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組紐圏(braided category)の数学

圏論のアイデアの一つは対象間の関係が実在を規定するという ものであるが、 組紐圏はいわば一次元的に並んだ文字列ではなく、 空間における絡み目の絵で関係を記述することが 自然な世界である。良い「OS」として使いたくなる一方、それをどのように実現するかで結局伝統的な(文字列の) 数学に戻ることも必要となる。 例えば Witten による Jones 不変量の解釈は共形ブロックの モノドロ ーデータによって実際的になるが、共形場への帰着は経路積分の合理化の問題を含んでおり、 深さが凝縮されているというべきだろう。

さて、有限体上の代数群(リー型の単純群) の有限体上の表現論(モジュラ表現論)は複素数体上と比べ困難な点が多いが、 これについても 量子展開環が示唆を与えるのではないかと期待された。代数群の大家 Lusztig は、表現のいわゆる BGG 分解に現れたアフィン Hecke 環の構造(Kazhdan-Lusztig 多項式)で有限シュバレー群の標準的表現の既約成分が記述されるであろうと、 次のようなステップを構想した: アフィン・ワイル群 アフィン・リー環の旗多様体の幾何および表現論 q が1の羃根の量子展開環の表現 有限シュバレー群の表現。 q が 1 の羃根のとき、量子展開環の表現論は 種々の構造定数が発散するためにデリケートとなり、有限体上では 指数写像がテーラー展開の 一部の分母が発散し定義できなくなる等の困難と似ている。これが実際ある意味で 同じ構造だったといえよう。 振り返ると、 Baxter の格子模型においてすでにq が 1 の羃根のときの現象が反映していた。 この模型が与える組紐群表現はレベル正整数の共形場におけるモノドロ ー表現と同値であるが、 上でアフィン・リー環と 量子群とをつなぐDrinfeld の圏同値がこれに対応する。[13] 最後の矢印も1995 年までに実現され、[14] 純粋に数学内部の問題に対してアイデア がはるか統計力学から来たとも言える。 共形場のモノドロ ーは絶対ガロア群に関する Grothendieck の Esquisse の読みかえをも与え、Drinfeld の研究 の動機の一つである [15]。

ところで、 Macdonald 多項式の内積が 組紐圏の構造から決定されてしまうという Etingof らの仕事がある [8]。 Macdonald 多項式は 2 パラメータ (q,t) 付き多変数直交多項式系で、 では Hall-Littlewood 多項式を(これは保型形式論で重要な p 進代数群の Hecke 環の 佐武同型を記述する)、 適当な微分極限 で対称空間の球関数を再現する。 臨界共形場における 楕 曲線上の一点関数の方程式は Calogero 型となるが、彼らはその q 類似として 量子展開環の適当な絡作用素の行列要素として Macdonald 多項式を実現し、絡作用素の交換関係が組紐圏の構造で決まっていることを用い内積公式を得た。 類似の問題で未解決(の筈)のものに 共形ブロックにおけるエル ート内積の入れ方の問題がある。



Koji HASEGAWA
Wed Nov 24 22:21:44 JST 1999