瓜屋航太 博士課程学生 

    瓜屋航太氏は非線形 Schrödinger方程式系の 解の漸近挙動について研究を行っています. Schrödinger方程式は分散型と呼ばれる 偏微分方程式の分類に属するものです. ここで分散型方程式とは, 時間に関して可逆であり, 伝播速度が振動数に依存し, 振動数が大きくなるにつれて 伝播速度が限りなく大きくなる波動の伝播を記述する際に現れます.
    非線形分散型方程式の中には, 無限個の保存則を持つ可積分系 であるものも存在し, 数理物理学において重要な役割を持ちます. 解の時間に関する漸近挙動を考える上では非線形性の強さが問題となります. 簡単に言うと, 時間が十分経過した後に非線形性を無視できる状況であれば, 解は非線形項を持たない自由 Schrödinger方程式の解(自由解)のように振る舞い, 無視できない場合の解の振る舞いは, もはや非線形項を持たない自由解では 近似できないということになります. 単独の方程式の場合, 空間次元に応じたそのような 臨界の非線形性の強さが知られています. 一方で複数の方程式からなる系の場合は, 非線形の強さだけでなく, 波の伝播速度を定める振動数の違いによっても, 解の漸近挙動に影響が現れるということが最近の研究で分かってきました. これは質量共鳴現象と呼ばれています.
    瓜屋氏は, このような共鳴が起こるような状況下で, 解の漸近挙動に非線形性がどのように影響を及ぼすかを 明らかにすることを研究の目標としています. また, 非線形偏微分方程式を研究する際に方程式の適切性が 基本的な問題となります. ここで適切性とは, 解の存在, 一意性, および初期値に対する 連続依存性の成立を指します. 解の適切性の成立する正則性の下限を同定する問題においても, 方程式固有の振動数が重要な役割を果たすことが予想され, この観点からの研究も行っています.