでに述べたものも含めいくつか提案を記し, おわりとしたい.
- 2002 年の新指導要領実施は凍結する.
- 教師の待遇の改善. すべての段階で 30 人学級を実現すべく, 優秀な先生を多数養成する.
採用では専門的知識を重視し, たとえば
高校教師はかつての旧制高校でのように遇して, 教師の教材研究活動を支援する.
待遇が学位取得者の就職先としても魅力あるものになれば,
オーバードクター問題が深刻になることも防げるだろう.
- 中央教育審議会の委員構成をフランスのように明文化し
[22]
,
委員の選考過程の透明性を高める.
委員は常勤とし, 報告書および議事録は, 全て発表者の個人名がわかる形とする. 答申は学術会議を通じて関係学会にレフェリー(査読)を依頼する.
- 主要な大学に, 教育課程(指導要領)の研究を専門とする講座を設ける.
数学や理科の場合には理学部におくなど, 専門家がいる場所でそのような講座を設けることで, 例えば極端な相対主義に陥ることも防げ,生物学の新しい知見にも対応で
きるだろう. また次項にも関連するが, 日魔ナは統計学も手薄であり増強を垂驍ラきである. -
教育に関する議論の基魔ニなるべき各種統計を充実させ,
制度に特に変更項目があったときは追跡調査を行う.
各国の教育制度とそのメリット・デメリットについて, 全ての分野にわ
たり一般的教育から専門家育成までの総合的調査を行う.
-
教科書の充実.例えば多めの最低ページ数を定めるなどで
ページ数を増やし,教科書への補助も引きあげる. 教材研究の 積を活かし,
説明や例が豊富な魅力ある教科書にすべきである.
各国教科書の邦訳も事業的に進め, 先生の教材研究の刺激を垂
{
アメリカでは, 日魔窿鴻Vアの高校の教科書を教材として使えるよう, 翻訳事業が行なわれている.. -
新たに休みとなった週末に, 家計のための仕事をしている高校生もいる.
このような現実を 済するための給費制度を拡大すべきである.
実情が地方ごとに異なることに配慮し, 国が財政を保証しつつ
教育の地方分権をすすめる.
-
大学および大学院においても学費免除および奨学金
の制度を充実させ, 学費を引き下げる.
若手研究者, とくに学位取得者の身分保証を, 年限を切らない形で拡大する.
せめて博士号をもつ失業中の研究者(大学に籍をおくため, 研究生として納付金を
納めていることが多い)には, 失業手当を支給できないだろうか.
大学院博士課程(特に後期)では, 定員充足率は分野の実体に即し柔軟に考え, 予算に無関係とすべきである.
- 入試科目の最低数を定めるのとひきかえに, 私大補助金を増額できない
だろうか.
- 以上のため, 初等教育から高等教育・研究に至る国の
投資額を欧米並みに現在の二狽ニし, 基礎からの充実を垂.
技術職や研究職の待遇改善にも, 国家的な取り組みを行うべきである.
政府および国会は, ある意味で日本における状況全てを
総合的に見渡す唯一の場であり,
究極の社会教育の場と考えることができる.
これらの場に特に選ばれてある人々は, 与えられた究極の教育の機会の意義を深く肝に命じ,
軽々しく
改革を論じないで しいと思う. 現在国民一人あたり 500 万 以上にのぼる
国と地方公共団体の財政赤字は, 同時に
巨額な利息を生んでいる
{
日魔ノおける科学への嫌悪感についても,
技術専門職の待遇の悪さと,
技術の粋を尽くした
大型事業が往々にして不透明な意思決定に隷属していることが
無視できないと思う.
.
仮に年率を 0.5%とすれば, 利息総額は
義務教育への国家予算倍増に十分な額であり, 閑散とした道路や空港, 過疎地の下水道などよりはるかに
未来のためであった. 制度変更ばかりで必要な投資をせず, 結果的に教育研究機関をスケープゴートにすれば,
政治の責任は重く, 将来に
過恨を残すだろう.
{
Koji HASEGAWA
Mon Jul 17 22:59:59 JST 2000