From reform-admin@ed.niigata-u.ac.jp Mon Jun 2 00:25 JST 2003 Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (cosmos.ed.niigata-u.ac.jp [133.35.176.6]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3p2/3.7W) with ESMTP id AAA22021 for ; Mon, 2 Jun 2003 00:25:26 +0900 (JST) Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (localhost [127.0.0.1]) by cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id XAA01698; Sun, 1 Jun 2003 23:47:41 +0900 (JST) Date: Sun, 01 Jun 2003 23:47:36 +0900 From: TSUJISHITA Toru Reply-To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Subject: [reform:04747] 国立大学法人法案の反社会性 To: 大学改革ML Message-Id: X-ML-Name: reform X-Mail-Count: 04747 X-MLServer: fml [fml 2.2.1]; post only (only members can post) X-ML-Info: If you have a question, send e-mail with the body "# help" (without quotes) to the address reform-ctl@ed.niigata-u.ac.jp; help= User-Agent: Wanderlust/2.11.3 (Wonderwall) Emacs/21.1 Mule/5.0 (SAKAKI) Mime-Version: 1.0 (generated by SEMI 1.14.4 - "Hosorogi") Precedence: bulk Lines: 91 Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP Content-Length: 4750 国立大学法人法案の反社会性*(抜粋) 辻下 徹 企業の一部を子会社として独立させ支配力強化と経営効率化をはかることは民 間的経営の常套手段である。国立大学を「独立法人」にする政府の目的も同じ である。しかし、マスメディアは「独立行政法人化すれば国立大学は政府から 独立するので自律性が高まる」と執拗に報道してきた。筆者は、このような情 報操作に憤りを感じ、4年前よりインターネットを通して事の真相を社会に伝 えようと試みてきたが、法案は5月22日に衆議院を通過し成立寸前の情勢で ある。 I.国立大学法人制度とは何か 国立大学制度は、国立大学設置法・国立学校特別会計法・教育公務員特例法等 の法律群によって、組織・財政・人事の自律性を大学に保障し、国立大学にお ける教育と研究が、政府や企業などの外的諸力に従属することを防止してきた。 しかし、1980年以降の大学予算据え置き政策と1990年代の「上からの 大学改革」と大学差別政策により国立大学の旧文部省への従属度は年々強くなっ てきた。 法案が規定する国立大学法人制度では、文部科学大臣が6年毎に大学の中期目 標を定め、大学が作成した中期計画を認可し、運営費交付金を交付する。期末 に、文部科学省の国立大学法人評価委員会が専門的見地から国立大学法人の目 標達成度を評価し、総務省の独立行政法人評価委員会が、政策的見地から業績 評価し、存続・民営化・廃止等を文部科学大臣に勧告することになっている。 さらに、強力なトップダウン経営体制が義務付けられており、国立大学法人は 軍隊式の指揮命令系統を持つ研究教育受託企業である、と考えれば本質を見失 わないであろう。 国立大学法人化は、1998年末の自自連立の際の公務員25%削減政策がきっ かけとなり、1999年9月に旧文部省は国立大学の独立行政法人化の方針を 発表した。国立大学協会[1] の幹部は、国立大学の学校法人化(私学化)を過 度に恐れ、「修正独立政法人化」を模索する条件闘争の姿勢を取り、譲歩に譲 歩を重ねた末に、大学自治の抹消を目的とするとさえ言える現法案の成立に協 力している。 II.国立大学法人法案の危険性 国立大学法人制度は、以下のように、学の独立性と知の公共性を否定し、日本 社会の知的進展を構造的に阻む。 【大学の生殺与奪権を政府に付与】政府は、大学の中期目標を策定し、評価に 基づく資源配分および改廃審査を行なうことで、大学を直接にコントロールで きるようになる。野望を持つ政権が大学を動員することを防ぐ法的歯止めがな い。憲法23条と教育基本法第10条を実現している法体系を廃止する点で、 その違憲性を最高裁は裁くべきであろう。 【国立大学の財政的基盤の弱体化】大学の設置者が国立大学法人となり、設置 者の経費負担を義務付ける学校教育法から政府は解放される。支出義務が政府 にある人件費枠は非公務員化によりなくなるが、国立大学法人法案に代替物は ない。安定した財政的基盤を失う国立大学法人は、入学金・学費の値上げ、定 員拡大などを検討する一方、産学連携を余儀なくされ、企業が関心を持たない 基盤的研究分野は、資金面でも人事面でも次第に衰退していくであろう。 【不透明なサバイバル競争】「客観的評価に基づく資源配分」という美名によ る恣意的資源配分があらゆるレベルで行なわれ、大学・部局・学科・専攻・個 人の間の生き残り競争が加速する。「主流派」による予算・人員の寡占が進み、 小数派は淘汰される可能性が高く、学問の多様性が急速に失なわれるであろう。 また、学問そのものとも言える基盤的研究は、短期的成果が確実ではないため に敬遠され、さらに衰退を余儀なくされる。また、大学教員という不安定で地 味な職業に、若者の大半は興味を示さなくなるであろう。これは、日本社会の 将来にとって不幸なことではないだろうか。 【トップダウン体制】学長をトップとする強力な上意下達体制が法的に義務付 けられる。このような中央集権体制は、教育研究諸活動の原動力である自発性 と意欲を損なうと同時に、言論の自由を脅かす。大半の学長が中間管理者とし て振舞うことが予想されるので、高校までの文部科学省による管理統制が大学 にまで及ぶことになろう。 lII 国会審議と廃案を求める運動 ・・略・・・ おわりに 国立大学法人法案は、組織が優先される社会的風土の中で、組織への個人の隷 属を大学でも押し進める。組織は本質的に非倫理的存在で反社会性を持つ。大 学において組織が優先されれば、倫理に無関心な研究と教育が展開されるだろ う。それは大学が反社会的存在となることを意味する。日本の低迷は倫理性の 喪失と表裏一体に進行している。国立大学法人法案はこの低迷を加速させ、今 以上に組織が優先される社会を意図的に目指している点で、根底に反社会性を 持つことを警告したい。 (註) [1]国立大学協会は各国立大学長が大学を代表して参加する団体であり、国立 大学を代表する役割を実質的に果している [2]-[12]のリンクは、http://ac-net.org/dgh/03/529-link.html にある。 * 月刊「日本の進路」掲載予定 ----------------------------------------------------------------------