(2004.7.7深夜, 静岡県議会への要請 fax)
FAX TO:054-221-3572(全 2 枚)
静岡県議会御中(要請)
「教育基本法の早期改正を求める意見書」の採択に反対します.
教育基本法の改正は, 県下の教育
を混迷させる虞がはなはだ強いと思います.
全国に影響を与える上記意見書の採択は, 一納税者としても
切に見送っていただきたく, 要請いたします.
長谷川浩司(静岡県出身, 東北大学在職)
意見
-
(1)今般の教育基本法改正論議は, 各種「基本法」に基く予算措置にならい,
先進諸国と比して貧弱な教育予算を増額する根拠とすることが狙いの一つと
いわれる.
-
(2)一方で現行の教育基本法の根底には, 個人の尊厳と自主的精神の育成等
が平和社会の基本であるとの, 敗戦をふまえた認識がある.
-
(3)
教育基本法の条文は良く読まれているとは言えない.
現行法のどこが問題なのか疑問である. 教育基本法改正を訴えつつ,
実際に読んだところ「結構いいこと書いてあるじゃないか」との感想を得た政治家
もいる(毎日新聞 2000年6月20日 1 面).
-
(4)現行法の趣旨(2)は, 教育の普遍的目的を述べたものであるが,
現在のような経済的困難においては特に重要である.
20 世紀の歴史はデフレ下のファシズム台頭を教えるが, その誤ちを繰り
返してはならない.
また環境と経済の調和は 21 世紀の中心課題と思われるが, これも
広汎かつ
理性的な議論によってのみ達成されるであろう. そのような議論の土壌こそ培うべ
きであり,
この点において現行の教育基本法は普遍的輝きをもつ.
-
(5)しかるに, 愛国心を全面に打ち出すといわれる改正方針の下では,
(2)の趣旨は大きく損なわれる可能性がある.
個別の冷静な議論が「愛国」の名で封殺されたことは敗戦に際
しての反省点の一つであった.
-
(6)いわゆる国旗・国歌法の扱いをめぐり, すでに各地で混乱が生じている. 教育基
本法改正においては, 行政の現場介入を戒める現行第十条の廃止をともなう
といわれ, さらに深刻な混乱を引き起こすことが予想される.
現場の良心は衰弱し, 児童生徒への適切な対応力の本質的低下をもたらすであろう.
そもそも
指導要領の度重なる改訂をはじめ, 朝令暮改で多忙な現場には,
新規の混乱をさばく贅沢な余裕はないと思われる.
(自らも教壇に立つ者としての実感である.)
-
(7)基本法改正の結果, 何らかの形で「愛国心」が新規正課
となるならば, それは従来の教科の時間削減を意味する.
すでに行われた指導要領の削減改訂は記憶に新しい
が,それに輪をかけた効果をもたらすであろう.
教師の再生産過程を考えるとき, 諸科学の理解
がより低下した教師によって時代の教育が担われるであろうことは,
現代社会の維持に重大な影響を与えると懸念される.
-
(8)中央教育審議会でも議論されたいじめ・不登校その他の教育の困難については,
適切な社会的努力による対応力の増強が求められると思う. しかし
(1)のような予算措置のための基本法としては, 現行の教育基本法で十分な根拠に
なると考える. もし不足があるならば, 現行の教育基本法第 11 条に則り, 別途
「教育振興基本法」などの名称での新規法制を期すべきである.
以上
2004 年 7 月 8 日
長谷川 浩司
東北大学理学研究科数学専攻・講師
〒980-8578, 仙台市青葉区荒巻字青葉