From reform-admin@ed.niigata-u.ac.jp Thu May 25 22:06 JST 2000 Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (cosmos.ed.niigata-u.ac.jp [133.35.176.6]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id WAA06106 for ; Thu, 25 May 2000 22:06:31 +0900 (JST) Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (localhost [127.0.0.1]) by cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id SAA21514; Thu, 25 May 2000 18:25:57 +0900 (JST) Date: Thu, 25 May 2000 18:30:56 +0900 From: tatsukw@hmt.toyama-u.ac.jp (立川健治) Reply-To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Subject: [reform:02823] 「自民党提言」批判 To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Message-Id: <200005250930.AA00915@tachikawa.hmt.toyama-u.ac.jp> X-ML-Name: reform X-Mail-Count: 02823 X-MLServer: fml [fml 2.2.1]; post only (only members can post) X-ML-Info: If you have a question, send e-mail with the body "# help" (without quotes) to the address reform-ctl@ed.niigata-u.ac.jp; help= X-Mailer: AL-Mail32 Version 1.00 Mime-Version: 1.0 Precedence: bulk Lines: 118 Content-Type: text/plain; charset=iso-2022-jp Content-Length: 7521 政治的ごまかしによる独立行政法人化を許してはいけない ----自民党提言を批判する----                          2000年5月24日                    富山大学教職員組合中央執行委員会  国立大学の独立行政法人化問題がいよいよ重大な局面を迎えようとしている。 5月9日、自民党文教部会・文教制度調査会は「これからの国立大学の在り方に ついて」と題する提言を発表した。この「提言」は、去る3月30日の自民党内 の高等教育研究グループによる提言を一部修正したものである。これは、5月1 1日に党政務調査会においても承認され、自民党の公式の政策としての位置づけ が与えられた。今後、文部省は、この提言を踏まえて早急に法人化の「基本的方 針」をまとめる予定とされている。  「提言」は、独立行政法人通則法をそのままの形で大学に適用することは不適 切である旨を述べているものの、基本的には通則法の枠組みを踏まえたものであ る。それは、多くの大学人や国民各層から寄せられた批判に対して、通則法の内 包している問題点を単なるレトリックで覆い隠しそうとするものにすぎない。す なわち、それは、その表向きのレトリックとは裏腹に、「行政のスリム化・効率 化」を主な目的とする独立行政法人化の路線を積極的に推し進めると同時に、大 学に対する国の統制を強化し、国家の主導のもとに大学の再編統合を進めること を意図するものであり、おおよそ「高等教育政策」の名に値するとは言いがたい 内容のものである。 大学の選別・淘汰を提唱する自民党提言  自民党提言は「競争的な環境の整備」を第一の方針として掲げている。しかし、 競争の目的や高等教育のあるべき姿については何も語っていない。競争に委ねて おけば自然淘汰によって優れた個体だけが生き残ると言わんばかりの素朴な「社 会ダーウィニズム」論の典型が、ここにある。かかる方針に基づいて、提言は、 「国立大学といえども、・・・より競争的な環境の中で運営されるべきであり、 その結果によっては、選別と淘汰も避けられない」、あるいは、「最終的には、 国の責任において、積極的に再編統合を推進すべきである」などと明言している。 また、このような観点から、「任期制の積極的な導入」も提唱されている。  しかしながら、教育に競争メカニズムを導入することには、メリットとともに 少なからぬデメリットが伴うことを銘記するべきである。大学間・教員間の分断 と序列化を一方的に進めていけば、大学間および教員間での信頼・協力関係が損 なわれ、アカデミック・コミュニティは解体の危機に瀕する恐れがある。大学人 の間での知的連帯なくしては、学問の発展を望むことはできない。質の高い研究 と教育は、多くの大学人の連帯と共同によって初めて可能となるものである。  さらに、大学の選別・淘汰、ないしは再編統合を進めることが「国の責任」で あるという主張も理解に苦しむところである。このような主張は、むしろ、高等 教育に対する国の責任の放棄を宣言するとともに、地方国立大学の廃止を勧める に等しいものである。ここからは、国立大学の再編統合を通じて公務員定数の2 5%削減という目標を達成しようという自民党提言の政治的意図をはっきりと見 て取ることができる。 大学の自主性・自律性が拡大するのか?  自民党提言の各所には、大学の特性に配慮し、その自主性を尊重するという趣 旨の言葉もちりばめられている。また、大学の個性化を進めるために「諸規制の 緩和を推進する」ことも方針として掲げられている。しかしながら、他方では、 「国が、その運営や組織編成の在り方に対して、相当の関わりを持つことは当然 であり、とりわけ大学の存廃など中長期的な在り方に関しては、国がより大きな 責任を負うべきである」と述べて、各種の規制や介入が従来にもまして強化され る可能性もほのめかしている。要するに、「日常的な国の諸規制」は緩和するが、 大学運営の中長期的な問題に関しては、これまで以上に国の統制を強めていくと いうわけである。これは、「大学の自治」および「学問の自由」の侵害につなが るものである。  たとえば、学長の人事については、全学選挙を廃止し、「学外の関係者」ある いは「タックス・ペイヤーたる者」を選考に参加させるという方向での「学長選 考の見直し」が提案されている。また、教育研究の目標や計画に関しても、「各 大学の主体性を十分尊重」すると言うだけで、法人の中期目標を大臣が指示する という通則法の基本的枠組み自体については、何の疑念も示されずに自明の前提 とされている。教育研究の評価については、「大学評価・学位授与機構の評価を 尊重する」と言うが、主務省の評価委員会、および総務省の審議会の果たす役割 については明らかにされていない。さらに、「大学評価・学位授与機構には、大 学関係者のみならず幅広い関係者が参画する必要がある」とも提言は述べている。 このことは、教育研究の成果が、学問の世界の外にいる者、とりわけ時の政権や 産業界の利害に基づいて評価されるようになる恐れがあることを意味している。 しかも、このような恣意的かつ不明瞭な基準にもとづく評価が、予算配分と結び つけられることになる。  これらの点から理解されるように、自民党提言の眼目は、さまざまな面におい て大学自治の形骸化を進めていくことにある。この提言に沿って法人化が実施さ れるならば、大学の自主性・自律性が拡大するどころか、むしろ大学に対する政 府の統制は著しく強化されることになる。  さらに、提言によれば、「大学の特性を十分踏まえる」と但し書きがついてい るものの、やはり企業会計原則が適用される。それと併せて、経営面での体制を 強化するために、「経営担当の副学長を配置することは当然のこと、さらに経営 面を担当する何らかの学長補佐機関を設けることも検討すべきである」と述べて いる。このように経営重視の大学運営を提唱していることからも、自民党提言が、 「業務運営の効率化」という通則法の原則を大学にも適用しようという意図を持 っていることは明らかである。欧米並みの水準への「公的投資の拡充」の必要性 について語られてはいるものの、その実現のための具体的な方策は全く示されて いない。自民党内においては、むしろ支出削減論が大勢を占めていることを考え ると、この提案は単なる空手形に終わる可能性が大きい。 「提言」の本質は、政治的ごまかしにある  以上の議論から理解されるように、自民党提言は、「大学の自主性の尊重」 「地方大学の維持強化」「公的投資の拡充」などといった、耳あたりのいいスロ ーガンで飾られてはいるものの、これらの目標を達成するための方策については 具体的に示されていない。それどころか、提言のなかには多くの矛盾が含まれて いる。たとえば、提言でなされている「地方国立大学の維持強化」という提案は、 競争的環境のもとで大学の「選別と淘汰」を進めるという方針とは、どう考えて も相容れないものである。  すなわち、自民党提言は、さまざまな美辞麗句によって、その自己矛盾を取り 繕いつつ、「調整法」という糊塗策を用いて、通則法の枠組みの中に国立大学を 押し込めるという狙いを持つものであると言わざるをえない。それは、通則法の 枠組みを一歩も出るものではなく、たんに「独立行政法人」を「国立大学法人」 と言い換えただけの政治的なごまかしにすぎない。そのような政治的ごまかしに よって独立行政法人化が実施されるならば、わが国の高等教育は、取り返しのつ かない打撃を蒙ることになるであろう。  私たちは、学内外の諸団体および地域社会との連携をさらに深めつつ、独立行 政法人化反対の取り組みを強化するとともに、学術研究・高等教育のいっそうの 発展に向けた運動を精力的に展開していく決意である。 ---- ******************************************** ▲___▲ 立川 健治 |||||||\ tatsukw@hmt.toyama-u.ac.jp |¥ ¥ /|\ 富山大学人文学部国際文化学科 | / |\ 930-8555 富山市五福3190 (..) \   tel 076-445-6187     ̄ K.T.              *********************************************