過去の社説

教育基本法見直し/旧来型の論争に陥らずに

 教育基本法の見直しが始まった。教育振興基本計画の策定と併せ、中央教育審議会が1年の予定で論議する。
 かつての「改憲」対「護憲」の硬直した構図に見られたような、旧来型の理念対立には陥ってほしくないと、まず思う。
 「国家至上主義」やら「戦後教育の荒廃」やら、声高に相手方を非難し合うような論争になってしまっては、関心の広がりも望めない。その意味で、文部科学省が基本法よりも振興計画の審議を優先するよう求めたのは、現実的な選択だ。
 教育政策の足りないところ、財政投資の在り方。そんな課題が計画の柱になる。学級崩壊や不登校、学力低下などを抱え込む現場の問題点を点検し直しながら、反映させたい。
 現状分析や検証の裏付けを欠く短絡的な改正論が、共感を呼ぶはずはない。一方、基本法は「教典」ではないと考えるのなら、一言一句いじるなといった考え方も同様だろう。
 今回の諮問は昨年12月、森喜朗前首相の私的諮問機関である教育改革国民会議がまとめた最終報告に基づいている。前首相は基本法の改正に積極的だった。しかし、経済構造改革を掲げる小泉純一郎首相に交代して、基本法改正の優先度は低くなった。
 文科省が諮問に当たって示した「基本法より振興計画優先で」との判断には、この間の政権交代という事情が絡んでいる。
 背景としてはさらに、戦後の論争の歴史が浮かんでくる。「教育の憲法」と位置付けられる基本法は、憲法自体と同様に改正の圧力にさらされてきた。「国に対する忠誠はどこに書いてあるか」と閣僚が批判したことさえあった。
 もちろん、それに対する反発は根強い。昨年の国民会議報告が結局、「国家至上主義的考え方になってはならない」と歯止めをかけたのは、その表れだろう。
 「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」。基本法は前文でこううたい、「平和的な国家及び社会の形成者」としての国民の育成を教育の目的に掲げている。
 こうした基本理念を、短期間で変えようとするのは無理がある。基本法を貫く理念、精神のどの部分が、現在の教育現場の問題点につながっているのか。その論証が不可欠だ。
 一方で視界に入れておきたいのは、憲法そのものをめぐる論議の現状である。
 「議論した結果、改正することがあってもよい」(56%)を含め改正容認論は77%(8年前の前回に比べ5ポイント増)、反対論は15%(同6ポイント減)。河北新報社など加盟の日本世論調査会が今年4月に実施した全国世論調査は、こんな結果を示している。
 伝統・文化の尊重や宗教的情操の育成。国際化や生涯学習社会への対応。家庭教育の役割と学校の関係。男女共同参画とのかかわり。文科省が挙げる論点には、こんな項目も含まれている。改正の是非だけにこだわらずに論議が深まるのはいいことだと思う。
 「即時全面改正」でもなく「改悪絶対反対」でもなく、2項対立のそんな発想から離れた場所から審議の行方に関心を持ちたい。


メニューマップ画像
河北新報社 本ページに掲載の記事・写真などの一切の無断掲載を禁じます。
 E-mail:kahoku@po.kahoku.co.jp
Copyright(C) 2000,The Kahoku Shimpo