From reform-admin@ed.niigata-u.ac.jp Mon Dec 6 11:29 JST 1999 Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (cosmos.ed.niigata-u.ac.jp [133.35.176.6]) by sakaki.math.tohoku.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id LAA04879 for ; Mon, 6 Dec 1999 11:29:02 +0900 (JST) Received: from cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (localhost [127.0.0.1]) by cosmos.ed.niigata-u.ac.jp (8.9.3/3.7W) with ESMTP id JAA00993; Mon, 6 Dec 1999 09:23:56 +0900 (JST) Date: Mon, 6 Dec 1999 09:20:05 +0900 From: Toru Tsujishita Reply-To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Subject: [reform:02444] 独立行政法人化問題の論点(2) -2 To: reform@ed.niigata-u.ac.jp Message-Id: X-ML-Name: reform X-Mail-Count: 02444 X-MLServer: fml [fml 2.2.1]; post only (only members can post) X-ML-Info: If you have a question, send e-mail with the body "# help" (without quotes) to the address reform-ctl@ed.niigata-u.ac.jp; help= X-Mailer: Macintosh Eudora Pro Version 4.0.1Jr1 X-Sender: tujisita@pop.math.sci.hokudai.ac.jp Mime-Version: 1.0 Content-Transfer-Encoding: 7bit Precedence: bulk Lines: 150 Content-Type: text/plain; charset="ISO-2022-JP" Content-Length: 8127 辻下@北大 続きです。 ------------------------------------------------------------ (B)【国立大学自身の現状(内部改革の進行状況)の認識の不一致。】 国立大学の現状がどこまで悪いかについての自己認識の違いが、経験と居場所 によって大きいようです。国立大学の<空洞化>から何らかの「被害」を受け た経験のある人達はむしろ (B-1)「国立大学の現状は極端に悪く独立行政法人化反対などと言えるよ    うな立場にない」 という意見がある。極端な場合は、潰れてしまうのなら潰れた方がいい、とい うものもある。しかし、一方では、 (B-2)「どんな制度でも一定の割合の「無駄」があり国立大学の場合もその割    合の範囲に過ぎない」 という意見もある。ただ、 (B-3)「長期に亘って実質的な「評価」が欠如していたことは大きな問題であ    る」 ことは共通認識と思われるが、 (B-4)「大学評価・学位授与機構のような固定した小規模組織に全大学を実質    的に評価できるはずはない」 という危惧の声も大きい。 (C)【国立大学の独立行政法人化推進の圧力の「真」の理由】 当初、 (C-1)「25%定員削減では大学は運営できなくなるので独立行政法人化は 仕方がない」 という論点が前面に出ていた。たしかに独立行政法人化すれば「定員」という 概念がなくなるために「定員削減」という言葉自身が意味を失うのだが、 (C-2)「独立行政法人化しても全体としては「定員削減25%(あるいはそ れ以上)」に相当する事態は避けられないのは当然」 という認識は共有されるようになった。しかし、 (C-3)「独立行政法人化しても<定員削減>が起こるから独立行政法人化す る必要はない」 という考えは肝心な点を見過ごしているため、独立行政法人化反対の意見とし ては効力をもたない。肝心な点とは、国立大学制度の中での定員削減は「ほぼ 一様」にしか進められないのに対して、 (C-4)「独立行政法人制度では運営交付金の調整で<定員削減>に大きな濃淡 がつけられる」 という点であり、これが「強い立場の大学・部局・個人」にとっての独立行政法人化 推進の動機の一つとなっている。(以上C-1,2,3,4 は前回でも触れたことですが繰り 返しまた) 以上の論点では (C-5)「25%公務員定員削減は「政争の具」として出てきた不当なものである」 ことは共通認識となっているが、この共通認識から (C-6)「国立大学の独立行政法人化は政治的に決まっている」 という結論を出す人もいる。しかし、文部省は、国立大学が独立行政法人化し なければ内閣は潰れると言っていることからわかるように、(C-5)は誤認識で ある。しかし一方 (C-7)「国立大学が反対すれば独立行政法人化は実現しないことは確かだが、 そうすべきかどうか」 という点で意見が割れている。 以上は、政治家の強い動機しか念頭においていないが、 (C-8)「国立大学25%定員削減といった要請は、時代の背景から出たも ので正当なものである」 ということを前提としている。しかし、この前提は正当化できない。「国家財 政危機」のために公務員の定員削減をしているわけではないことは国立大学全 体の予算1兆5千億の十倍を越す膨大な公共投資については削減どころか増え ているという点からもわかる。1996年度から5年間に17兆円の国家予算を科 学技術に投入する閣議決定があり、過去3年間に10兆円が投入され、残りの 2年間に7兆円が投入されることも決まっている。このことから、 (C-9)「学術的予算を国家が投入したい所だけに投入するシステムを完成させ るのが国立大学の独立行政法人化である」 という点が明らかになる。これは別の言葉でいえば (C-10)「国立大学の独立行政法人化の目的は挙国一致体制に大学を組み込む」 という点にある。このような政策の背景には前回に言及した、アメリカ一人勝 ちの「グローバリゼーション」という世界的な流れがあります。その流れで日 本は敗者になる危険が大きいが、それを回避するにとどまらず勝者になろうと する欲望が、挙国一致体制を叫んでいると私には思われます。戦前と同じ精神 構造は同じではないかとさえ思われます。こういう状況で、大学は岐路に立た されています。巨額の研究費の魅力に負けその体制に組み込まれ挙国一致体制 を最も強力に推進する役割を担うことに埋没するか、そういう役割を担うだけ でなく日本の行く末について醒めた分析を行い警告を発し続けるか、という岐 路です。 (C-11)「国立大学独立行政法人化の目的の一つは大学から棘を抜くことである」 こうして、政府にとって残っていた最後の棘(批判精神)が大学から抜け落ち て、日本は政府の意図がそのまま実現する実に効率のよい国家になる、という 筋書きです。 (D)【国立大学が独立行政法人化で失うものは何か。】 政府は、9月20日の文部省案は大学と同じことを言っていて認められないか のごとく9月21日に宣伝し、 (D-1)「9月20日の文部省提案は国立大学協会の提言を丸呑みしたもの」 と北大学長に思わせることに成功しています。しかし、本当は (D-2)「9月20日の文部省提案は行革推進本部の意図と全く同じ」 であるという見方の方が適切であると思います。繰り返しますが、独立行政法 人制度を政府が採用したときの最も重要な点は、その「不安定性」です。職員 の身分だけでなく法人自身の存在自身が不安定であるという徹底した不安定さ を伴う制度です。不安定性は、統廃合・民営化を背にした背水陣に独立行政法 人を置くことで、心の安らぎを奪って真剣に働かせようというものですが、言 うまでもなく、知的創造的環境としては最悪のものとなり、他に移れる人は皆 移ってしまうことでしょう。 (D-3a)「不安定な環境は知的作業とは両立しない」 これに対しては、 (D-3b)「世界全体が不安定な状況に置かれている現在、大学だけ安定でありたい などという主張は通用しない」 という意見も多いようですが、この意見の方こそ、知的作業の専門家の使命を 忘れて、世間に迎合する意見でしょう。単に安定さを求めるのではなく (D-3c)「不安定になるということは大学の使命を果たす基盤を失うことだ」 という点が肝心である。しかし (D-3d)「それは単に特権階級であることを主張しているだけ」 という反論も聞きます。どの職業にもそれ自身の生理的な必要条件というもの があります。大学から安定性を奪えば、成功した研究の後追い・方法が確立した 研究等が優先し、全人未踏の研究に挑戦するなどという無謀なことは問題外の ことなるのではないか。やはり (D-4)「大学が社会に対して自己の特殊な使命を明確に説明することを怠っていた、 早急にそれに取り組み始めなければならない」 という点が重要と思われ、この点は共通認識になっているとおもいます。 10月18日の国大協会長が「国立大学の独立行政法人化が「結局は何も変えず におくため」の口実として機能してしまう」などといって (D-4)「国立大学制度でも独立行政法人制度でも大学にとっては大差ない」 という印象を植え付けようとしています。しかし、制度は余りに違いますから この主張は制度は運用次第という主張(A-3)が暗黙のうちに前提とされていま す。 なお、文部省は、「通則法だけの場合には国立大学制度に留まる」という言い 方で、 (D-5)「国立大学制度の方が、文部省案の独立行政法人制度よりも悪い選択である」 かのような宣伝をしています。しかし、国立大学制度の方が悪いのではなく、 国立大学に留まるならば制裁を加える、ということを主張です。長年の文部省 の支配により、この制裁の脅しに対する抵抗力を大学は失ってしまっているよ うに思われます。 (E)【教育と研究の関係】 この問題は、大学の存在の根底にかかわるもので、アメリカでは大学院大学が できた100年前頃から問題となり始めましたが、単純な解決があるような類 の問題ではありません。政府が望んでいるような、教育と研究との制度的分離 し、教育・研究の固定的分業化は避けるべきです。独立行政法人化により研究 に専念できる組織に属することを期待している人は国立研究所が独立行政法人 化でどう変化することになったかを念頭におくべきです。研究所の目標にそぐ わない研究は「禁止」に近くなり研究費をもらってもいけない、ということに なったのです。研究教育の人的分離を避け、サバティカル制度の根底にあるア イディアを発展させて、各人が、教育に没頭する時期と研究に没頭する時期と を適切に配分することができるような方向を検討すべきです。 辻下 徹 理学研究科・数学専攻 --------------------------------- 辻下 徹 北海道大学大学院理学研究科数学専攻 〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目 011-706-3823(office) tujisita@math.sci.hokudi.ac.jp http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh