From reform-admin@ed.niigata-u.ac.jp Wed Dec 8 22:18 JST 1999 Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (cosmos.ed.niigata-u.ac.jp [133.35.176.6]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id WAA18414 for ; Wed, 8 Dec 1999 22:18:37 +0900 (JST) Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (localhost [127.0.0.1]) by cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id VAA02362; Wed, 8 Dec 1999 21:18:28 +0900 (JST) Date: Wed, 8 Dec 1999 21:18:21 +0900 From: 教職員組合工学部支部 Reply-To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Subject: [reform:02453] 科学技術基本法による予算投下 To: Message-Id: In-Reply-To: X-ML-Name: reform X-Mail-Count: 02453 X-MLServer: fml [fml 2.2.1]; post only (only members can post) X-ML-Info: If you have a question, send e-mail with the body "# help" (without quotes) to the address reform-ctl@ed.niigata-u.ac.jp; help= X-Mailer: Microsoft Outlook IMO, Build 9.0.2416 (9.0.2910.0) X-Priority: 3 (Normal) X-MSMail-Priority: Normal Importance: Normal X-MimeOLE: Produced By Microsoft MimeOLE V5.00.2314.1300 Mime-Version: 1.0 Content-Transfer-Encoding: 7bit Precedence: bulk Lines: 114 Content-Type: text/plain; charset="iso-2022-jp" Content-Length: 5469 神戸大職組工学部支部書記局の水畑です。 [reform:02385]に引用されている件ですが、 > 1996年から2000年までの5年間に17兆円の巨額が投じられ、科学技術立国 > 体制の第一次五カ年(筆者による命名)が過ぎようとしている この点について、辻下先生から >このコメントを軸に教育行政批判を大規模に展開していけないでしょうか。日本の 国 >公私の全大学を十数年に亘って豊かにし、はかりしれない知的成果を産みだすこと を >可能だったはずの資金をわずか5年間で消費し、しかも何も目立った結果がでな かっ >たとすれば重大な失政です。 ということをおっしゃられている部分について、各省庁を通じてこういった形で投下 されてくる提案公募型予算による研究に関与し、さらなる研究の推進のために常に応 募を余儀なくされている立場から述べさせていただきます。 実験系研究室では、ある装置が研究室に入ってきたとき、それがアイディアのブレー クスルーとなることも珍しくありません。それまでは全くわからなかったことが、あ る装置があるためにいとも簡単にわかってしまう。そういう経験は、私の研究の経験 (まだ浅いですが)の中にも数多くあります。それは、文系の方や理論系の方にとっ てもそれに類する存在(書籍、人材、ソフトウェア……)に共通するものがあると思 われます。 実際、いろいろな財団や法人(いわゆる省庁外郭団体)における提案公募方式の予算 は、この5年間で劇的に増えました。その予算による成果は当然、正当に評価されて しかるべきものですし、今の時点ですでに実用化につながったものもないわけではあ りません。だからといって、今までわからなかったことが、その装置のおかげで明ら かとなったり、あるいは新しい材料が出来たりしても、それが「直ちに産業に役に立 つ」結果を生み出すかというと、そうとは限らない例がいくつもあるかもしれませ ん。 そもそも、そういった産業志向・実用化志向ではない科学技術予算も存在します。 さらに、そういった成果は、この予算によってすべてをなし得たわけでは絶対にない と思っています。少なくとも、その提案公募の予算を獲得するまでにも長い年月をか けた(しかも予算的に制約された中での)予備的実験をふまえた上で、ある程度の見 込みがあって提案公募に応募することも少なくありません。また、成果に対する短期 的な評価や追跡調査も当然存在します。実験系の研究者は、仮説をたててもそれだけ で終わるわけでなく、かならず実証をする必要があります。その実証のためには、た またま安価な実験装置ですむこともありますが、装置によっては多大な予算を必要と することもあるわけです。 確かに「日本の国公私の全大学を十数年に亘って豊かにし、はかりしれない知的成果 を産みだすことを可能だったはずの資金をわずか5年間で消費し」ていることは事実 かもしれません。しかし、今回の科学技術基本法がもし仮になかったとしたら、実験 系の研究環境がどうなっていたか、これは、学舎の老巧化が問題となった数年前の議 論をみるまでもなく、悲惨なものになっていたと予想することは難しくありません。 さらに、確信的に「しかも何も目立った結果がでなかったとすれば重大な失政で す。」 ときめつけることは、お金のかかる実験系研究の存在価値を否定することになりはし ないでしょうか。 確かに実験系研究はお金がかかっていることは否定できません。しかしながら、ここ 数 年間に投下される17.4兆円という科学技術(それはおそらくその中のかなりの割合を 実 験系研究が占めることは否定できないでしょうし、それができたからといって他分野 の 人にその成果を100%還元できるかというとそれも難しいかもしれません。)に投下 さ れた予算分の成果をこのMLで確たる資料なしに批判されることは、少なくとも実験系 の 研究室に籍をおくものとしては、していただきたくないと思っております。学問を追 究 する姿勢は、実験系であっても、非実験系であっても、それほど違いがあるとは思え ま せん。 すでに渡辺先生が「第一期の反省はあるんでしょうか?効果がイマイチだった計画 の」 とおっしゃるのは何が根拠であるのか、また、辻下先生のおっしゃる「目立った成 果」 とは何なのか、そしてそれが「なかったとすれば」とおっしゃる理由は何であるのか を ある程度、明示していただければ、幸いです。もしそれが、「これだけ資本投下した の だから、今の時点で目に見える成果があがっているべきである」ということなのであ れ ば、各方面の独法化推進派が「短期的な目標と評価が大学には必要である」といって い ることとなんら変わりないように感じてしまうのですが……。 reformで行われている議論は、社会に直接還元することが難しい学問分野における研 究 も大切であるから、だから独法化について、反対あるいは慎重に構えるべきという論 調 であったかと認識しています。そういう内容の研究はたとえコストのかかる実験系分 野 においても、コストの大小に違いがあるだけであって、その大元には共通した疑問が あ ると思っているのですが、如何でしょうか。 追記:批判されるとすれば、「1996年に未来開拓推進事業が始まった時、この予算を 審 査する事業委員会の委員98人のうち34人が助成金を受け取るリーダーになったと す る「予算ぶんどり」行動は、Nature Vol. 383 p.369 '96 にすっぱ抜かれた。」とい う部分かも知れません。けれども、これは委員の人選とその選考方法に対しての課題 と みなされるべきであって、研究費の投下や成果に対する評価そのものということとは 別 のことではないかと思っております。 ------------------------------------ 神戸大学教職員組合工学部支部書記局 水畑 穣 TEL:078-803-6186 FAX:078-803-6205 ------------------------------------ From tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp Thu Dec 9 12:23 JST 1999 Received: from math.sci.hokudai.ac.jp (seki.math.sci.hokudai.ac.jp [133.50.152.8]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id MAA26243; Thu, 9 Dec 1999 12:23:23 +0900 (JST) Received: from [133.50.3.29] (pm030.hucc.hokudai.ac.jp [133.50.3.30]) by math.sci.hokudai.ac.jp (8.8.8/3.6W01/06/98) with ESMTP id MAA12618; Thu, 9 Dec 1999 12:06:49 +0900 (JST) Mime-Version: 1.0 Content-Transfer-Encoding: 7bit X-Sender: tujisita@pop.math.sci.hokudai.ac.jp X-Mailer: Macintosh Eudora Pro Version 4.0.1Jr1 Message-Id: In-Reply-To: References: Date: Thu, 9 Dec 1999 12:06:32 +0900 To: reform@ed.niigata-u.ac.jp From: Toru Tsujishita Subject: Re: [reform:02453] 科学技術基本法による予算投下 Content-Type: text/plain; charset="ISO-2022-JP" Content-Length: 4108 水畑 穣 様 貴重な証言とご批判を頂き、私の知識不足を改めて痛感しました。事情を よく知らない者の発言に憤りを感じられることも理解できます。申し訳な く思っています。 乗り越えがたい全般的知識不足が私にあり、多くの人には常識であること を初めて知って衝撃を受けると、奥にある状況を分析する前に発言してし まう、ということを繰り返しています。しかし、さいわい、視野の狭さを 明確に指摘して下さる方がいつもおられて本当に救われています。 政府研究開発投資により広範囲に大きな学術的効果が挙っていることは、 他の方からも具体例を挙げて指摘されました。これによって整った実験設 備でブレークスルーが引き起こされた分野も少なくないようです。また、 この投資によってインフラが整備され、研究活動全体の質と意欲の向上と いうものであれば、たとえ目立ったブレークスルーがなくても、それと同 様の(あるいはそれ以上の)意義があります。 また、次の証言はとても重要です。 > さらに、そういった成果は、この予算によってすべてをなし得たわけでは > 絶対にないと思っています。少なくとも、その提案公募の予算を獲得する > までにも長い年月をかけた(しかも予算的に制約された中での)予備的実 > 験をふまえた上で、ある程度の見込みがあって提案公募に応募することも > 少なくありません。また、成果に対する短期的な評価や追跡調査も当然存 > 在します。実験系の研究者は、仮説をたててもそれだけで終わるわけでな > く、かならず実証をする必要があります。その実証のためには、たまたま > 安価な実験装置ですむこともありますが、装置によっては多大な予算を必 > 要とすることもあるわけです。 問題にすべきは、このような真摯な提案公募だけだろうか、という点にな ります。おっしゃるとおり問題の核心は「1996年に未来開拓推進事業が始 まった時、この予算を審査する事業委員会の委員98人のうち34人が助 成金を受け取るリーダーになった」という点です。助成金の審査委員が自 分で助成金を受け取れるというのは信じられないスキャンダルです。 科研費を含め公募型の助成金の審査委員の名前の公表、および、採否の審 議の具体的論点の公表は今後不可欠になります。それがなければ、17兆 円の投資はやはり正当化できません。(なお、研究開発投資も「公共投資」 である、とある方から指摘されました。たしかに、高額の実験設備を購入す ることにより内外の製造会社に国からお金が流れます。逆にいうと、公共 投資の拡充のために道路工事を減らして研究開発投資を増やしてもいいわ けです。) しかし、以上のことを理解した上でも問題は残ります。公募型の助成金が 主な研究費となっていくことは、結局大学という場を実質的に不要なもの とし、個々の研究者だけを日本の科学技術の基盤の担い手とすることです が、上に引用させていただいたことを考えると、場としての大学を通して 培われた芽がなければ、公募型研究費が機能しないように思われます。 公募型助成金のみが研究費となる研究システムの作動原理は、別の角度か らすれば研究者の使い捨て(パート化)にあります。例の「創造的破壊」 の原理により達成される、研究者を効率的に利用する見事なシステムとい うべきですが、「遊び」を排除してしまうため長期的には立ち枯れる危険 性が大きいことは明白なので、国立大学の独立行政法人化により日本の研 究体制をこのシステムに完全移行させる政策は間違っていると思います。 なお、多額の研究費を得ても総定員法下では人件費に使えないために有効 に使えない場合もあることは想像できます。この点で独立行政法人化に魅 力を感じる方は多いのではないかと想像していますが、大学が独立行政法 人化により<任期付き大学>となって、場としての機能を持たなくなれば、 息継ぎする間もなく公募型研究費を次々と当てなければならないことにな り、それは種々の<落とし穴>を避けられず望ましいこととは思えないよ うに感じます。 高額の研究費が不可欠な分野の方が、独立行政法人化についてどう感じて おられるのか率直なご意見をお聞きしたいように思います。 独立行政法人化賛成の意見を表立っては言いにくい雰囲気があるようです が、そういう状況下では反対意見が安易で浅薄になり成長せず、最終的に は効力を失って無視されてしまう危険性があります。 辻下 徹 北海道大学大学院理学研究科数学専攻 tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp 011-706-3823