「富国強兵のために理科を教えているのではない」 ノーベル賞・野依さん 政府の科学政策批判 今年のノーベル化学賞に決まった野依良治名古屋大学教授は十六日、 東京・神田の日本化学会で記者会見し、理科離れや産学連携といった 問題について「化学技術創造立国のために理科を教えるとか、大学は 全面的に技術開発に協力しろとかいうのは全く間違っている」と政府 の化学への無理解を手厳しく批判した。 野依教授は、まず理科離れ問題について、「富国強兵のために理科を 教えているのではない。なぜ理科を学ばなければならないのかを一番 に考えないといけない。すべての人が自然の仕組みを知り、その知恵 を使い豊かに生きることこそが理科だ」と語った。 さらに授業時間を増やしても理科離れは解決しないと指摘。「問題は 私たちが自然の中に暮らしていないこと。先生の与えるヒントをとっ かかりに自分で自然の仕組みを体得することだ。塾に行って理科が分 かるわけがない」と述べた。 産学連携については「日本の産業が振興しないのは産業における研究 者の能力、創造力が足りないから。大学の一番大事なことは教育と学 術研究で、産業界が大学の先生を``徴兵''して下僕として使おうとい うのはけしからんことだ」と一喝。産業界の研究力を挙げる方法とし て、大学院教育の水準を欧米並みに上げる必要性を強調した。 「五十年でノーベル賞受賞者三十人」という政府目標についても「学 術活動を理解していない。不見識きわまりない」と嘆いた。 (2001 年 10 月 17 日(水曜日)河北新報 28(社会)面)