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黒木のなんでも掲示板2 (0035)

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Id: #b20020125074226  (reply, thread)
Date: Fri Jan 25 07:42:26 2002
In-Reply-To: b0035.html#b20020125061933
URL: NCA00201@nifty.ne.jp
Name: BUNTEN
Subject: 「赤旗」記事について
とりあえず事実関係だけ指摘します。

>そしてさらに困りものなのは『しんぶん赤旗』の一面トップ報道。
>デマを打ち消すための発言のリモート・アドレスが官邸の
>ものであったことだけから、「首相官邸コンピューターから株価
>情報を次々発信」となるのはおかしい。

うち(福岡県)に配達されている版では15面の記事に付属していた
アドレス付き発言(Web上の「赤旗」記事には付属せず)の内容は、
「デマを打ち消すため」とは無関係のものでした。

Id: #b20020125061933  (reply, thread)
Date: Fri Jan 25 06:19:33 2002
Name: くろき げん
Subject: 珈琲掲示板物語

J_Coffeeの株式投資日記」は非常に面白い。

株や経済に興味がない人であってもインターネット・ユーザーであれば誰でもここ数日のあいだに公開された「珈琲掲示板物語」は興味深く読めると思います。

「ニセJ_Coffe」のような輩は本当に困ったものですね。

冷たい言い方になってしまうかもしれませんが、「日銀マンの友人から、公定歩合マイナス0.25パーセントに引き下げるって噂を聞きました」てなデマを信用してしまうような方々が株式投資の勝負に負けて損害を被るのは当然であり、何の問題もないと思います。だから、 degenerate_lifeさんは官邸のリモート・アドレスでデマを打ち消す発言をするという危険を犯す必要は全く無かった。家に帰ってからゆっくり余裕をもってデマを打ち消す発言を書き込めば良かったのだ。

しかし、その degenerate_life さんの行動が責められてしかるべきだとは全然思いません。たとえ degenerate_life さんの行動に軽率なところがあったとしても、人間的に責められることをしているわけではないし、誰に迷惑をかけているわけでもない。

やはり困りものなのは「ニセJ_Coffe」のような輩の方なんですね。

そしてさらに困りものなのは『しんぶん赤旗』の一面トップ報道。デマを打ち消すための発言のリモート・アドレスが官邸のものであったことだけから、「首相官邸コンピューターから株価情報を次々発信」となるのはおかしい。

ちなみにこの掲示板システムを作成するときには記事の投稿者のリモートホストなどの情報などを掲示板ファイルのソースにコメントで隠しておいたりしないように気を付けました。 (管理人は全ての記録にアクセスできる。) その理由は上のよう起こることを恐れたからです。

「インターネット上では匿名性が保障されているので自由に本音を語ることができる」という考え方が広まっているようですが、実際にはインターネット上において匿名性は保障されてません。

普段の生活から分離された「自由なネットの世界」が存在するというのは幻想に過ぎません。普段の生活における発言の自由が拡大されない限り、ネットの世界における自由が本当に拡大することはないと思う。

「自由なネットの世界」を貴重だと考えたいのであえば、普段の生活において風通しの良い発言が自由にできるようにするためには社会的にどのような改革が必要かについて真剣に考えるべきだと思う。

実名で発言したせいで被る不利益の中には責任上当然のものと不当に重過ぎるものがあると思います。逆に発言の責任を取るべき人物が匿名性の影に隠れることに成功したおかげで何のペナルティを被らない場合もある。特に大して悪いことをしてない人物がそういう匿名の人物にひどい攻撃を受けている場合がある。そういう状況のもとにおいて発言者は必要以上に重い責任を負わなければいけなくなります。それは好ましいことではない。

この辺の議論をよく整理して、不当に重過ぎる不利益をどうやって防ぐかを考えなければいけないと思います。これは極めて難しい問題であり、ぼく自身も頭の中が全然整理し切れてません。


Id: #b20020115235029  (reply, thread)
Date: Tue Jan 15 23:50:29 2002
In-Reply-To: #b20011230150210
Name: 労務屋@保守おやじ
Subject: ご紹介ありがとうございます

 黒木先生、私のつたない書評をご紹介いただきありがとうございました。

 一橋大学のOB会は「如水会」ですが、これは同学OBの渋沢栄一翁の命名になるもので、「君子の交わりは水の如く淡し」という漢籍に由来するとか。まさにグラノヴェターの言う"Weak Ties"そのものだと思います。昔の人も、昔々の人も、良くご承知だったのですね。

Id: #b20020112153355  (reply, thread)
Date: Sat Jan 12 15:33:55 2002
Name: はまだ
Subject: もうご存知だとは思いますが
経済の話し相手を探しておられるなら、下のリンク先に行かれることをお薦めします。
(黒木さんの投稿に異論があるのなら別ですが、そうじゃない感じだし)
http://matari.ichigobbs.com/economy/

Id: #b20020112024627  (reply, thread)
Date: Sat Jan 12 02:46:27 2002
In-Reply-To: b0035.html#b20011230144644
Name: NOVO
Subject: 「国債の日銀引き受け」再論

「インフレ・ターゲット付き量的緩和」対「国債の日銀引き受け」再論

現在進行している円安が景気回復にプラスと言うのは賛成だし、金融政策による通貨の供給増加が円安の原因になるメカニズムは知って居ます。しかし円安進行の主な原因は、むしろ中国などの参入で日本の主要輸出品の価格競争力が落ちてきて、その結果、「為替相場の長期的水準は、主要貿易財に関する購買力平価で決まる」その「購買力平価」が円安の方に振れて、1ドル180円と言われる消費物価の購買力平価に近づいて来たからだと思います。

その結果として、「日本の消費者物価は、ドルで測ると低下して、日本の物価高は解消する」。同時に「貿易収支の大幅黒字も解消」して、もう一つの(中期的な)円高要因も解消するでしょうが、素直には喜べません。いかし、これが「長い目で見て、落ち着くべきところ」ではないかなと思います。

いきなり「日銀引き受けによる国債増発」は極端すぎると言うご意見ですが、これは当然、将来の大幅増税と大きな政府を見込んだ話です。

現在「構造改革」で提案されている「生産性が高い、新しい分野」ですが、本家のアメリカのITやバイオのバブルが剥げかかって居るのは脇に置いても、このような分野で活躍するのは、主に「高学歴と高い能力」を持った、恵まれた少数者です。

残念ながら能力の分布から見て、彼らは「少数者」であって、問題はそこではお呼びでない大多数の人々の雇用です。いわゆる「構造改革」では、その部分に関して明確なビジョンが描かれて居ない。「普通か、少し優れて居る程度の人々が、真面目にこつこつ努力を重ねて居れば、恥ずかしくない収入と、職場や世間で相応の尊敬を受けられる」と言う種類の雇用の場は、増えそうもありません。残るとすれば公務員・準公務員か教職くらいしか思いつかない。

潜在需要から見れば、介護・福祉とか教育関連の人手の需要は非常に多いのですが、特に介護・福祉のサービスを必要とする人々の多くにはお金がない。従って、この需給は市場を通じてはマッチさせるのが不可能です。従って、これは何らかの「公的部門」と「税金による所得の再配分」による以外は、必要なサービスの提供と、(その裏側としての)新しい雇用の大量創出は不可能です。

つまり「何が何でも、これ以上税金を払いたくない人々」が求める「小さな政府」ではなく、「増税と大きな政府」しかない、と思います。「日銀引き受けによる国債増発」は、あくまで繋ぎに過ぎません。財源として見れば、「国債と税金」は等価です。「不況下の所得税増税」は別に景気の足を引っ張らないと思いますが、心理的には足を引っ張るでしょう。だから国債なのです。

NOVO
Id: #b20020111063455  (reply, thread)
Date: Fri Jan 11 06:34:55 2002
In-Reply-To: b0035.html#b20011219234035
Name: BUNTEN
Subject: 消費拡大・インフレを起こす

本が買えず、各所で推薦されている本は図書館への入荷待ちのため、まともな勉強はできていませんが、各地の文章を見て回って考えたインフレ政策を成功させる方法を書きます。

読んで最も有効だと思えたのは、
http://www4.justnet.ne.jp/~greentree/koizumi/index.htm
の政策です。

しかし、勤労国民が消費を減らしているのは、政府の政策は、自分の将来を悪くする方向に一貫していると考えているか、よくて混乱していると考えているところにあるように思います。

そうであれば、同じばらまきでも、現行税制下の減税ではいわゆる中堅層以下に対してははした金にしかならないため、上記URL中にある「中立化政策」としての十分な効果を持たないことが予想されます。それなりの一時金を配ったとしても、将来不安が残ったままでは期待されるほど消費に回らないのではないでしょうか。

対して、今までと逆の政策を採る(*)ことで、所得再分配などにより将来の病気などの危険を分散するのを公的に助けるというメッセージを送れば、家計側ですべての危険に備えておく必要が減じるため、貯蓄を減らす(消費性向を増やす)余地が生じます。また、「インフレ政策」が、単なる赤字垂れ流しではなく、正真正銘の景気対策であるということも理解されやすくなるだろうと思います。

これがないまま、言い換えれば激痛政策のトレンド上では、どんな政策が提示されても恐くてうかつにお金を使えないのではないかと思います。一方、激痛政策のトレンドを変えつつインフレ・ターゲットを導入することで、確実に景気回復を図れるだろうと思います。

*注:インフレ目標の提示と同時にばらまき政策を実行。その内容は、消費税減税(というか、税制を増税前に戻す。すなわち、高額所得者の所得税等は増税する。これはいわゆる「ビルトインスタビライザー」の修復にもなる。)と健康保険の患者負担を元に戻す。これ以外の方法では、インフレ期待は生じない可能性が高い。さらに、労基法や派遣法とかも元に戻せば(つまり規制を強化する。労働力の流動化規制は勤労者の将来不安を軽くする一方企業にとっては不利となるが、インフレ策のプラスでその不利を相殺してもらうのである。)もっとよいかもしれません。

P.S.
将来不安煽るだけ煽ってきた一部政府関係者とマスコミは、激痛トレンド死守の守旧派だろな。
自分が死ぬほどの目にあって金稼いでいるのだから他人も苦しむべきだという妬みに支えられた小泉政権が近いうちに崩壊する可能性も、日本の妬み文化が一夜にして消える見込みがない以上、さほど高くない。従って、この種の政策が採用される見通しは、はっきりいってないだろう。m(_@_;)m
かくして、日本発世界恐慌が現実化する。

Id: #b20020110235229  (reply, thread)
Date: Thu Jan 10 23:52:29 2002
In-Reply-To: b0035.html#b20020109022904
Name: くろき げん
Subject: TRICK のノベライズ

トリック the novel』 (角川文庫)


Id: #b20020109022904  (reply, thread)
Date: Wed Jan 09 02:29:04 2002
In-Reply-To: b0034.html#b20011027014121
Name: くろき げん
Subject: TRICK2

宮城県では TRICK2 の第1回は東北放送 1/11(金) 深夜 24:15-25:10 に放映。全11回。


Id: #b20020109013354  (reply, thread)
Date: Wed Jan 09 01:33:54 2002
In-Reply-To: b0034.html#b20011214080841
Name: くろき げん
Subject: 直接対決

『中央公論』2002年1月号で浜田宏一 (内閣府経済社会総合研究所長) は「長期的にみれば、現在の物価下落は、これまで世界水準に比べて異常な高価格国であった日本が、国際標準に近づいてゆく過程なのだ」と言っている野口悠紀雄を「相対価格と絶対価格水準を混同したり、開放経済の下での為替レートの働きを無視するような学生は、マクロ経済学のクラスで及第するかもおぼつかない」と非難しました。

この二人の直接対決がESRI―経済政策フォーラム第5回「デフレへの対応を巡って」平成13年12月3日であったようですね。その議事録を見ると、浜田に限らず、野口は直接にかなり厳しいことを言われています。

例えば、野口悠紀雄の基調講演に対して、深尾光洋は

 2点目は、野口先生のお話ですが、私は野口先生のファイリング方式も使っておりますし、公共経済学なんかは学生にも大変リコメンドしておりますが、今日話された国際経済及び国際金融に関するお話は誤っております。大変失礼な言い方になるかもしれませんが、アメリカの大学院の貿易論の入門書を、1回しっかりお読みいただいた方がいいのではないかと思っております。

と述べているし (議事録の続きの部分に詳しい説明がある)、浜田宏一 (司会者) は

 一番最後に、これは深尾先生と同じですが、野口先生は偉大なミクロ経済学者だけれども、マクロ経済学者として果たしてこれでいいんだろうか。深尾さんの言われたことと同様なことといいますと、一般物価水準と相対価格とを区別しないような学生はまず不合格なのですね。ですから、デフレというのは一般物価水準の話であって、相対価格というのはユニクロの衣料の価格と自動車の価格の関係とか、賃金との関係で、その変化が構造改革の役に立つわけです。コストも価格も全く同じように上がったり下がったりしたら、何かの貨幣錯覚がない限り能率はよくも悪くもならない。だから、物価水準を下げろ下げろというのは幼稚な誤りです。我々が考えるべきことはコストや価格の相対価格を変える。そのために、例えば為替レートがどういう影響を与えていくかを考えなければいけないわけです。 

と言ってます。そして、伊藤隆敏は「深尾先生と浜田先生が過激なことを言ったので、ちょっと別な観点からコメントさせていただくと」と言いつつ、内容的には為替レートが下がることと野口が好きな物価下落を比較して、深尾と浜田の野口批判を補完してますね。さらに、終わりの方のオーディエンスとの質疑の時間で原田泰が野口に対して相当に意地悪な質問をしている。

おおやけの場で「入門書を読め」だとか「学生なら不合格」のような感じで非難されてまともに言い返せないというのは本当に情けないことです。過去の発言のデタラメを誤魔化そうとしているだけ。

でも、本当に必要なことは、論争を観戦している人たちがこの件に関して野口を擁護するのはちょっとやばそうだなと判断するような状況を周囲に作り上げることだと思う。そして、野口の主張に共感してしまっていた人たちが考えを変えるようになることが好ましい。

例えば、クルーグマンのように名指しで変なことを言っている人たちの問題点を面白おかしく指摘した上で、必要な基礎知識の啓蒙を大真面目にやるというようなことが必要かもしれない。 (クルーグマンはあまりにも口が悪過ぎるので真似し過ぎるのもまずいような気がするが。)

デフレについて基礎的なことから易しく解説してある本には岩田規久男の『デフレの経済学』 (東洋経済新報社) があります。現在どのような経済政策が必要であるかについても詳しく説明してあります。

国際貿易に関する最も易しい入門 (特に巷にはびこっている誤解の指摘) はクルーグマンの『良い経済学 悪い経済学』 (日経ビジネス文庫、く-1-1、原題: Pop Internanionalism) にあります。クルーグマンは国際経済に関する典型的な主張を次のようにまとめている:

経済の新しいパラダイムが必要になっている。日本がいまでは、ほんとうの意味でのグローバル経済の一部になったからだ。日本は生活水準を維持するために、きびしさを増している世界市場での競争の方法を学ばなければいけない。生産性を向上させ、製品の品質を高めることが不可欠になっているのは、このためだ。高付加価値産業を主体とするものに、日本経済を変えていかなければならない。将来、職を生み出すのは、高付加価値産業である。新しいグローバル経済で競争力を保つ唯一の方法は、政府と産業が新たな関係を結ぶことである。

(『良い経済学 悪い経済学』の169頁から「アメリカ」を「日本」に置換して引用)

この手の論調は結構みかけますよね。貿易をあたかも食うか食われるかの国家間の生存競争のように描くいつものやつです。しかし、実はこれはクルーグマンが「貿易に関する一般的な誤解の要約」としてでっちあげたものなのだ。これがなぜ誤解に過ぎないのかについて知りたい人は『良い経済学 悪い経済学』を買うべし。気楽に読める非常に面白い本です。


Id: #b20011230153226  (reply, thread)
Date: Sun Dec 30 15:32:26 2001
Name: くろき げん
Subject: ハイパーインフレ 金利はトイチや!!

雑談は重要なので雑談を追加。

しばらく前に本屋で見付けて面白かったのが、週刊漫画ゴラクの2001年11月23日号の表紙。「●大阪激烈金融バトル● ミナミの帝王」の主人公の萬田銀次郎 (高利貸) が目を光らせ、口をかっとあけて、

ハイパーインフレ
金利はトイチや!!

と叫んでいるインパクトのある絵が表紙になっています。

ちなみに、ハイパーインフレはよく「1ヶ月あたり50%を超えるインフレ」と定義されてます。その定義を採用すると、ハイパーインフレ下で十日で一割の金利ならば実質金利はマイナスになってしまうのだ。萬田銀次郎は現在の日本ではマイナスの実質金利が必要なことを見抜いており、クルーグマンの論文もきっと読んでいるに違いないと思いました。 (ウソ)


Id: #b20011230150210  (reply, thread)
Date: Sun Dec 30 15:02:10 2001
Name: くろき げん
Subject: 玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安――搖れる若年の現在』

最近、玄田有史著『仕事のなかの曖昧な不安――搖れる若年の現在』 (中央公論新社、 2001年12月10日) を読みました。

この本は非常に面白い。タイトルだけを見ると全然わからない思いますが、若い世代の雇用問題を様々なデータを用いて分析している本です (各章の終わりに「データは語る」というコラムが付いている)。

各種メディアでは不況に伴う中高年ホワイトカラーのリストラの問題が騒がれてますが、本当に深刻なのは若年雇用の問題の方だということを明らかにしています。「自発的フリーター生活」や「パラサイト・シングル」を非難する論調がある中で、実際には満足できる就職先がないことが問題を作り出していることが示されてます。

長期に渡る不況は世の中をつまらなくする。


Id: #b20011230144644  (reply, thread)
Date: Sun Dec 30 14:46:44 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011230013022
Name: くろき げん
Subject: 金融・財政政策およびその実現性について

1. 金融政策について

インフレ・ターゲットはインフレ率を下げて低インフレを持続させるためには効果があるという主張から、「インフレターゲット付き金融緩和」がデフレ対策としても有効だという結論が導かれるはずがないでしょう。誰もそのような主張はしていません。

今の日本には「ハイパーインフレが起こるぞ!」と恐怖を煽る方たちがいて、実際「ハイパーインフレ」という言葉は結構流行しているように見えます。だから、そういう煽りを信用してはいけませんよと言いたかったのです。 (残念なのは、「煽り」によって収入を得ている人たちだけではなく、良心的な方々まで巷間に広まっている「ハイパーインフレ」説を補強するような発言をしてしまっていることです。)

個人的には、大規模な量的緩和をインフレ・ターゲット抜きでやることはインフレ・ターゲット付きでやることよりもずっと危険だと思う。

金融引き締めと緩和の非対称性に関しては NOVO さんがおっしゃる通りで、各国の中央銀行はインフレ対策に関しては相当な経験を積んでいるし、実際、日銀 (+政府) はインフレ対策に有効な手段を複数持っている。その日銀が「将来のインフレ率をこの程度に押さえますよ」と宣言することは大規模な量的緩和でインフレ率急上昇が起こる危険性を避けるために役に立つでしょう。

あと、「長期国債買い切りオペなどによって量的緩和しても民間経済におカネが流れて行かない」という主張も誤りだと思う。例えば、もしもこのまま円安が固定されるとすれば、 (個人的な意見では不十分な) 量的緩和の効果が出て来ているのだと解釈できるかもしれない。それ以前の問題として、日銀は緩和の規模の面でも市場の期待に働きかけることにおいてもやるべきことを全然やってない点が最大の問題だと思う。その上、金融緩和の効果が出るのはかなり後 (例えば1年程度後) になるので、「効果がない」と今の時点で判断するのは誤りだと思います。

2. 財政政策について

しかし、個人的には、ましな財政出動をするべきだという意見は小泉政権・民社党・社民党などの財政再建至上主義に比べれば圧倒的にまともな考え方だと思ってます。持続的な景気の維持ではなく、景気回復の呼び水としての財政政策に期待するのも間違った考え方ではないと思います。

しかし、いきなり「国債の日銀引き受け」を提案するというのは極端過ぎると思うし、財政出動を提案するならその中身についても多くの人が納得できるような有効な提案が伴わなければいけないと思う。そして、国債発行に伴うリスクについても十分考慮する必要がある。規模の面でも、去年よりは減らさないというレベルから真水で数十兆円のようなレベルまで様々な段階が考えられる。 (財政再建の方針は毎年減らして行くというもの。デフレ不況が続けばかなりの確率で失敗する。)

すでに述べたように、高橋財政の場合でも日銀は引き受けた国債を後で市場で消化してインフレ率の急上昇を防いでいます。現在長期国債金利がこれだけ下がっているのだから、クラウディング・アウトの心配なしに市場で国債は消化できるでしょう。だから、国債の日銀引き受けを行なうことと、国債を市場で消化することに結果的に大きな違いはないと思います (政治的リスクは全然違うが)。国債を市場で消化することは、民間部門で余っている生産力を政府がおカネを出すことによって有効利用するという財政政策の基本的な考え方にも合っている。財政出動をやるなら普通に国債を発行してやれば良いと思います。

国債の累積残高が増加しても、毎年の借り換えや国債利払いが破綻なく持続可能であれば問題ない。だから、政府の債務をゼロにする必要は全くない (ゼロにしなければいけないと誤解している人が結構いるようだが)。一般政府の純債務 (総債務と金融資産の差) のGDP比で見れば日本はアメリカ並であり、先進工業国の中でも悪い方ではない。

しかし、総債務の増加は借り換えや金利上昇に伴うリスクを将来に残すことになるのは確かなことです。この点に関しても冷静な議論が必要だと思います。 (冷静な議論をするためには「日本はすでに財政破綻している」のようなトンデモ説を否定し、 600兆円台という総債務の巨大な金額だけを取り上げて騒ぐような議論には反対し続けなければいけない。ちなみに純債務は200兆円台で日本のGDPは大体500兆円。)

この話は、単に財政出動を提案するというのではなく、支出の中身を含めて議論すれば面白くなると思う。「おカネを節約しろー!」とどんなに叫んでも世の中はよくならない。本当はどう使うかが問題なのだ。

3. 実現性について

小泉首相は国債新規発行枠30兆円という数字に異様にこだわってますよね。小泉首相の「うまいへそくりがあった」発言だとか、来年度予算案でも「隠れ借金」 (特別会計の借り入れでまかなう2兆900億円のこと) による数字合わせを見ると、本当にばかばかしい。純債務の増加と「隠れ借金」という誤魔化しの害だけが残るだけ。そういう誤魔化しによって将来に過恨を残すくらいなら、いさぎよく「30兆円枠という発想は誤りであった」と言うべきだと思う。

また、野党の民主党や社民党も財政再建至上主義に積極的に賛成しているようです。 (不良再建処理についても民主党と社民党は小泉政権を応援したり、もっと速めるように圧力をかけている。) 日本にはましな左派の政治家集団が存在しないというのが本当に不幸なことだと思う。

このような状況下で大規模な財政出動の実現可能性はどれだけあるんですかね?

小泉首相や民主党や社民党が大規模な財政出動に賛成するとは思えない。したがって自民党の“抵抗勢力”の方々に期待するしかないということになる。でも、「小泉首相万歳! 抵抗勢力は潰せ!」という宣伝がこれだけ成功している中でどれだけ期待できるんですかね? そもそもまともなことをやってくれるとは信用できないと思う。

これに比べれば、インフレ・ターゲット付き量的緩和の方は政治的中立性も実現性も高いように思えます。

その最大の理由は小泉政権の公約とインフレ・ターゲット付き量的緩和は矛盾してないからです。竹中経済財政担当相も (なんか勘違いしてそうだが) 一応インフレ・ターゲットに賛成しているようです。

それに、日銀の方針も段々変化してきており、速水総裁の意向に反して、最近も量的緩和の規模を増やしている。

しかし、小泉首相自身は「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」などとトンデモないことを言う方であり、速水日銀総裁の方は日銀はもう限界だと主張し、小泉構造改革を応援する発言を繰り返している。しかもこの両者はインフレ・ターゲットでハイパーインフレが起きるかもしれないと思っているようだ。こちらはかなりのマイナス要因です。

いずれにせよ、世論の支持が重要な条件になると思います。そのためには1990年代の経済政策と現在の経済政策は共に誤りであるという認識が十分広まる必要があると思う。迂遠過ぎるかもしれませんが、これだけはどうしようもないと思います。


Id: #b20011230013022  (reply, thread)
Date: Sun Dec 30 01:30:22 2001
In-Reply-To: #b20011224094719
Name: NOVO
Subject: RE:「インフレ・ターゲット付き量的緩和」対「国債の日銀引き受け」

「インフレ・ターゲット付き量的緩和」対「国債の日銀引き受け」

しかし、様々な国で採用されているインフレ・ターゲットの実績によれば、上がり過ぎたインフレ率を下げるためおよびインフレ率を安定させるために相当な効果があるということがわかっています。

だから「インフレターゲット付き金融緩和」がデフレ対策としても有効だ」と言うご意見ですが、私は現実にデフレに陥ってしまえば、金融政策の効果は、「間接的に円安要因になる」だけで、ここから需給面のデフレギャップを埋める手段としては甚だ迂遠であると考えます。

反対に「インフレを納める手段としての金融引き締め」は即効性があり、これは日本の実績でも証明されて居ます。高度成長期の日本では、好況が続くと(原材料・エネルギーを中心に)輸入が増え、直ぐに外貨が足りなくなった。そこで「公定歩合引き上げ+行政の介入による窓口規制」が行われると、直ちに景気は調整局面と呼ばれた成長の鈍化がありました。

つまり金融政策の効果は、インフレ期の引き締めとデフレ下での緩和で非対称なわけです。

「デフレ下の金融緩和の効果が少ない」理由の一つは「流動性の罠」と言われる現象です。つまりデフレ下では、幾ら金利を下げても(IS曲線が水平になり)実際の投資の増に結びつかない。このことは、私が多年企業内部で、色々な投資計画の立案と推進、後には投資計画の評価に携わった経験でも、良く理解できます。つまりある投資計画の評価の際に決定的なのは「本当に、計画しただけ売れるか?」であり、数%の金利の高低なぞ(全く無視はしないにせよ)ごくマイナーな要素に過ぎません。たとえ金利がゼロ(もしくは数%マイナス)でも、計画した事業の実際の売り上げが計画の30%減なら、確実に損失を生みます。

デフレギャップを早急に埋めるには、お金だけではなく、真水の有効需要が必要で、民間部門で埋まらなければ公共部門の消費を増やすしかない。その財源は増税か赤字公債で賄えるしかないのです。増税は法改正を必要とするし、デフレ下の増税は心理的にもまずいから、消去法的に赤字公債しかない。この公債の市場での消化は(本当はあまりないと思いますが)クラウディング・アウトの恐れと言う心理的なデフレ要因と為りますから、これは避けたい。

残る手段が「国債の日銀引き受け」となるのですが、これとて財政法の修正が必要です。ただし増税と違って技術的細部の準備期間が少なくて済むから、即効性が期待できます。

同じ理由で、デフレ下での減税の効果も、あまり期待できないと思います。

NOVO
Id: #b20011228203355  (reply, thread)
Date: Fri Dec 28 20:33:55 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219150410
Name: かも ひろやす
Subject: 数学的対象の存在論

反応がないので、僭越ながら、数学的対象の存在論の代表的な主張とそれぞれの弱点を並べます。

実在論
数学的対象は実在する
概念論
数学的対象は数学者の思考の中に存在する
唯名論
数学的対象は実在しない

Id: #b20011228132719  (reply, thread)
Date: Fri Dec 28 13:27:19 2001
Name: くろき げん
Subject: 消費者物価指数戦後初の三年連続下落、完全失業率5.5%で過去最悪を更新

総需要不足が原因のデフレ不況の怖いところは、失業せずに済んている大多数の人たちが毎年のように安くなる生活費を嬉しく思っている状況が続いてしまうことだと思う。そのような状況のもとで、デフレが原因で生じている様々な弊害を「日本のシステム」のせいにして「ハードランディング」だとか「ハードクラッシュ」の必要性を説く方々が人気を得ることになるわけだ。 (その手の方々が広めた誤解から目を覚ますためには、岩田規久男『デフレの経済学』 (東洋経済新報社) や野口旭・田中秀臣『構造改革論の誤解』 (東洋経済新報社) を参照せよ。)


Id: #b20011224094719  (reply, thread)
Date: Mon Dec 24 09:47:19 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011224013326
Name: くろき げん
Subject: 「インフレ・ターゲット付き量的緩和」対「国債の日銀引き受け」

NOVO さんは、日銀の金融政策は無力なので、日銀引き受けの国債を発行することが「唯一有効な手段」だと主張してますが、それは誤りだと思います。

1. ただし、グリーンスパン議長ひきいるFRBに比べて、速水総裁ひきいる日銀が何をどう宣言しても、日銀が十分な金融政策を行なうことを信用する人はいないというのは NOVO さんがおっしゃる通りだと思います。

今年のあいだずっと、日銀がさらなる金融緩和策を実施するたびに、日銀総裁は「もう効き目がないから限界だ」という意味のことを述べ、それだけではなく、量的緩和の方針に反対であるという意見を述べ続けています。日銀総裁は本音では、量的緩和に効き目がない方が嬉しい、と思っている疑いさえある。

市場による将来予測 (例えば、将来商品の値段を下げないと売れなくなるかもしれないと予想したり、将来商品の値段を下げる必要がないと予想したりすること、日銀短観に企業アンケート調査の結果がある) への働きかけが重要なファクターである金融政策においてこれは致命的な事態であると言わざるを得ません。

まず、こういう致命的なマイナス要因を取り除く前に、日銀は無力だと言ってしまってはいけないと思います。

2. 実際、日銀はやろうと思えば将来のインフレ率をほぼ確実に上昇させることができると思います。

例えば、日銀が外債の買い切りオペを行なえば為替相場に対する強力な円安圧力になります。 (しかし、日銀の外債購入のアイデアがどうやって潰されたかについては12/20の記事の余談を参照せよ。) 日銀が外債を直接買わなくても、銀行が量的緩和で得た資金を外債などに投資すればやはり円安圧力になる。そして、円安は日本国内の企業向けの需要を増加させ、インフレ率の上昇圧力になります。

国内に限定したとしても、長期国債の買い切りオペを無制限に続けて行けばいつか必ずインフレ率は上昇します。もしも上昇しなければ国債累積残高を何のコストも無しに幾らでも減らせることになる。でも、現実にはそのようなことが起こるはずがない。将来インフレ率は必ず上昇します。

3. あと、日銀が、「長期的な方針として、インフレ率を上げ過ぎないだけではなく、下げ過ぎないようにする」 (例えばインフレ率ゼロを目標にしたりしない) と宣言すること (すなわちインフレ・ターゲットを設定すること) によって、市場による将来予測に働きかけるという有力な手段もまだ実施されてません。

日銀だけでやれることが残っているのに、国債の日銀引き受けという手段に訴えるのはどうですかね。

もちろん、インフレ・ターゲットの設定がデフレ解消のために用いられたことはないので、どれだけ効果があるかはやってみなければわからない。

しかし、様々な国で採用されているインフレ・ターゲットの実績によれば、上がり過ぎたインフレ率を下げるためおよびインフレ率を安定させるために相当な効果があるということがわかっています。

だから、現実に段々規模が大きくなってきている量的緩和によって将来ひどいインフレになることを心配している人たちがインフレ・ターゲットの設定に反対する理由を私は理解できません。もしかして、「○○パーセント以下」という目標ならば良いが、「以下」という言葉を削ってはいけないと考えている???

ちなみに、イギリスは以前は「2.5%以下」が目標だったのですが、現在では「2.5%」となっていて、「以下」という言葉が削られています。イギリスは世界大恐慌の経験からデフレの恐怖を歴史的によくわかっているということなのでしょう。現在の日本は世界大恐慌の経験を全く活かし切れてないようですが。日本も 2.5% 程度のインフレ・ターゲットを設定すれば良いと思うんですけどね。

いずれにせよ、インフレ・ターゲットを設定することによって、日銀が長期的な方針を明確にしておけば、皆が自分自身のお金の使い方の長期計画にそれを組み込むことが可能になります。それは良いことだと思うので、デフレ対策云々とは別にインフレ・ターゲットを採用する価値があると思う。

例えば、皆が「物価が上がり過ぎたり、下がり過ぎたりしないように、日銀は十分な金融政策を行なう」という予想を投資計画に組み込むことが可能になれば、インフレ率が下がり過ぎているときには日銀がインフレ率を上昇させる方向の金融政策を実行することを見込んで投資できるようになるし (実際多くの人がそうすればインフレ率の上昇圧力になる)、逆にインフレ率の急上昇が予想されるときには日銀が金融引き締めを行なうことを見込んで計画を立てることになる。

現在の日銀の方針にある「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上」という一節はかなり不可解です。「安定的に」という言葉がものすごく曖昧なのだ。長期的なインフレ・ターゲットを設定すればそのような曖昧さはなくなります。

(実際には、そういう言葉の曖昧さ以上に、日銀総裁自身が現在の日銀の方針に反対しているように見えるという事態の方が問題が大きいと思う。)

4. さらに、日銀引き受けであっても国債の発行は将来の財政に対するリスク要因になるということも忘れてはいけないと思います。

もしも将来、需要が増加し、失業率が減少し、それに伴ってインフレ率が上昇し始めたならば、日銀は国債を売ることなどによって市場に大量に放出した円を回収して、インフレ率の急騰を防がなければいけなくなります。 (日銀が売った国債は政府の民間部門に対する借金になる。)

実際、 昭和恐慌を終了させることによって、 -10% のひどいデフレを 2% 台の微小なインフレに持って行くことに成功した高橋財政においても、日銀は引き受けた国債の90%を売却することによって円を市場から回収しました。 (岩田規久男『デフレの経済学』(東洋経済新報社)の151-154頁、特に153頁の図4-3とその解説を参照せよ。)

5. 最後に。岩田規久男著、『デフレの経済学』 (東洋経済新報社、 2001.12) は面白い本なのでおすすめ。

経済政策論議と別に岩田による経済学の啓蒙活動はもっと高く評価されて良いと思います。私は、「具体的に何をやるか」という話にいきなり飛び付かずに、枯れた経験則や標準的な考え方や歴史を知ることは思った以上に大切なことだと考えています。 (実際には、わかっていてもなかなかそうできないので、走りながら基本的な知識を次々に仕入れることになる。)

『デフレの経済学』も枯れた経験則や標準的な考え方や歴史について解説する労を厭わずに書かれています。 (でも、誤植は残っている。例えば、 182頁に「債務者 (貸し手) から債権者 (借り手)」とありますが、正しくは「債権者 (貸し手) から債務者 (借り手)」だし、 260頁の「プジェクト」は「プロジェクト」でなければいけません。)

(あと、「IT革命」に関する言説や「ニュージーランドの構造改革の成功」に関する言説などに対する批判的視点が欠けているように見えることも気になりました。しかし、『デフレの経済学』のテーマから外れた話題なのでまあ仕方がない。あと、「IT革命」だとか「サプライ・サイドの構造改革」のようなことをずっと言い続けている方々の主張を不必要に強く非難するのも政治的には逆効果になる可能性もある。)


Id: #b20011224013326  (reply, thread)
Date: Mon Dec 24 01:33:26 2001
In-Reply-To: #b20011220012118
Name: NOVO

RE:インフレ手法

クルーグマンが言っているのは、金を刷れ、ということではありません。

かれの主張は、「日銀が今後インフレ策をとり続けるとアナウンスしろ」と いうもの。また、スヴェンソンは、為替レートの切り下げを中心とした 施策群を唱えていて、あと別の一派があったけれどちょっと失念。

クルーグマンがあれを書いた時点でのアメリカに於ける、グリーンスパン率いるFRBの名声と影響力を前提とすれば、確かにFRBが「今後インフレ策をとり続ける」とアナウンスする効果は絶大で、それで目的は果たせるでしょう。

ところが、今の日銀が口先でそれを言ったとしても「どうやって?」と言う点で納得したくなるような具体策も同時に提示しなければ、それの実現性を信じる人は殆ど居ない。名目金利を殆どゼロにしてしまって居るのだから、今後「日銀として」取れる具体的な政策手段は、実際には残って居ない。従って(1年まえのFRBと違って)現在の日銀が「今後インフレ策をとり続けるとアナウンス」しても、効果はあまりないだろうと言うのが私の意見です。

結局、現在は禁じ手に為っている「日銀引き受けにより赤字国債を発行して、それを財源に財政支出を増やす」と言うのが、唯一有効な手段だと思います。これはかつて高橋是清が蔵相に就任して直ちに実行した方法です。これで昭和恐慌のデフレスパイラルが収束しました。

問題は、この打ち出の小槌的政策が、その後膨張を続けた日中戦争・対米戦争の戦費を調達する手段として定着したことです。

確かに、その結果として市中にたまった膨大な流動性が、敗戦後の日本を襲った悪性インフレの「需要サイドの」主因と「なったことは否定できず、これが現行法で「赤字国債発行と、日銀引き受けの公債発行」を禁じて居る理由です。

しかしこの議論は「供給サイド」を完全に無視して居て、「戦時経済の下での産業構造の軍需への極端は偏り」「空襲による生産設備の壊滅」「通貨準備の占領軍の接収で生じた、原材料・製品の輸入の途絶」と言う供給サイドの問題が、戦後の悪性インフレが発生した主因であると考える私には「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」の典型であると思えます。

NOVO
Id: #b20011221044110  (reply, thread)
Date: Fri Dec 21 04:41:10 2001
Name: はまだ
Subject: Re:それはどうかと
金融政策でインフレ率をコントロールできないんですか?
これを採用したらかえって景気は悪くなると理論的に主張できますかね。

つまらんことですが、「消費が飽和するというのはインチキ」はインチキで放置しといて良いですが、
「国債が日銀のなかに消えるのはインチキ」は説明したほうが良いですよ。
(日銀の買いオペも否定してるんですか?)

めんどくさいでしょうから、どちらにも返答する必要はありません>それじゃあ投稿すんなよ。

Id: #b20011220233436  (reply, thread)
Date: Thu Dec 20 23:34:36 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011220060308
Name: べっしょ
Subject: それはどうかと.

>問題なのは、経済に詳しく、リベラルな左派で、良い仕事をし、かなりまともに見える人たちまで
>「ハイパーインフレ」という言葉を使って恐怖を煽ってしまっていることだ。
>「ハイパーインフレ」という言葉を使ってしまった人たちは反省するべきだ。
>慎重なのは非常に良いことだと思いますが、不安を煽らないように注意して発言をするべきだと思う。

ご指摘の通り,デフレ期のデータはほとんどありませんから,経験則なるものがどれほど妥当かは検討のしようがありません.また,中央銀行がインフレ期待高揚を目的とした介入・ファインチューニングを行うのは,現在のような経済システム下ではおそらく初めてであり,インフレ率を制御できるかどうかはまったく不透明でしょう.

円安でもいいじゃないか,とおっしゃいますが,金融為替市場の価格調整メカニズムは急速かつ暴力的ですので,実体経済を回復させる前に危機的な為替変動が起こる可能性があります.そうなることまで考えると,ハイパーインフレーションは可能性として否定できません.まともだからこそ,ハイパーインフレの可能性に言及していると捉えるべきではないでしょうか.また,現在,デフレを止めたい,ゼロ以上のインフレ率にしたい,と日銀が言っているのは,ほぼインフレターゲットとみなしてもいいくらいです.それでもインフレ期待が醸成されないといって日銀を責めるべきでしょうか?

国債が日銀のなかに消えるのは,インチキだとおもいます.見た目で消えても,将来の国民負担が残ることに変わりはありません.


Id: #b20011220060308  (reply, thread)
Date: Thu Dec 20 06:03:08 2001
Name: くろき げん
Subject: 12/18,19の日銀政策委員会・金融政策決定会合の結果

日本銀行が12/18,19の政策委員会・金融政策決定会合の結果が出ましたね:

速水優日銀総裁は12/17の衆院予算委員会では、国債買い切りオペの増額について、「潤沢な資金供給を行なっており、増額が必要な状況になっているとは考えていない」 (毎日 12月17日18時55分) と述べていたのですが、結局月に6000億円から8000億円に増額したようだ。 (買いオペと買い切りオペの違いは後で売りに出す可能性があるかないかの違い。日銀が (長期) 国債買い切りオペをやると買い切った分だけ国債が日銀の中に消えてしまうことになる。そのままインフレが起こらないなら国債累積残高をいくらでも減らすことができてハッピーなのですが、もちろん実際にはそんなことにはならないはず。だから、国債買い切りオペを増額すれば何らかの効果があるはずなのですが、今のところ目立った効果は全くなかった。)

当座預金残高は「6兆円を上回ること」が目標で現実には9兆円程度に上昇していたのですが、今回の会合で目標を「10兆円から15兆円」に引き上げた。

あと、コマーシャルペーパー (CP) や資産担保証券 (ABS) の一層の活用を決めたようですね。国債と違って民間部門において中立性が低いのですが悪影響はないんですかね? より中立性の高い国債の買い切りオペをさらにどかっと増やしたり、為替介入したり (しかし為替介入は財務大臣の管轄なので日銀では直接できない) した方が良いと思うんですがねえ。 (外債購入については下の方の余談を見よ。)

まあとにかく今回の日銀の決定にはどれだけの効果があるんですかねえ? 為替レートが円安に振れていて、しかもIMFから円安オッケーというメッセージが届いているのに、そのチャンスを活かし切れているだろうか?

前にも書きましたが、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上」という目標は結局変更なしですね。消費者物価指数の数字は理論的にも実証的にも少し高めに出ることがはっきりしているので、「ゼロ%」を目標にしてしまうと実質的に微小なデフレを目標にしているということになってしまいます。実際には「ゼロ%以上」となっているので少し違うのですが、過去の日銀の振る舞い方から目標として「ゼロ%」=「微小なデフレ」を採用している疑いがある。

あと、インフレ率が20%以上のような高い値でない限り、「インフレは経済に悪影響を与える」という主張は実証的に疑わしいということになっているようですよね。意外なことにインフレの害はかなり小さい。

デフレの方は戦後の事例が少ないので実証的には詳しくわかってないのかもしれない (19世紀以前ならデフレは珍しくないし、1930年頃の世界大恐慌もデフレだった)。でも、いきなり原油が高騰したり、生産設備が戦争で破壊されたりというような特殊なこと起こらない限り、デフレは不況のときに起こり、デフレは不況をさらに悪化させるらしいという経験則は相当に信頼できる。

理屈の上でも、値段を上げる方向と下げる方向が対称ではないこと (例えば名目金利は負にできない)、借金は名目の金額で扱われること (だから資産価格の継続的下落は不良債権問題を悪化させる)、デフレが続くという予測は現金・預金を使わずに保有し続けることへの誘因になること、などなどを考えると、微小なデフレであっても経済に害を与えるという主張は相当に正しそうだ。

だから、今すぐデフレ不況を終了させることは無理だとしても、将来的にはインフレ率を下げ過ぎて同じ誤りを犯さないような金融政策を行なって欲しいと思います。

そして、日銀が実際にそうすると約束すれば、すなわち日銀がプラスの値のインフレ・ターゲットを設定すれば、少なくともデフレが続くという予測を潰すことはできる。この程度のことにどうして反対する人がいるのか理解できないのだ。

もちろんその約束を皆に信用させるだけ十分なことを日銀は実行しなければいけない。日銀だけでは法的に不可能なことについては官邸と協調して動くことが必要だ。そして、具体的に何をやるかに関しては色々議論があると思うし、あるべきだと考えています (例えば個人的に CP や ABS を使うことは疑問だと思っている)。

でも、「プラスの値のインフレ・ターゲットを設定してデフレが続くという予測を明確に潰す」という方針は悪くないし、将来的にはインフレ率を上げないだけではなく下げ過ぎないような金融政策を行なうようにした方が良いというのは相当に正しいと思うんですけどね。

問題なのは、経済に詳しく、リベラルな左派で、良い仕事をし、かなりまともに見える人たちまで「ハイパーインフレ」という言葉を使って恐怖を煽ってしまっていることだ。「ハイパーインフレ」という言葉を使ってしまった人たちは反省するべきだ。慎重なのは非常に良いことだと思いますが、不安を煽らないように注意して発言をするべきだと思う。

以下は余談です。

時事通信12月11日によれば、中原伸之日銀審議委員は「外債購入など踏み込んだ量的緩和を行うべきだ」と都内での講演で述べていたらしいのですが、 12/18,19 の会合前の 12/13 の衆議院財務金融委員会であっさり潰されてしまった格好になってしまいましたよね。

市場に存在する円の分量を増やせば、円の価値が下がって、円で測った物価は上昇し、為替相場には円安の圧力がかかるはず。日銀が外債購入という形で量的緩和を行なえばさらに直接的な円安圧力になります。

ところが、 12/13に塩川財務相は衆議院財務金融委員会で「為替介入と疑いを持たれることは避けるべきだ」 (ロイター12月13日) と述べ、同委員会で速水日銀総裁も「市場を通じて行うことが法律上認められないとするなら難しい問題だ」 (ロイター12月13日) と述べました。これで、「日銀外債購入は為替介入の一種であり、為替介入は財務大臣の管轄という法律に反する」という理屈で潰されてしまった形になったんですね。速水総裁は量的緩和が大嫌いらしいので、塩川財務相がストップをかけたことをありがたいと思ったかもしれない。

あと、トンデモ的に面白かったのは、 12/11の閣議後の記者会見で竹中平蔵経済財政担当相が「為替市場にバイアス(圧力)をかける形での政策手段は好ましくない。かけない形での外債購入は技術的に可能と思う」 (時事通信 12/11) と述べたという報道。他の手段に比べて外債購入はより直接的な円安圧力になるのですが、量的緩和自体がすでに円安圧力になっているはずなんですがね。竹中担当相が何を考えているのかさっぱり理解できないのですが、円安圧力にならない日銀外債購入ってなんなんだ????? できたとしても意味があるのか? 竹中担当相って変なことをかなり頻繁に述べているように思うのですが、こんなのが書いたペーパーに沿って経済構造改革なんてして大丈なんですかねえ?


Id: #b20011220012118  (reply, thread)
Date: Thu Dec 20 01:21:18 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219234035
Name: やまがた
Subject: インフレ手法
クルーグマンが言っているのは、金を刷れ、ということではありません。

かれの主張は、「日銀が今後インフレ策をとり続けるとアナウンスしろ」と
いうもの。また、スヴェンソンは、為替レートの切り下げを中心とした
施策群を唱えていて、あと別の一派があったけれどちょっと失念。


Id: #b20011220005057  (reply, thread)
Date: Thu Dec 20 00:50:57 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011218063123
Name: べっしょ
Subject: 経済理論?

こんにちは.インフレについてはぜんぜん得意ではないのですが,ちょっとだけ(といって長くなってしまいました.すいません.).

インフレ率と失業率の負の相関をあらわす「フィリップスカーブ」についてですが,これは経験則であって,こういう関係を引き出すような理論が,フィリップスカーブの発見(?)以来,営々と積み重ねられてきました.「あたりまえじゃないか」という気もしますが(景気がよければ物価も上がって失業も減るから),そうでもないようです.金融政策の理論を考えるときには,この相関関係は所与のものとして扱うことも多いようです.

相対価格変動と絶対物価水準の上下(インフレ・デフレ)についてですが,かりに市場に任せたときの相対価格をよしとすれば,絶対物価水準はどうでもよくなります(デノミのケース).ところが,たとえば賃金が下がりにくいとき(労働組合が強いなどのために),相対的にモノの価格が動きやすければ,マイルドなインフレが望ましい,という結論を得ることができます.極端な数値例で言えば,モノの物価と賃金の比率が1:1であった状況が望ましかったとしましょう.その後,望ましい価格比が,モノ:労働=2:1に変化し,モノの価格が一定(インフレ率ゼロ)にあったとしましょう.このとき,賃金が下に動かなければ,実現する価格比は1:1のままですから,よろしくない,ということになります.ところが,インフレが起きてモノの価格が2になっていれば,望ましい価格比(相対価格)が,賃金が下方硬直性をもっていても実現することになります.このように,名目の価格が下がりにくいときや,あるいは調整のスピードが財によって異なるとき,インフレを起こすことによって相対価格を望ましい比率に保つことができます.もちろん,下方硬直性を仮定していますから,デフレではこんなことはできません.望ましい相対価格は,もちろん,市場経済が決定してくれます.日銀の知ったことではありません.

「痛み」と「景気回復」ですが,これは両立しない,というのが標準的な経済学の考え方ではないか,と一橋大学の斎藤誠先生がおっしゃっていたとおもいます.もし「構造改革」によって将来の実質所得が上昇するなら,その所得上昇を見込んで,現在の消費が上昇するため,景気は回復しなければなりません.もちろん,これは極度に話を単純化していますから,この議論が成り立たない要因はいくらでも考えられます.たとえば,(1)消費を増やそうと思っても手元に資金がない(借金できない・流動性制約のケース),(2)将来所得が減少すると思っている人たちも存在するために,全体の効果が相殺されている,(3)将来の所得についての予測が立てにくいために不安になり消費を減らし,貯蓄を増やしている,などです.(2)については,たとえば,構造改革によって経済全体の所得が拡大するとしても,個々人のレベルで見て実際に所得が拡大する人が一部に集中していることが予想され(一人勝ち),大多数の個人にとっては所得がそのままもしくは減少(既得権益をもつ人など)と予想されるとき,所得が拡大する人が増やす消費の量はたかがしれていますから,大多数の個人の消費減少の効果のほうが大きくなり,マクロの消費が収縮することだってありそうな気がします(理論的な裏づけはありません).

消費が飽和する,というのはインチキです.


Id: #b20011219234035  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 23:40:35 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219024627
Name: NOVO
Subject: どうやってインフレにするか?

どうやってインフレにするか?

岩田規久男の本は、いなばさんも挙げられた『インフレとデフレ』と、もう一つ『国際金融入門』を読みました。読みやすく、妥当な内容と言う感想を持って居ます。こんどの本はまだ読んで居ませんが、(生意気かもしれませんが)内容はほぼ見当が付きます。

私もかねてから「デフレよりはインフレがまし」、そして自分自身の戦後50年の生活体験から「モデレートなインフレの継続が望ましい」と言う意見を持って居ます。従って今議論されて居る「プラスのインフレ・ターゲット導入」にも賛成です。

で、問題は「どうやったらインフレになるか?」なんですが、これが意外に難問です。今、日銀が及び腰ながら実施して居て、クルーグマンなんかが「もっと積極的にやれ」としている「通貨の供給量を増やす」と言うマネタリスト的な方法は、実績として効果を上げて居ないし、理論的にも「流動性の罠」にはまって居るとすると、そもそも効果を期待できない。

この「インフレにする方法」を、皆さんはどうお考えでしょうか?

NOVO
Id: #b20011219154948  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 15:49:48 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219150410
Name: かも ひろやす
Subject: Re: 数学の認識はどこから来るのか。

それは、数学版の普遍論争(実在論 対 唯名論(対 概念論))です。

数学哲学のほうでさまざまな説が提唱されてきましたが、現場の数学者を納得させるものは未発見であるというのが、私の理解しているところです。


Id: #b20011219150410  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 15:04:10 2001
Name: 黒川ひなの侍新一
Subject: 数学の認識はどこから来るのか。

疑問は題名そのまんまです。

読む方によって解釈が違うのも希望するところです。 無責任に書いてくださると助かります。これは中学以来ずっと頭を悩ませていた問題なんです。数学科へ行けば良かったのに言語学科に行っちゃった私としては、計算のうまさやアルゴリズムを綺麗に書くことより、多くのものを学びましたが、数学ってのは名なにかの道具じゃなくてそれ自体が独立した世界だろうと考えたいのです。


Id: #b20011219121044  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 12:10:44 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219024627
Name: いなば
Subject: 岩田規久男『デフレの経済学』は

とりあえずいい本です。これまで岩田の書くものってぼくにはピンとこなかった(例外は『インフレとデフレ』講談社現代新書)けど、これは面白かった。
 しかし政策論争においてはこの人は一貫してタフでクールだよな。金融論の論客としては池尾和人なんかも有名(『現代の金融入門』はいい啓蒙書でした)だけど、なんか最近の発言はバランスを失してますね。岩田がミクロとマクロ、新古典派とケインジアン、多様な視角を適宜組み合わせるのに対して、池尾はなんだか一本調子(「金融機関を自立させろ!」てなかんじ?)なのだ。
 同じ趣旨の本として、野口旭・田中秀臣『構造改革論の誤解』(東洋経済新報社)もよさそうなのだ。

 あと、どうも金子勝がおかしくなってきてる感じがする。マクロ経済政策についての発言はほぼトンデモの領域に入っているのでは。
 彼の立場は「構造改革論」も「俗流ケインジアン」もだめ、というものだが、どうも彼のケインジアン像は歪んでいるのだ。で、「不良債権をがっちり処理して、金融システムを健全化して、日本経済に信頼を取り戻せ」という主張は結果的には構造改革論と大差ないところに着地してしまう。これでは困るんではないの?(小林慶一郎・加藤創太『日本経済の罠』日経、もこの点同様。)
 社会保障や地方財政についての提言は説得力があるものの、どうも彼には根本的なところで「マクロ」とは何かがわかっていないような気がする。(俺もよくわかっていないが、実は。まあたとえば岩田の言う「相対価格」と「物価」の違いだよな。)
Id: #b20011219031408  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 03:14:08 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011219024627
Name: くろき げん
Subject: 米将軍吉宗と元文の改鋳

第27話 米将軍吉宗と元文の改鋳 (貨幣の散歩道)

日本銀行および日本銀行金融研究所のウェブサイトは本当に素晴しいですね。コンテンツが充実していて勉強になります。


Id: #b20011219024627  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 02:46:27 2001
In-Reply-To: b0035.html#b20011218063123
Name: くろき げん
Subject: 岩田規久男著『デフレの経済学』

この手の雑談をすることは結構楽しいので、長々とコメントしたいところなんですが、今はちょっと忙しいので新刊書の紹介をしてお茶をにごします。

パラパラめくってみただけですが、基礎的ことをできるだけわかり易く説明するといういつもの岩田規久男流で書かれた本なのでおすすめ。

『エコノミックス』2001年夏第5号 (東洋経済新報社) の緊急特集「金融の論点」の編集も岩田がやっていて、その序文を岩田が書いてます。で、その序文の最後 (p.5) に岩田は、出席者池尾和人・原田泰、司会岩田規久男の「特別対論」 (目次には134頁と書いてあるが実際には96-107頁) について「この対論は最後に意外な展開を見せるが、それは読者の読んでのお楽しみとしよう」と書いているのですが、実際読んで楽しめました。池尾が最後に何を言ったかに注目。なかなかの名司会者ぶり。

以上で済まそうと思ったけどちょっとだけ。

「インフレ率と失業率は短期的に相関しているように見えるが、それは因果関係か?」という問いの立て方はいかにもまずい感じです。物価と産出に関する需要・供給曲線のような話をあいだに挟まないと、まるで物価水準だけを強制的に変える話であるかのように誤解してしまう人が増えてしまうかもしれない。

不況の原因は構造改革をしても解決しない需要不足が原因であり、皆がこれからずっとデフレが続くと信じている限り (実際このままだと当分デフレが続くでしょう)、需要不足は解決しないだろうと考えられているわけです。

何らかの方法で国内企業向けの需要が増加すれば、現在マイナスのインフレ率はプラスの方向に動くだろうし、失業者も減るでしょう。 (他の条件が同じなら、需要が増えれば物価は上昇し、失業率は減少する。逆に需要が減れば物価は下降し、失業率は増加する。「他の条件が同じなら」という仮定が成立しない場合 (例えばスタグフレーション) ついてはNOVOさんが書いている。)

問題なのは日本の場合はその「何らかの方法」の選択肢がデフレおよび政治が原因で非常に限られているように見えること。

煽り専門のドキュソな経済本で宣伝されている類のトンデモないことが起こらなくても、国民が皆「痛み」に耐えながら、今年と同じような状況 (1%のデフレと1%のマイナス実質成長=2%のマイナス名目成長) がこれから10年続けばそれこそ破滅。

小泉首相の「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」という考え方はものすごくやばいと思う。

小泉政権による不況下での財政再建となぜか優先事項になってしまっている銀行の不良債権処理はどちらも需要不足を悪化させる政策なんですね。小泉首相や竹中担当相は今の痛みを耐えて将来の成長に資することを今やっているのだと主張しているようですが、そもそも将来の成長に資するような改革を本当にやっているかどうか疑問。

実際にやっていることは、浅野史郎宮城県知事が危惧しているように「「金がないから」ということが前面に出るような「見直し」」だけじゃないの? どうも小泉改革は全体として「金を出し渋ることを正当化することによって、中央の政治家や官庁が口を出し易くする」という方向に進んでしまっているように見える。小泉首相を支持してしまっている人が多いのは、中央の政治家や官庁が余計な口出しをできるという構造を打破してくれると信じているからなのだと思うのですが、実際に行なわれていることはその逆に見える。 (例えば独立行政法人化すると天下りポストが増える理由をよく考えよう。本当に「独立」ならば天下りを受け入れるだろうか?)

その上、速水日銀総裁は日銀は何もできないやらないと言いつつ、小泉構造改革路線をさらに進めるように発言してますよね (首相と日銀総裁のエールの交換?)。

以上と全く逆に、中央の政治家や官庁が口を出しておかしなことになる日本の悪しき構造を真に改革しつつ (そのような改革は需要不足を悪化させない)、官邸と日銀が不況脱出のために一致団結すれば良いと思うんですけどねえ (日本の不況脱出のために提案されている処方箋は日銀だけでは実行できないものが含まれているので日銀だけの問題にはできない)。

あ、いかん、脱線しまくって、また長くなってしまった。


Id: #b20011219000702  (reply, thread)
Date: Wed Dec 19 00:07:02 2001
In-Reply-To: b0034.html#b20011204021428
Name: NOVO
Subject: スタグフレーションは起こらない

スタグフレーションは起こらない

「インフレで損する立場だと思って居る人」はそれ以外の人々にも、国民全体の問題として「インフレは悪いことだと」と信じ込ませたい。そこで考え出された理由付けの第一が「ハイパーインフレ」であり、2番目が「スタグフレーションになるぞ」です。

スタグフレーションを「インフレと不況の共存」と考えると、これは誠に馬鹿馬鹿しい話で、それは困る。これは私も同感なのですが、では「スタグフレーションが起こるメカニズム」とか、「これが、どのような条件で起こるか?」に関しては、以外に知られて居ません。私見としては、以上の点を少し調べて見れば、「現在の日本を含む先進国には、インフレがスタグフレーションに転化する条件は存在しないことが判ります。

インフレが起こる様式には2つあり、一つが「デマンド・プル型」、他方が「コスト・プッシュ型」です。殆どのインフレの実例は「デマンド・プル型」で、「コスト・プッシュ型」の例は少数です。中でもスタグフレーションは、コスト・プッシュ型の中の更に特殊な例です。

コスト・プッシュ型インフレの典型は、オイルショック後に起きたインフレで、これはエネルギー価格がある日突然数倍に跳ね上がり、これに連れて殆どのモノやサービスのコストが上昇し、これを売価に転化する過程でインフレが起きました。

スタグフレーションの場合には、これを引き起こすのはコストの中でも労働賃金の(生産性向上を超えた)上昇です。ところが、これが実際に起こる為には、一定の条件が必要なのですが、通常の議論ではこれが無視されます。。

例えば次の発言は、1996年にFECOでの議論の中で、池田 信夫さん(東大の先生で、ゲーム理論の専門家だと思います。)の書かれたものです。通常、スタグフレーションに関する議論は、これで終わります。

NOVOさんのおっしゃるような「朝三暮四」政策は別に新しい話ではなく, 1970年代のアメリカで経験ずみです.

その結果,インフレは年々ひどくなる一方,人々はそれを織り込んで期待形成 をするため,景気刺激効果は消えて10%以上のインフレだけが残りました. これが「スタグフレーション」と呼ばれるものです.

こういうtime-inconsistencyによって国民を錯覚させる政策は無意味である, というのが現在のマクロ経済政策の常識です. 「合理的期待」という言葉ぐらいはご存じのようですから,これ以上ナンセン スな議論をくり返す前にマクロ経済学の教科書を読んで下さい.

スタグフレーションが実際に起きたのは1970年代のアメリカとイギリスが典型で、これは当時の政府の経済政策と共に、両国に存在した強力で戦闘的な全国的な労働組合連合の行動様式が不可欠な要因だったと思います。

以下の発言は、上記の池田先生への反論です。

この言い方は、少々話を端折り過ぎて居ませんか。知らない人は誤解します。 私の読んだ範囲では、この頃はアメリカだけでなくてヨーロッパの国々も「手っ 取り早く失業率を下げる」と言う政策目標を達成する手段としてインフレ的経 済運営を行ったが、これは思った効果を生まず、スタグフレーション=「イン フレと高失業率の共存」を招いてしまった史実を指して居ると思います。

この話の前提には、「インフレと失業率はトレードオフの関係がある」と言う フィリップ曲線を巡っての「誤解」と、それに基づく経済運営の失敗と言う挿 話があり、この失敗の原因をマネタリストが旨く解きあかして、これにまつわ る色々な系によって何人かのノーベル賞受賞者を生みました。

私の理解では、失敗のそもそもの原因は、フィリップ曲線の誤解です。

この種カーブは、「景気の良いときは失業率が低くなって居た」と言う、Co- insidence を表して居るに過ぎず、因果関係ではないのに、これを「インフレ 率の方を独立変数とする(因果関係を含む)関数関係と、勝手に思いこんだの が敗因です。エレベータの針を回して、逆にエレベータを動かすポパイの漫画 が、現実の世界で通用する筈がありません。

複雑な内部構造を持ち、個別企業の採用・解雇と言う慣性の大きな系の行動の 集計量である雇用全体と言う事象の一つの指標(失業率)を、インフレ率と言 う単純な独立変数を操作すれば簡単に動かせると考れば、これは失敗するに決 まって居る。第一、当時のアメリカはまだAWUとかチームスターとかAFL− CIO と言うような大労組が健在で、半年・一年のストは平気で打てる力と意 志を持っていました。だから賃金水準そのものが「市場の需給で決まる」と言 う状況とは程遠い状態で、バーゲイニングの一方の当事者である強力な労組は、 確かに「合理的期待」を形成し、それを前提にゲームを行う当事者にふさわし かったと思います。

だから、この点に関してのマネタリストの説明は説得力があり、「自然失業率」 と言う概念の導入も、「失業者にも色々あって、一杷一絡げで論じてはだめだ よ」と言う方向へ、ホンの一歩踏み込んだ議論としては進歩だと思います。

しかし、この成功を足がかりに、「全ての財政政策は、国民の合理的期待形成 によって無効になる」と言う主張は、調子に乗りすぎた暴論と思わざるを得ま せん。「ケインズ憎し、インフレと税金が不倶戴天の仇」で凝り固まった、ア メリカの大金持ちには受けるでしょう。何しろ失業が下がると、直ちに→イン フレ→高金利と連想して株価が下がる国ですから。彼の国にはラッファーのよ うな曲学阿世の徒も多いので、教科書は用心深く読む必要があります。

ところが普通ルーカスが証明したと受け取られて居る「全ての財政政策は、国民の合理的期待形成によって無効になる」と言う主張に関して、彼自身は次のように言って居るそうです。(同じFECOでのJJさんの発言。この人も経済の先生のようです。)

経済学の意見は前提条件(留保事項)に結論が大きく左右されるのに、結論のみを たいした説明もなく、あたかもそれのみで存在できるかのように書いています。

4つほどあげておくと。

2)マクロ経済学の合理的期待の考え方をきちんと学べば、よく引き合いに出され る政策無効命題について、言い出しっぺのサージェントやルーカスなんかが、あれ は単にケインジアンのモデルに対する反論として提出したのであって、それが成立 するかどうかは実証の問題であるという事を言っていますが、その本意が理解でき るでしょう。そんな事は知りもしないで、あらかじめ予想された政策は無効だとか そのまま書いている人もいます。

現在のアメリカでは、二次産業の空洞化が進行し、残ったものも大労組の組織が及ばない南部に比重を移してしまって、アメリカの大労組には70年代のような力はありません。

イギリスの組合運動に関して言うと、この国の労組は伝統的に職能別組合で、70年代の状況で言えば、2万人の労働者を抱えた新聞業界で800人の電工組合の組合員がストを打つと、業界全体が麻痺してしまう状況がありました。労働者の階級的倫理として「余所の職種の仕事には絶対に手を触れない」と言う慣行が確立して居て、経営者も政府も、此にはお手上げと言う状況でした。

これに対して正面から立ち向かったのがサッチャーです。この種の部分争議を禁止する法律を作ったのです。当然これに対する抵抗も激しく、この時の炭坑ストで、ロンドンでは真冬の3ヶ月間に暖房の石炭がなくなり、電力の供給も不安定になりました。それでも彼女はひるまず、この争議を乗り切って、労組の牙を抜いてしまいました。

私見では、サッチャーの最大の業績は、これだったと思います。この期に及んで日本の労組はだらしなさ過ぎますが、強すぎる労組も困ります。

従って、日本にはそもそもスタグフレーションの発生する条件が存在したことがないし、本家の英米にも、今ではその条件を欠いていると思います。

NOVO


Id: #b20011218192257  (reply, thread)
Date: Tue Dec 18 19:22:57 2001
Name: はまだ
Subject: 「デフレスパイラルをどうやって阻止するか」問題
ちまたでインフレターゲティングが話題になっていますが、
デフレスパイラルが起こっているという現状認識の下で、その対策が語られています。
その理屈は、2%のデフレよりは2%のインフレのほうが良い、というのに尽きます。
(ちなみに、「調整インフレ」(by中曽根康弘1971頃)は日本の新聞ローカルで、英語にはありません)

それから、アメリカとちがって今の日本には、可能な不況対策手段が限られていて
(財政出動は増やせない、だとか)金融政策の動向に注意が向けられています。
インフレターゲティングというのは、金融政策の中のいくつかの目標の一つにすぎませんし、
物価上昇率という指標1つだけを睨んで政策を決定するわけではありません。
もちろん、インフレターゲティングだけで景気が回復するわけではない。


中長期の目標である2%から3%のインフレターゲティングというのは、物価の安定を使命のひとつにする
中央銀行にとっては(法律で明記してるしてないに関係なく)あたりまえのことです。
話題の本質は「インフレターゲティングという言葉」を否定しようとする日銀関係者の頭の悪さ
であって、不況脱出の政策論議とは、直接関係無いと思ったほうが良いでしょうね。
インフレターゲテングを宣言してどこまで効果がでるかはやってみないとわかりませんが、
デフレスパイラルにあるという現状認識からは積極的に反対する理由はありえません。
言い換えれば「日銀は信頼に欠けるから、法律で明記して縛ってやる」でしょうか。

つまらんことですが、ハイパーインフレへの心配は杞憂にすぎません。兆候は事前にわかります。

ということで、最初に戻って、
「デフレスパイラルをどうやって阻止するか」に問題を切り替えて
考えたほうが建設的でしょう。

Id: #b20011218063123  (reply, thread)
Date: Tue Dec 18 06:31:23 2001
URL: NCA00201@nifty.ne.jp
Name: BUNTEN
Subject: インフレ政策への疑問
以下の話について詳しい調べがついているわけではありません。とりあえずの覚
え書きだと思って読んで下さい。

はじめに私の立場を明確にしておきます。
(1)インフレ=悪、という図式にはこだわらない。
(2)社会の最底辺に位置する自己の立場から各種の政策の良否を評価する。

次に、経済理論への素朴な疑問です。(言い換えれば、経済理論のモデルの正し
さはどの程度かということ。モデルが正しくない場合、モデルに対する数学的検
討は意味がなくなる。)
(1)インフレ率あるいは物価上昇率と失業率との間に負の相関が見られるとして
  も、それが直ちに因果関係を示すものとは限らない。すなわち、インフレ率と
  失業率の逆相関は、インフレを起こせば失業が減るということにつながる保証
  にはならないのではないか?(この逆相関はたとえば、好況-->物価高及び低失
  業・不況-->デフレと高失業、という連鎖を示すだけかもしれない。)
  インフレ-->低失業、という因果関係があるとしてインフレ政策を採用する前
  に、より厳密な理論的検討(経済学的な)を行う方が望ましいと考えるが、因果
  関係の有無に関する研究成果はあるのだろうか?

(2)実際にインフレあるいは物価上昇が起こる場合、労働力を含む全商品の価格
  が一斉に変動するということは考えられない(それではデノミみたいなもんで
  ある(^_^:))。一部の商品の価格だけが突出して騰貴することもあれば(例:狂
  乱地価*)、価格上昇にタイムラグが生じる場合もある(例:賃金上昇が物価騰貴
  の後を追うなど)。ある意味それらのズレ(実質的な債務の減少などを含む)を
  政策実現の手段とするのがインフレ政策なので、政策的にインフレを起こす場
  合、色々な要素をどうコントロールして、何のためにいかなる形で物価を動か
  すかを決めておかないと、意図しない副作用が生まれかねないのであるが、少
  なくとも中央公論とビジネススタンダード一月号の二つの雑誌におけるインフ
  レ政策論からは、中央公論のP.68の「賃金コストの上昇を抑える」ないしP.69
  の「実質賃金の下落が必要」という目標を除き、細目が見えてこなかったよう
  に感じる。

(3)痛みが足りないかのように言い立てる小泉首相からインフレ論者まで、企業の
  業績が良くなれば個人消費も回復するかのように言う人が結構いる(例:ビジネ
  ススタンダードP.25藤巻氏「インフレになって企業業績が上がると、リストラ
  や企業倒産がなくなり雇用も安定しますから、消費も増えると思います。」)
  が、そういった連鎖(企業業績回復>賃金増>個人消費増)は存在するのか? 存在
  するとしても、どの程度の「乗数効果」が見込まれるものなのか。

最後に、私が説得力を感じた議論を幾つか紹介します。(インフレ論比/言うまで
もありませんが、以下の話に全面的に賛成しているわけではありません。また、
あくまで説得力を「感じた」のであって、証明あるいは賛成できる政策提言を見
たというわけではありません。)
(1)中央公論一月号、高橋氏の立論(P.79「どちらの負担増が人々に〜サービスを
   受ける機会の自由を保障するか」等)
(2)ビル・トッテン氏「構造改革より週休三日に」後編
   (http://www.billtotten.com/japanese/ow1/00494.html )
   (「この30年間で生産性が16倍に伸びたにもかかわらず、一人当たりの賃金の
   伸びは9倍、一家庭当たりの可処分所得は8倍にしかなっていないのである。
   これではモノが余るのも当然であろう。この構造を直さなければ、消費は絶対
   に生産についていかない。」)

 *注:
狂乱地価・バブル期の株価騰貴の原因に関する一考察。
実体経済の拡大を上回るペースで起きた、いわゆるマネーサプライの増加。(為替
介入によって国外に出回った円の、日本の株式市場などへの還流を含む。)-->>国
内の個人消費拡大の余地が少ないところから来る、利益を上げられる投資先の欠
如-->>投機資金化

※補足
インフレ策を採るとしても、何を目的にどういうインフレを起こすか、等に関し
て十分なインフォームド・コンセントが行われない限り、正直言って賛成する気
にはなれません。
私のような底辺層は、まさにマネーサプライの増加によって生じた局部的だが(私
のような底辺層にとっては)制御不能のインフレである狂乱地価によってマイホー
ムの夢を諦めさせられたり、高い価格と金利で買わされたあげく、続くデフレでは
いつまで続くとも知れぬ痛みに耐えろと言われ、耐えられなければ必死の思いで手
に入れたマイホームを担保に取られたり、失業の恐怖におののいてマイホームの入
手を諦めざるを得なくなる(それどころか、借家からも追い出されてホームレスと
化す)など、インフレ・デフレどっちに転んでも踏んだり蹴ったりであったので、
一部の経済的強者が政治を動かしている限り、自分が損する方向に経済を動かされ
るのではないかという不信を拭えないからです。

Id: #b20011217003117  (reply, thread)
Date: Mon Dec 17 00:31:17 2001
In-Reply-To: b0034.html#b20011204021428
Name: NOVO
Subject: ハイパーインフレの心配はない

ハイパーインフレの心配はない

#b20011204021428 でも書いたのですが、「インフレで損する立場だと思って居る人は」、これを国民全体の問題として「インフレは悪いことだと」と信じ込んで居るように見えます。その理由付けの一つが、「インフレ政策は、債権者の財産(貨幣資産の実物資産に対する請求権)の一部を強制的に奪うのだから「犯罪」である」と言う考え方です。

その上彼らは、彼ら以外の多くの人にも「インフレは悪いことだ」と信じ込ませたい。ところが本来は「インフレで損する立場」でない人に対しては、先の「インフレ政策は、債権者の財産(貨幣資産の実物資産に対する請求権)の一部を強制的に奪うのだから「犯罪」である」と言う理屈はアピールしない。

そこで考え出された「インフレは、無条件に悪いことだ」と言う主張の理由付けが2つあります。

1.一旦インフレ政策を採ると、それが制御出来なくなって(必ず)ハイパー
  インフレになる。

2.先進国ではスタグフレーション(インフレと不況の同居)と言うのがあっ
  て、インフレ政策は、景気の改善には(必ずしも)寄与しない。

この2つの神話による洗脳は実に良く浸透して居て、これがインフレに対する実際の利害関係に無関係に、多くの人が「インフレは悪いことだ」と思いこんで居る大きな理由だと思います。

先ず「ハイパーインフレ」ですが、これが発生する条件としては2つの環境条件が一般的です。

A.敗戦国型 戦争中に戦費調達のため、大幅な財政赤字と通貨の大増発が行
       われたのに加え、敗戦に伴う生産能力の広範な破壊が重なり、
       大幅な需給ギャップの発生。

B.中南米型 慢性的な財政赤字と、供給能力不足+外貨準備の枯渇の共存。

これらの条件が揃わないと、単なる財政赤字の継続くらいではでは、ハイパーインフレは起こって居ません。

外貨準備が重要なのは、国内の供給力不足を輸入によって補い、需給ギャップを埋めることが出来ないからです。慢性的に供給能力過剰に悩み、世界一の外貨準備を持つ日本でハイパーインフレを心配するのはばかげて居ます。

史上最悪のハイパーインフレだり、事ごとに引き合いに出されるのは、第一次大戦後のドイツのハイパーインフレです。

あのケースでは、敗戦国共通の要因に加え、非現実的とも言える、膨大な対仏賠償金支払いの負担がありました。しかし此処までならあのハイパーインフレには為らなかったのですが、そうなってしまったのには国内政治的な偶然の要因が重なりました。その結果、中央銀行 Reiches Bank が暴走したのです。

この経緯を 1995 年に私自身が FECO MES(8) に UP したのを再掲します。

ここで、インフレを論ずると必ず出てくる「一旦インフレ政策に手を付けると、 必ずハイパーインフレを引き起こすから、インフレは絶対避けるべし。」と言 う議論に、間接に答えるために、史上有名なドイツのハイパーインフレがどの 程度のものであったか、と言うことをかい摘んで述べます。

          流通通貨  為替相場       物価 |    期間         期間倍率
            億MARK    $/MARK            |   
  1913    (戦前)      4.2         1.0 |                 物価  2.8 倍
  1914.06      63                       |  1913.〜19.05   通貨  6.6 倍
  1918.11 停戦                      2.3 |    (5.5 年間)   ドル  3.2 倍
                                        | 
  1919.05     420      13.5         2.8 |                 物価  5.4 倍
      .12     501      46.8         8   |  1919.05〜21.01 通貨  1.2 倍
                                        |      (9 カ月)   ドル  4.8 倍
                                        | 
  1920.01      511      64.8       15   |                 物価  5.5 倍
      .06      683      39.1            |  1920.01〜22.06 通貨  3.2 倍
  1921                                  |     (2.5 年間)  ドル  5.0 倍
  1922.06     1802     320         82   |                 
       12             7800       1475   |  1922.06〜22.12 物価  18 倍
  1923.06  17.3 兆(1.7*10^13)           |     (6 カ月)   通貨   8 倍
       10  2.5*10^18                    |                 ドル  24 倍
       11  4  *10^20                    |                            
       12  ????                 1兆倍  |  1922.12〜23.12 物価   7 万倍
                                        |    (13 カ月)

一般に「ハイパーインフレの第一段階」とされて居るのは、半年で物価が18 倍になった 1922 年 6 月以降です。この時点でライヒスバンクの理事会が、 政府や議会に対して独立性を獲得し、(信じられないことですが)勝手に私企 業の手形の割引を初めました。この年の下期には割引額が前年実績の500倍 以上になったとあります。−−独白「手形で中央銀行から金を引き出して投資 し、インフレで減価したマルクで返済する。ただ同然の設備が手元に残る。ぼ ろい話です。ライヒスバンク(帝国銀行)の後継者であるブンデスバンク(連 邦銀行)が、インフレに対して極度に神経質なのは、直接ハイパーインフレの 引き金を引いた先輩達の犯罪的な行為に、今でも罪の意識を持って居るからで はないかな?」

何故こんな馬鹿なことが起こったかと言うと、6月に民社党のラーテナウ外相 が暗殺され、政敵であった、ラインランドの重工業資本をバックとする右翼政 治家シュティンネスが実権を握って、その一派がライヒスバンクを乗っ取った らしいのです。今から80年も前のことですが、随分荒っぽい話です。

翌 1923 年早々にはフランスがルール炭田を武力で占領し、ハイパーインフレ の第2幕になりました。(かねがねシュティンネスは、賠償の支払い拒否を主 張して居ました。)

以上の出典は、1975 年に東独で出版された「ドイツ経済史(1871〜1945年)」 (H.モテックほか著、大島隆雄ほか訳)です。当然マルクス主義の立場から、 悪いことは何でも「帝国主義者の陰謀」になって居ますが、その記述の中から 史実と数値だけを拾い集めて整理して見ました。

スタグフレーションに就いては、稿を改めます。


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