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独行法反対首都圏ネットワーク

日本の科学を病弊させるトップダウン政策の見直しを
 .2002年12月9日   日本学術会議天文学研究連絡委員会
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首都圏ネット事務局です。
下記の「見解」を紹介します。

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日本の科学を病弊させるトップダウン政策の見直しを

                                                           2002年12月9日
                                     日本学術会議天文学研究連絡委員会

 日本は、「科学技術創造立国」の旗印の下に、1996年に科学技術基本法を整備しました。1997年度から5年間の第1次科学技術基本計画で17兆円、2002年度から5年間の第2次科学技術基本計画で24兆円の投資を行う予定となっています。経済不況下にあって、予算配分枠から見れば、科学技術の振興を重視した措置と評価できましょう。しかし、これが大きな成果となって結実するかどうかは実際の運用政策に大きく左右されます。その結果については、国民の目が厳しく光っています。 こうした状況の中で、私たちは日本の社会と科学の発展を心から願い、矢継ぎ早に新たな科学・技術政策を打ち出しておられる総合科学技術会議に対し、率直に二つの重大な問題点を指摘するとともに、社会にも広く事の重要性を訴えたいと考えます。

 第1は、経済危機への対応を急ぐあまり、「すぐ結果の出る応用・開発」研究に偏った重点配分を過度に進めていること、またそれによって、将来の発展の萌芽であり、また国の科学力の基盤である基礎的な科学・学術を軽んじていることです。そうした政策からはノーベル賞に値するような研究が生まれるはずもなく、むしろ日本が養ってきた自由な発想に基づく知的冒険の力を枯渇させるのではないでしょうか。言うまでもなく、天然資源に乏しい日本における最重要の資源は人材であり、視野の広い、未来を見通す力をもった人材を育成することが不可欠です。この困難なときにこそ、長期的見通しをもって基礎・応用・開発の研究の調和を図り、学術の総合的な発展を目指すべきでありましょう。
 また、学術研究は人が担うものであり、優れた研究者の創造性に基づく自発的長期的努力によってこそ、発展するものです。現在は「応用重視、経済重視」のもとで、トップダウンによる過度の重点化が進み、少数の研究費が集中して研究費が使い切れない状況が生まれる一方、優れた研究の蓄積がありながらも基礎研究であるため継続の困難が予想される学術分野もあることを、私たちは深く憂慮します。学術研究のモラル・ハザードが起きかねない、と言っても過言ではありません。このままでは、日本の学術研究の病弊は、取り返しがつかないことになるのではないかと恐れます。総合科学技術会議としてもこの状況を深く考察され、学術の性格に根ざした、長期的でバランスの取れた予算政策を採られることを期待します。

    第2は、最近の具体的な動きとして、総合科学技術会議が来年度概算要求(プロジェクト)にむけて、学術の広範な分野を含むプロジェクトのランク付けを行ったことです。このランク付けは、学術分野で通常行われる専門家のしっかりした評価を欠いたまま、官僚主導により短期間でなされたもので、結果も専門家や国際的な評価とはかなりかけ離れたものであり、極めて重大です。仮にも、このランクによって実際に予算配分が左右されれば、日本の学術研究に大きな禍根を残すことになるでしょう。 天文学の分野で例をあげると、国際的にも評価が非常に高いX線天文学の計画や、開発段階とはいえ複数の国際評価で非常に高い評価を受けているサブミリ波計画に対するランク付けなどは、理解しにくいものです。学術分野の計画評価を行う場合は、各専門分野や関連分野、および国際的な評価などの総合的な評価に基づくべきことは
国際的な常識であって、日本でも先端的学術分野では広く行われていることであります。
 このような学術的な評価無しに、しかも過度な重点化の下で、行政に都合の良いプロジェクトが採り上げられると、近視眼的なプロジェクトのみが発想されるようになり、学術推進の構造が歪んで、学術の総合的な発展とはむしろ逆行することになるでしょう。欧米など科学先進国において、学術研究に政府機関は直接介入せず、しっかりした専門家集団の評価によってプロジェクトを進める重厚なシステムが整えられているのは、そのためです。これは学術にとって本質的なことですから、日本においても性急な研究管理を進めるのではなく、多くの優れた研究者と協力した評価体制構築することこそが、重要なのではないでしょう。
 確かに、日本の縦割り行政の弊害で、異なった省庁から、名目は違っても内容は実質的に同じプロジェクトが出されて同時進行したり、分野によっては十分な評価のないままプロジェクトが進むといったケースも生じています。このような縦割り行政による弊害を改善することは、総合科学技術会議の重要な役割の一つであることは論を待ちません。
    しかしながら、だからといって政府機関である総合科学技術会議が、ランク付けのような直接的な介入を行うべきではありません。上に述べたように、科学・学術政策は、専門家の集団によるしっかりとした評価を基礎にして、長期的な視野で構想されねばなりません。
 学術・基礎科学の研究のみならず独創的技術開発でも、研究者個人の自由な発想に基づいた独創的な研究が多数行われるとともに、科学の論理に基づいた自主的で公開された相互批判・評価(ピアレビュー)を保証する体制が必須です。このような中から、ノーベル賞も含め画期的な成果が生まれるのが歴史の常であります。本来、ボトムアップ的に最適な方向を探りつつ推進されるべき性格の学術研究に、トップダウン
的な施策を持ち込み、政策的な目標を掲げてランク付けをし、資金を集中的に投資すれば良い成果があがるという論理にもし拠るとすれば、大きな危険を伴うでしょう。
日本の学術・科学研究がもつ国際競争力は広汎に損われ、将来の数十年にわたり、取り返しのつかない禍恨を残す危険性が高いと危惧します。
 日本の学術研究推進体制においては、欧米で行われているような大小のプロジェクト評価のための、研究者が多数加わった常設行政機関が欠けています。これは重大な問題であると、私たちも考えています。総合科学技術会議には、性急なトップダウンを進めるのではなく、広く研究者と協力して日本の科学・技術政策を進めるための長期的なビジョンを打ち出されることを、強く期待したいと思います。

連絡先:
日本学術会議天文学研究連絡委員会
 委員長 池内 了(名古屋大学教授)
      Tel  052-789-2427
      e-mail  ikeuchi@a.phys.nagoya-u.ac.jp
 幹事 福島登志夫(国立天文台教授)
      Tel  0422-34-3613
      e-mail  toshio.fukushima@nao.ac.jo
 幹事 加藤万里子(慶應大学助教授)
      Tel  045-566-1135
      e-mail  mariko@eduu.cc.keio.ac.jp

天文研連のホームページは
http://sunrise.hc.keio.ac.jp/~mariko/kenren/tenmon.kenren.html