小林真一氏の研究は p進 Gross-Zagier 公式についてのもので,
これはよく知られたところとの関係では
ミレニアム懸賞問題にもなっている
Birch and Swinnerton-Dyer予想(BSD予想)との関わりが深いものです.
BSD予想は, 楕円曲線と呼ばれる曲線についての整数論の予想です.
楕円曲線はフェルマーの定理の話の中でも出てくるので
知っている方も多いかと思います.
楕円曲線のの有理点(各座標が有理数になる点)の
集合は群の構造を持つことが知られていますが,
具体的にそれを調べる手法はまだ完全ではありません.
そんな中で, ひとつの研究対象として
楕円曲線の L関数というものがあります.
これは曲線の方程式を各素数 p について mod p で見たときの
情報をまとめることによって定義される関数で,
有名なリーマン・ゼータ関数に似たものです.
BSD予想はこのL関数 L(s) の s=1 での位数
(s=1 でテイラー展開したときの (s-1) の先頭の次数)
が, その楕円曲線の有理点の群の階数
(例えば階数0なら有理点が有限個であることを意味する)
に一致する, ということを予想するものです.
またさらにそのテイラー展開の先頭項の係数が,
その曲線の数論的な重要なデータで記述されることについても
予想しています.
元々の Gross-Zagier 公式は上記のL関数の微分の s=1 での
値を記述した公式であり, それによってL関数の位数が1のとき
BSD予想が正しいことが導かれました.
小林氏の研究は この理論の p進的な類似を考えたものであり,
同じくBSD予想の部分的解決について応用できます.