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重点化された大学院研究科の予算は, 基礎部分・教員数比例部分・学生数比例部分か
らなっている [16].
定員充足率が重視され, 大学院生を定員どお
りにとらないと学科運営ができず, 大学院におけるレベルの低下とオーバードク
ター問題が問題となっている.
アメリカでは大学院生の数と予算とは直接比例連動し
ないと聞いている. 供給過剰に不況が重なって,
純粋に研究を志す優秀な大学院生にとってさえも
「受益者負担」が想定したような高給を望める分野は限られている.
そういう幸運な分野以外は, 学位取得者であっても
研究と両立するアルバイトを探せるだけで
好運とあきらめるしかない状況である.
優秀な学生に 2 年または 3 年の期限つきで給与を支給する制度もありはす
るが,
採用された学生でも, 3 年後には路頭に迷いかねない.
これを自由競争と呼び推奨しても,
優秀な学生ほど研究などすまいと思うのではないか.
従来は, 優秀な学生はまず助手として採用され, 軽い義務のもとに給料を保証さ
れ, その間に自分の研究を行うという修行の仕方があった. 弊害もあったかもし
れないが身分の安定は替えがたい利点で, 海外の研究者に羨望の言葉を聞いたこ
ともある.
重点化に伴い教育負
担がふえたことも, 大学教官の職業としての魅力をなくしつつある.
優秀な人がいつ現れても良いように教官の空席を空けておくこと
も, 教育負担が過剰になっていて従来のようにはできない.院生数は従来のほぼ 10
倍はいるのではないかと思うが, 教官は全くといって良いほど増えていないのである.
教官自身の研究にも支障をきたしている他,
各研究分野の学問的発展に応じた形で後継者を育てるというあるべき知的活動の
継承の形が, 行政上の制約で大きく損われていると感じる. 国立大学はこれま
でに欧米の大学と肩を並べうる地位を保っており, 元文相自ら述べているように欧米の半分といわれる投資額
に比べれば驚くに値する筈である[17].
Koji HASEGAWA
Tue Mar 21 14:32:46 JST 2000