From owner-he-forum@ml.asahi-net.or.jp Wed Nov 15 00:22 JST 2000 Received: from ml-dist.asahi-net.or.jp (ml-dist.asahi-net.or.jp [202.224.39.110]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id AAA07607 for ; Wed, 15 Nov 2000 00:22:38 +0900 (JST) Received: from ml.asahi-net.or.jp (ml.asahi-net.or.jp [202.224.39.111]) by ml-dist.asahi-net.or.jp (8.9.3+3.2W/3.7W) with ESMTP id AAA20098; Wed, 15 Nov 2000 00:05:14 +0900 (JST) Received: from localhost (daemon@localhost) by ml.asahi-net.or.jp (8.8.8/3.7W) with SMTP id XAA39234; Tue, 14 Nov 2000 23:59:00 +0900 Received: by ml.asahi-net.or.jp; Tue, 14 Nov 2000 23:58:54 +0900 Received: (from ml@localhost) by ml.asahi-net.or.jp (8.8.8/3.7W) id XAA46478 for he-forum-outgoing; Tue, 14 Nov 2000 23:56:33 +0900 Message-Id: <200011141456.XAA46478@ml.asahi-net.or.jp> X-Sender: syutoken@net.email.ne.jp (Unverified) X-Mailer: QUALCOMM Windows Eudora Pro Version 4.0.1-J Date: Wed, 15 Nov 2000 00:01:54 +0900 To: , From: syutoken-net Subject: [he-forum 1408] 首都圏ネット声明 2 Mime-Version: 1.0 Content-Transfer-Encoding: 7bit Sender: owner-he-forum@ml.asahi-net.or.jp Precedence: bulk Reply-To: he-forum@ml.asahi-net.or.jp Content-Type: text/plain; charset="ISO-2022-JP" Content-Length: 13291 2.独法化の内実をなす「競争的環境」作りが急進展している 各大学で独法化への対応が検討されている一方、それぞれの大学においては、独法の 内実を先取りするような「改革」が次々と行われつつある。それは、あたかも大学の 「自発性」を装いながら、「競争原理」「再編統合、選別と淘汰」「種別化」をキー ワードとしている。これは、「5.9自民党提言」や「5.26文部大臣説明」、あるいはそ れらの原点ともいえる98年大学審答申がもとになっている。この過程で、大学の自由 と自治、学問の自由がなし崩し的に掘り崩されるというプロセスが加速している。大 学の本質に関わる問題が、文部省や学長サイドのトップダウンで強行されたり、大学 内での原理的な論議なしに、いわば「粛々と」進行しているかのような事態が随所で 見られる。大学はこれらの事象の背後にあるものを論じ、全体像を明確化し、冷静に 判断し、理性的に行動する主体性を失いつつある。 まず第一に、大学評価・学位授与機構における大学の評価の開始と資源配分の具体化 である。2001年度は理学系と医学系で評価がなされ、その対象校も決まったとされる 。評価機構の評価方法案によれば、「設定された研究目的および目標に照らして」評 価すること、「組織の研究内容および水準の評価を教員の個別の業績」をもとに行う とされる。評価は四段階評価とされ、学部レベルだけでなく、教員個人も「卓越・優 秀・普通・要努力」とランク付けられる。 評価システムは、独法制度の要となるシステムである。中期目標期間終了後、業績の 評価による選別、淘汰と他方での集中が図られ、国家の行財政の効率化が遂行される 。これに基づき資源配分、統合、再編、廃止などを実施する。このシステムは大学全 体に対しても、学部、学科レベルから、個々の教職員の処遇、身分にまで及ぶ。競争 によって淘汰を進めるために必須のシステムが用意されつつある。評価はまさに「淘 汰」を目的として行われるのである。 第二に、校費配分方式が今年度から改悪されたことである。従来の積算部分は「文系 修士・非実験講座」に統一され、基盤的校費は大幅に縮減された。これに対して「大 学分」として学長の裁量部分(競争的部分)が大幅に増加された。それに関連し、各 大学では評価委員会が設置され、校費の裁量部分を業績に応じて配分できるような制 度を導入している。すでに広島大・豊橋技術科学大・新潟大などでは、「教育研究活 性化経費プロジェクト」などの名の下に、校費の競争的・傾斜的配分が行われようと している。これにより、来年度以降には運営基盤を維持できなくなる部局も実際に出 現するだろう。ここでの「競争的環境」とは、学問分野をスクラップするということ に他ならない。 第三は、任期制の導入である。広島大・弘前大等々でも導入され、この制度は徐々に 広がりつつある。この背景として、任期制を導入しなければ、概算要求を認めないと いう文部省の圧力が働いていることは、周知の事実である。注目すべきは、東大にお ける任期制導入の動きである。現在東大では、2001年度からの教員の定年延長(最終 的には2013年度に65歳にする)と絡めて、全部局での教員任期制導入への動きが進み つつある。直接的には、65歳定年延長への学内外の批判的論調に対する配慮、定年前 退職でも定年時と変わらぬ退職金支給を行うためだとされる。だが、その背後には、 「5.9自民党提言」が「競争的環境の整備の一環として、教員に対する任期制の導入が 必要である」「多くの国立大学で導入が遅れている状況は極めて遺憾である。世界的 水準の教育研究の展開を目指すような大学が、率先して、任期制を大幅に導入するこ と」を求めたことがある。東大はこれに屈服しようとしている。しかも、任期制その ものへの原理的検討や波及する諸問題への関心などは微塵も見られず、議論の拙速さ には目を覆いたくなるものがある。 第四に、独法化への対応を前提とした、大学の統合・連合の動きである。昨年末に表 面化した都内5(4)大学連合を始め、今年に入ってからは山梨大と山梨医科大の統合 、筑波大と図書館情報大の統合、全国8医科大学の連合、東京商船大と東京水産大の 統合など、急速に具体的な検討が進んでいる。これらの背景・動機には、独法化以後 の「生き残り」を目指す意図が明確である。統合のスケールメリットによる「生き残 り」を模索する動きは、そもそも何のための「生き残り」かを問うことなく進行し、 大学間の疑心暗鬼と協力関係の解体をむしろもたらしている。 第五に、研究院・学府・部といった新たな組織案(岡山大・千葉大・新潟大など)、 インターネットを利用した仮想大学(北陸科技大・千葉大・広島大・九州工大)とい った新たな再編構想、あるいは、昼夜開講やサテライト・キャンパス(福島大・小樽 商科大・埼玉大など)といった今までにない社会人向けカリキュラムなど、様々な新 規構想が検討・実施されている。これらは大学院重点化がなされていない総合大学( 旧官立大)や地方大学で多く見られ、高度職業人養成という「種別化」の流れに乗ろ うとするものである。 第六に、教員養成系大学・学部の再編統合、法科大学院(ロースクール)構想など、 教育・研究分野全体を巻き込む再編の動きがある。これらは、一見したところ、少子 化や教育改革、法曹改革などの社会的要請に応える動きに見えるが、実際は「選別と 淘汰」「種別化」といった大学再編の動きとリンクしている。ここでは、今後の教育 改革や法曹改革のありかたを真摯に検討するというよりも、まず、「選別」と「種別 化」が前提となっている。 さらに、第10次定員削減の具体化は、従来から進行しつつある、部局事務の解体と事 務組織の弱体化を通じて、部局自治を破壊するとともに、大学事務機構の隅々まで文 部科学省の統制によるトップダウンの大学運営を常態化させることになろう。 3.独法化と「競争的環境」による大学システム解体の危機が迫っている かくして、独法化は大学に何をもたらすかは一層鮮明になった。それは、文部科学省 の強大な統制下での「競争的環境」の形成であり、そこでの選別と淘汰であり、他方 での集中の過程である。「競争的環境」とは、統制と管理の新しい形態にほかならな い。 統制と競争・評価、それらを通じた大学への干渉、この自己運動システムが形成され てしまうか否かの瀬戸際に、わたしたちは立っている。 第一に、独法化によって、25%定員削減を始めとする「行財政改革」が遂行される。 大学の再編・統合と全体規模としての縮小、小規模大学、単科大学、地方大学の淘汰 、学部の縮小と東大など大学院重点化した大規模大学への一層の集中が進むであろう 。大学はこれまでにもまして、一層緻密に序列化され、種別化されよう。大学院重点 化大学などの研究大学、職業人養成のプロフェッショナル大学院、教養教育中心の大 学などに種別化され、相互に階層的序列化が生じる。国立大学の全体としての規模の 縮小により、学部教育は私立大学への依存を一層高めることになろう。地方大学の高 等教育の機会均等に果たしていた役割は見捨てられる。これこそ、選別・淘汰と集中 を目的とする独法化=「行財政改革」が国立大学にもたらす必然の結果である。 第二に、選別・淘汰と集中を同時に遂行するための装置として、「競争的環境」が形 成される。競争的経費の拡充、「客観的な評価」に基づく資源配分、任期制の導入な どが進められ、この要として大学評価機構などの評価システムが存在する。 文部科学省による研究教育への管理・統制の下で、基盤的研究費の極小化と任期制に よる身分の不安定化をてことして飢餓状態での競争が行われる。ここでの数値化され た「客観的評価」は、諸個人や大学、学部の優れたものを伸ばし、励まし、足らざる ところ、劣るところを補い、底上げするものとして機能するわけではなく、大学、学 部、学科、個人レベル、それぞれにおける選別、切り捨て、他方での集中を、「客観 的」な数値化された評価を根拠に進める「万能の権力」として機能する仕組みとなる 。この結果は直ちに再編統合、定員削減、財政削減に結びつく。 しかし、これだけにはとどまらない。大学の研究や教育、運営において必要不可欠な 要素が破壊されるであろう。大学の活動は、大学内における各構成員の協力、協働に よって成り立っており、異なる分野間の共同も必要である。また、大学間の共同も必 須である。このような共同的在り方が、競争的関係の中で破壊され、解体し、それぞ れが競争に投げ込まれ、選別、切り捨てが起こるとしたら、それは大学にとっては致 命的なことである。これらを通して、大学システムの解体が進む。大学にとって、も っとも基礎をなす個人の知的な、内発的活動に対して抑制的雰囲気が形成される。個 人の発意を基にする基礎的研究や自由な教育が失われ、大学内の自由の空気が失われ る。選別・淘汰を目的とする「競争的環境」には、自由が存在する余地はない。 第三に、「競争的環境」で勝ち抜く、言わば研究企業、教育産業としての大学を運営 するために、経営者としての学長に権限が集中され、トップダウンの大学運営が進む 。そして、大学の自治的運営は姿を消す。 学長への権限集中、学長選挙の廃止、「タックス・ペイヤー」即ち、政治家や企業人 などの学長選出への関与、教授会の大学運営権限剥奪、任期制導入による教員身分の 不安定化、こういった事柄を積極的に進めるよう、「5.9自民党提言」は主張している 。こうなれば、もはや大学において教員の大学運営への自治的関与は存在しなくなる に等しい。教員は、自らの労働とその成果について自律的に関与する権限を奪われて いく。学問の自由を担保する大学の自治的運営は解体する。職員にとっても、教員と 協働して大学の運営と業務の遂行を自発的に担う自由を奪われていく。 「競争的環境」は、大学の自由を奪い、大学システムを解体するものに他ならない。 4.大学の主体性を回復し、復権しなければならない 国立大学の独立行政法人化の検討が進むなか、「自主的」で独法の先取り的な「改革 」が矢継ぎ早に行われようとしている現在、私たちは、いかにしてこの流れを押しと どめ、どのような打開に向けた行動をとればよいのだろうか。 状況は厳しく、事態は切迫している。 わたしたちは、これが原理原則に関わる問題であり、問題となっているのは、大学と いうシステムそのものの存廃であるという普遍的認識から、事態に立ち向かわねばな らない。個別生き残り的、状況追随的な行動では、事態は打開できない。それは、独 法化への道をまっしぐらに進み、大学を崩壊させるだけである。現在の事態の背景の 一つには、自らの所属する大学がいかに生き残るのか、という個別大学の生き残り路 線があることは明らかである。 しかし、このような対応は、大学院重点化や教養部解体の際にも見られた行動パター ンであり、結果は現実が証明する通り、大学全体の状況を一層悪化させたことを思い 起こすべきである。個別大学の生き残りではなく、大学システムの生き残りを考える べきなのだ。 大学のシステムとしての危機は、直接的に大学と大学教職員の危機を招くばかりか、 未来の社会の危機を招来する。誰しもが感じているように、現在は、極めて深い社会 の奥底における転換の時代である。わたしたちは、現在の社会システムがいつまで続 くのであろうか、このままの延長上に次世代の社会はあるのだろうかという懐疑にま といつかれて生きている。未来の世代がこの高度に文明化された社会を維持し、発展 させるためには、何よりも、その知的・文化的素養の高みを常に作り出していかねば ならない。このためには、大学は極めて枢要な位置を占める。これを、「金融機関の 競争と自己責任の時代が始まった。大学行政にも同じような改革手法が求められてい る」(「朝日新聞」10月24日社説)というような粗野なやり方で扱ってはならない。 現在の国立大学の全体的規模を縮小すべきでない。これを維持し、発展させるのに必 要な国の財政的支持が可能なよう、財政政策自体を改めるべきである。1県1大学原 則は必要である。社会を地域の市民の自治によって形成することは不可欠であり、そ のための知的・文化的中核としての高等教育機関はぜひ必要である。これを切り捨て てはならない。分権化こそが、次の社会のキーワードである。また、研究を大学院重 点化した12の大学のみに集中させて行うというのも誤りである。多様で重層的な自由 な議論、切磋琢磨と協働の場があってこそ、基礎的なもの、先端的なもの、優れた研 究は生じてくる。大学に自由を与えるべきである。高等教育への財政的保障、財務運 営の自由、学長選出など、大学運営への関与における構成員の自治、事務職員人事の 保障など、大学の自治を一層強化することこそが、社会に貢献する大学を生み出す基 礎となる。 おわりに 独法化と「競争的環境」は大学の自由を奪う。 国大協と各大学は、大学教職員の力と智慧に依拠してこの事態に立ち向かうべきであ る。 国大協は、文部省調査検討会議の議論に参加することをやめ、特別委員会の強化を図 るべきである。特別委員会への参加と協力、議論と行動を全国の大学に呼びかけるべ きである。全国の大学教職員が、様々な検討、研究グループを無数に作り上げること 、その議論の結果を早急にとりまとめ、国大協特別委員会へ集中することを求めるべ きである。 また、国大協は、大学評価機構の評価システムが「競争的環境」作りの機構として機 能することを阻止するために全力を注ぐべきである。 われわれは、改めて、独法阻止のために、大学が抱える諸課題を分析し、その方策を 提起する活動を、全国の教職員が独自に組織し、その結論を国大協に意見書として提 出することを呼びかける。また、進行する「競争的環境」作りに反対する行動を共同 して作ることを呼びかけたい。 とりわけ、評価システムに関わる検討と行動は緊急に必要である。校費配分の平等原 則の維持、また校費縮減に伴う非常勤職員の雇傭保障問題、任期制導入に反対する行 動など、様々な場で直ちに取り組むべき課題は多い。 眼前で進行する事態に、たとえ一人であっても抗い、苦闘することが、やがて一つの 典型を生み出し、仲間を励ます。こうした個々人の勇気が全国的な連帯行動の形成を 促し、事態打開の突破口となるであろう。 わたしたちは、現存する大学の課題を打開すべき方策を、科学として研究し、その結 論を共同行動に高めなければならない。「競争的環境」が教職員個々人を分断してい く流れに抗し、共同と連帯にもとづいて大学システムを建て直すことが、今、求めら れている。