From: kuroki@math.tohoku.ac.jp (Kuroki Gen)
Date: Wed, 11 Jun 1997 04:19:45 +0900
Subject: References for Linguistics
Revised: 11 June 1997
Revised: 18 June 1997

リクエストがあった私の手許にある言語学の入門書のリストです。

[K] 風間喜代三: 印欧語の故郷を探る、岩波新書 269、1993年

[N] F. J. ニューマイヤー: 抗争する言語学、岩波書店、1994年、 馬場彰・ 仁科弘之訳 (Frederick J. Newmeyer: The Politics of Linguistics, 1986)

[P] スティーブン・ピンカー: 言語を生み出す本能 (上、下)、日本放送出版 協会、NHK ブックス 740-741, 1995年、椋田直子訳 (Steven Pinker: The Language Instinct - How the Mind Creates Language, 1994)

[Ta1] 田中克彦: ことばと国家、岩波新書 黄175、1981年

[Ta2] 田中克彦: 言語学とは何か、岩波新書 303、1993年

[Tr] P. トラッドギル: 言語と社会、岩波新書 C99、1975年、土田滋訳 (Peter Trudgill: Sociolinguistics: An Introduction, 1972)

私の偏見かもしれませんが、言語学は大きく二種類に分類されます。

一つは「言語は社会や文化が決定するものである」という面を強調する言語学 です。本の題名などからも大体明らかなのですが、[Ta1], [Ta2], [Tr] はそ の方面の入門書です。

もう一つは「言語は人間の生まれつきの本能である」という面を強調する言語 学です。この方向の新天地はチョムスキーが切り開きました。その入門書とし て、私は最近 [P] が楽しんで読める良い本であることを発見しました。眠く ならずに読めるという点においては、上で挙げた本の中ではピンカーによるこ の本が最も優れています。

そして、[N] はこの二つの言語学の歴史について、チョムスキーよりの立場か ら書かれた本です。その本の訳者あとがきでは、この本と [Ta2] を読み比べ て欲しいと書いてあります。

言語学と言えば、「インド・ヨーロッパ語族」という言葉を真っ先に思い浮か べるのは私だけでしょうか? [K]は印欧語族の故郷の探るというテーマによっ て言語学入門を書くという試みです。

これらの全部を読み切ったわけではないのですが、これらを読んでみて感じた ことは、言語学の常識はほとんど広まってないのではないかということです。 また、言語学内部における上で述べたような分裂にも驚きました。

さらに面白いことに、どの系統の言語学者であっても、自分の言語学の平等主 義的でリベラルな帰結を強調していることです。田中克彦がチョムスキー言語 学を攻撃する理由も、スティーブン・ピンカーが「社会が言語を決定し、さら に言語は思考を決定する」という考え方を強く攻撃する理由も、どちらも同じ ように平等主義的でリベラルな思想背景があるのです。田中とピンカーの双方 がウォーフとチョムスキーをどのように紹介しているかを比べてみることによ って、一つの考え方に染まるという形で言語学の知識を得てしまうということ を防げると思います。

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黒木玄@東北大学大学院理学研究科数学専攻


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