Surveys in Geometry の牛腸氏の原稿への appendix

中島 啓

ここまで読んできた読者の方には大変申し訳ないが, これまで書かれたことを 理解しても全く無意味である. 物理学者が日々 研究しているsupersymmetryは, はるかに先を進んで いる. ここで書かれていることは, 言わば化 石であり, 生きた学問ではない. もち ろん化石を研究することに意味がないと言うつもりはないが, もし生きたもの を観察することが目的であるならばここにあることは, 害になる, と断言しても言い過ぎではない. 物理学者がsupersymmetryをどのように使って, 新しいことを導いているかが 全く記述されていない. 物理学者が, supersymmetryを重要視するのは, それ をもとにいろいろなことが分かるからであり, さらに言えばsupersymmetryを 持たないものはほとんど無視されているのである. それが何故か, これを読んでも全く分からないであろう.

興味ある読者は, hep-thにいくらでも文献があがっているからそれを読めばい いであろう. hep-th/9607050, hep-th/9607201, hep-th/9609176, hep-th/9611050, hep-th/9611137, hep-th/9612121, hep-th/9612254, hep-th/9702155, hep-th/9702201 ぐらいを挙げておく. 学部生に戻ったつもりで , 論文を読むことをお薦めする. 以下に言うように, 今までの知識を全て否定することが大変重要である. まあ, 高校数学くらいは否定しなくてもよい が...

そもそもこの文章は出発点を間違えてしまった. supersymmetryを幾何学的に とらえようと言うことが一つの出発点であるが, 現在の我々の幾何学的理解を 用いて物理で研究対象になっている事柄を理解するためには 不可能である. というか, 現在物理で活発に 議論されていることは, 我々の素朴な幾何学的な理解がいかに 誤っているか, であると集約することができ る. 全く新しい空間概念が求められていると言っていいであろう. Dualityは, まさしくそういうものである. 二つの弦理論がdualityでつながってくるとき, それは量子力学において, 点粒子と波動の両方の記述がつながっているように, 素朴な考えからは全くつながらない二つのものが, 裏表の関係にあることが見 えてくる. 古典論と量子論がdualityで移ることが顕著である. 数学において 対応することを象徴的に言うならば, dualityによって表現論が母空間論に移 される. 多様体は, そこではウェイト空間に過ぎず, それを一つだけ取り扱う ことは全く意味がない. たとえて言えば, 整数論において 1097という整数について深く 研究しているようなものである. それは, それでいいのだと言われてしまえば それまでだが.

しかし, 幾何学者なりに物理で問題になっていることにアプローチすることが できるのではないかと言う反論したくなる人もあるかもしれない. しかし, はっ きり言おう. 幾何学者には新しい空間を見つ けることは出来ない. それは, 幾何学者が現在の素朴な空間 概念に立脚している限り不可能なのである. 現在までの自分達がやってきたこ とを全て否定することからのみ, 新しい空間を見つけることができるからであ る.

そもそも幾何学は新しい現象を見つけるのにはむいていないというのが, 歴史 の教えるところである. 幾何学において美しいといわれる結果は, 「これこれ の性質を満たす多様体は, これこれに限る」というタイプの結果であり, そこ からは新しいものが生まれる余地がない. む しろ新しいものが生まれないと言うことを証明することが幾何学で高く評価さ れるのである. これは, 幾何学の 原罪と言ってもいいであろう.

そもそも新しい空間概念は一朝一夕に見つけられるものではない. おそらく完 成を見るのは, 22世紀になるであろう. それまでは, 試行錯誤の連続になるの であろうが, たくさんの新しい現象を見つけて理解する必要がある. 従って結 論として, 幾何学者は22世紀まで寝ていた方 が良いと言うことになる. 22世紀に新しい空間概念が完成さ れた暁に, 新しくその空間を研究するのが正しい姿であろう. 深谷さんは22世 紀まで生きるべく, 日々節制をするそうである.


なお、 このファイル 中島啓氏による 原稿 黒木によるHTML化である。 色を付けるだけで、こんなにもわかり易くなるとは驚きである。なお、 著者自身による改良版も存在するので、そちらも参照されたい。