2002年新学習指導要領の中止を[上野戸瀬黒木]→NAEE2002署名を!

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新学習指導要領実施中止に賛成な理由

黒木 玄

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目次


掲示板における新学習指導要領批判

掲示板から抜粋


算数:円周率が3になってしまう?

マスコミなどで「新学習指導要領の算数では円周率が3になってしまう」という話を聞いたことがある人は多いと思います。これが一体どういうことなのかを解説します。もちろん算数の新指導要領の問題点はこれだけではないのですが、円周率の問題は扱う数の桁数をよく考えずに減らした弊害として象徴的です。

さて、算数の新指導要領に「円周率としては3.14を用いるが,目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする」と書いてあるのと同様に、現行の規定にも「円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する必要がある」と書いてあります。ここだけ見れば、円周率の扱いは現行と新指導要領で変化してないことになります。

それでは「円周率が3になってしまう」という報道は誤報だったのでしょうか?

答は「いいえ」です。よく調べてみると、決して誤報などではないことがわかります。それどころか、どのような意味でどのような理由で「円周率が3になってしまう」かを調べてみると、新学習指導要領の内容のずさんさが明らかになってしまうのです。

「円周率が3になってしまう」という雑な表現よりも正確な要約が、 NAEE2002 の「教育現場の現状 (2)」にあります:

 小数についていうと、小数点第2位以下は扱わなくなります。……
 円周の計算はどうなるのでしょうか?「円周率3.14」は残りますが、実際の計算では「およそ3」となってしまうのです。

円周率が登場する算数の新指導要領の「〔第5学年〕」には次のように書いてあります:

2  内 容
 A 数と計算

……
(3) 小数の乗法及び除法の意味について理解し,それらを適切に用いることができるようにする。
……
ウ 小数の乗法及び除法の計算の仕方を考え,それらの計算ができること。また,余りの大きさについて理解すること。

 ……

3 内容の取扱い

……
(2) 内容の「A数と計算」の(3)のウについては,1/10の位までの小数の計算を取り扱うものとする。
……
(4) 内容の「B量と測定」の(1)のイ及び「C図形」の(1)のエについては,円周率としては3.14を用いるが,目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする。
……

「3 内容の取扱い」の(2)には「小数のかけ算とわり算では小数点以下1桁までの小数を取り扱う」という意味のことが書いてあります。だから、その通りにすれば、たとえ(4)に「円周率としては3.14を用いるが……」と書いてあっても、 3.14 は小数点以下が2桁の小数なので、 3.14 をかけ算とわり算で使用できなくなってしまうのです。かけ算で利用できない円周率は役に立ちません。 (そもそも小数点以下が2桁以上の小数によるかけ算を扱わない理由もよくわからない。小数点以下1桁の小数による計算を扱うだけで、小数の計算の体系を理解できるとは思えない。)

これが NAEE2002 の「教育現場の現状 (2)」にある「「円周率3.14」は残りますが、実際の計算では「およそ3」となってしまうのです」の内容です。

算数「〔第5学年〕」の「3 内容の取扱い」の(2)と(4)の整合性が取れてないことからわかるように、円周率云々以前の問題として、算数の新指導要領は内容的につじつまが合ってないのです。

算数の新指導要領はどうしてこんなに変な代物になってしまったのでしょうか?

新指導要領では扱う数の桁数を減らすという方針で内容の削減が行なわれています。 (もちろん変わったのはそれだけではない。) おそらく、そのときに内部的な整合性についてよく考えなかったせいで、上で述べたような変なことになってしまったのでしょう。算数で習う筆算に現われる全てのパターンを習得するためにはある程度桁数の大きな数を扱う必要があります。 (例えば 2 桁以下の数には 204 のように途中に 0 が挟まった数は出てこない。) 円周率として 3.14 を用いることができなくなる以前の問題として、新指導要領で算数を習うと計算の体系を正しく習得できなくなってしまう可能性が高いのです。

このような算数の新指導要領の問題点に関しては、関沢正躬著『算数があぶない』 (岩波ブックレット No. 513、岩波書店、2000年) が詳しいのでおすすめです。


追記2001年7月29日

さて、現実にできあがってきた算数の教科書はどうなったか。私自身は時間が取れなくて直接チェックできてないので、『数学セミナー』2001年8月号の40-44頁に掲載された岡部恒治氏 (埼玉大学経済学部) の「これでいいのか 算数・数学教科書」から関連の部分を引用しながら、私のコメントを追加して行くことにします。

まず、岡部氏は2001年4月4日付けの毎日新聞に文部科学省の寺脇研の写真入りの教科書検定に関する記事の中にある「驚くべきコラム」を紹介しています。そのコラムを以下に孫引きしておきます:

全教科書で円周率 3.14

 小学校5年の算数で学ぶ円周率。新学習指導要領で教える内容が削除されるに伴い、「円周率をおよそ3と教えるようになる」という誤解が広まっていたが、すべての教科書で「3・14」と記述された。「円周の長さが直径の長さの何倍になっているかを表す数を円周率といい、ふつうは 3.14 を使います」などと記述され、円周率を使って計算させる練習問題も載っている。

 新指導要領は現行の指導要領と変わらない。しかし、『目的に応じて3を用いる』という部分だけが取り上げられ、誤解を招く結果となった。

(『毎日新聞』 2001年4月4日より)

このページの読者はこれこそ真の誤報であることがすぐにわかると思います。このページでは以下の事実を指摘しています:

本質的な論点は当然後者の方です。円周率の話は単に象徴として持ち出されただけです。そこのところを誤解した浅はかな報道もあったのでしょうが、その搖り戻しで「新指導要領は現行の指導要領と変わらない」という報道をしてしまっては再度デマを広めることになってしまいます。

上で説明したように、新学習指導要領には「1/10の位までの小数の計算を取り扱うものとする」という但し書きが追加されたせいで、 3.14 のような小数の扱いで困ったことになるということなのでした。

それにもかかわらず、検定済みの算数の教科書に「「……ふつうは 3.14 を使います」などと記述され、円周率を使って計算させる練習問題も載っている」のはなぜなのでしょうか?

批判に対応するために文部科学省が検定をゆるめてくれたのでしょうか?

もちろんこの問いに対する答は「いいえ」です。今回の検定はあちこちで報道されていたように「要領」逸脱を徹底排除する方針で断行されました。

それにもかかわらず、検定済みの教科書に 3.14 を用いた計算問題が載っている理由を岡部氏は次のように説明しています:

 ……一方、同日の読売新聞では、現行の指導要領ではOKの「半径 5 m の円の面積を求める問題」に「電卓等を使う」と検定意見が付いたとあります。

 つまり、原則的には「3.14 (のような小数点以下第 2 位) を使って計算する場合は電卓を用いること」になったのです。円周率を扱った部分は、ほとんどすべての計算問題に電卓マークが付きました。……

(『数学セミナー』2001年8月号40頁より)

どんなに正しいことを述べても、浅はかな誤解からまた別の誤解に飛び移るような報道を繰り返されたのではたまりません。

上の解説でも少し触れておきましたが、円周率云々は単に象徴として持ち出された話題に過ぎず、あまり本質的ではありません。算数における計算の普遍的なパターンを人間が認識できなくなるような改悪が新学習指導要領に施されたことが問題になっているのです。

小数点以下 1 桁までの筆算だけで小数の普遍的な仕組みを納得することができるでしょうか? できるはずがありません。小数の仕組みを理解してない人が電卓を使ったとき、注意不足によって生じる誤りをどうやって正せば良いのでしょうか?

「平成10年12月 (株)文理・編集部」による「小・中学校 学習指導要領の改訂について」の「小学校・各教科の厳選の具体例」を参考にゆるされる筆算の桁数の削減についてまとめておきましょう:

他にも削減された事柄があるのですが、ここでは計算の桁数削減の問題だけに集中することにし、省略することにします。

念のために述べておきますが、もしかしたら 4 桁以上の足し算・引き算や 3.14 による掛け算・割り算のような計算を電卓無しでやるやり方を中学校あたりでは習うことになっているのかしら、などと思ったら大間違いです。小学校終了後のフォローは一切ありません。

新学習指導要領に忠実な教育を受けた人は義務教育を全て満点で終了しても 4 桁以上の足し算・引き算は基本的に「電卓」という教育になってしまうので、あえて極端な言い方をしてしまえば、将来の日本は 1575 円の買物で 2005 円払ったときのおつりのような計算も電卓抜きには全くできない人たちから構成される社会になってしまう可能性があります。そのような社会においては、数字の計算は何桁であっても完全に同じ手続きで可能であるという算数の基本的かつ普遍的な仕組みを理解している大人はほとんど消え去ってしまうことになるでしょう。

電卓を使ってできれば良いと考える浅はかな人がいるかもしれませんが、それなら極論として小学校では電卓の使い方だけを教えれば良いのではありませんか? そこまで極端なことを言わない人であっても、新学習指導要領に賛成な人は、やり方さえマスターすれば何桁の数でも全く同様に計算できるという我々大人が常識として身に付けている算数の普遍的な仕組みを次の世代に伝えることを放棄することに賛成だということになります。そこまで大胆なことを言いたいのあれば本当にそれでも大丈夫であるという理由を相当に詳しく説明してもらわなければいけません。


中学校数学:二次方程式の解の公式が消えた!

中学校数学の現行の学習指導要領新学習指導要領の「〔第3学年〕2 内容、A 数と式、(3)」には次のように書いてあります (強調は引用者による):

現行の指導要領

(3) 二次方程式とその解について理解し、二次方程式を用いることができるようにする。
ア 二次方程式とその解
イ 因数分解、解の公式などを用いて二次方程式を解くこと。

新指導要領

(3) 二次方程式について理解し,それを用いることができるようにする。
ア 二次方程式の必要性を知り,その解の意味を理解すること。
イ 簡単な二次方程式を解くことができ,それを利用できること。

新指導要領からは「解の公式」という言葉が消え去っていることがわかります。そして、新指導要領の「〔第3学年〕3 内容の取扱い」には次のように書いてあります (強調は引用者による):

新指導要領

(4) 内容の「A数と式」の(3)のイについては,axの2乗 = b(a,bは有理数で,実数解をもつもの)の二次方程式及び xの2乗 + px + q = 0 (p,qは整数で,実数解をもつもの)の二次方程式のうち内容の「A数と式」の(2) のイに示した公式を利用し因数分解を用いて解くことのできるものを取り上げることを原則とする。因数分解を用いて解くことができない二次方程式については,xの係数が偶数である簡単な例を取り上げ,平方の形に変形して解く方法があることを知ることにとどめるものとする。解の公式は取り扱わないものとする。

このように中学校数学の新学習指導要領では二次方程式の解の公式は取り扱わないことになってしまいました。

この事実が象徴している文化的・社会的・政治的な背景に関しては、上野健爾氏の「2次方程式」 (『数学のたのしみ』、 No. 9、 1998年10月10日号、 160-163頁) を読んで下さい。そこにはこう書いてあります:

教育課程審議会長の三浦朱門氏は雑誌「週間教育Pro」1997年4月1日号のインタビュー記事『「教育」今後の方向』の中で、教科内容の厳選に関して、教科のエゴをなくすために、たとえば数学では『曾野綾子のように「私は2次方程式もろくにできないけれども、65歳になる今日まで全然不自由しなかった」という』数学嫌いの委員を半数以上含めて数学の教科内容の厳選を行う必要があると発言している。この発言から1年2ヶ月ほどたった今年の6月に教課審の審議のまとめが出され、2次方程式の解の公式は中学数学から姿を消すことになった。

ただし、「2次方程式」の一部分に対して「だってこのレトリックって、三浦朱門の発言を相対化し、曾野綾子の文章と二次方程式とを併置することには成功していても、二次方程式に対して不当すぎる扱いではありませんこと?」という非常にもっともな非難があることに注意して下さい。


関連情報紹介

関連書籍

関連の必読文献にリストが推奨文献教育の節にあるので見て下さい。特に苅谷剛彦氏の著書は必読だと思う。苅谷氏の影響を受けた文献で気楽に読める本としては『「理数力」崩壊』がおすすめです。これらの文献の特徴は「ゆとりの教育」政策が教育の質の階層格差を広げてしまうことに反対していることです。

2002年度からの新指導要領の中止を求める国民会議

NAEE2002 関係者の中に発見した不快な名前が気になった方は「「ゆとりの教育」批判は「馬鹿保守」がやっているのか?」を読み、以下で紹介している私が支持している人たちが何を言っているかを理解した上で、どうするべきかを自分で判断して下さい。

それでは新学習指導要領のどこに問題があるのか?

上野氏の「巻頭言」の続きとして、左巻氏の「どうあるべきか」を読むと良いと思います。左巻氏によれば、新学習指導要領は今まで以上に教科書の構成を強く縛ることになるようです:

 そこで,次期指導要領(つまり2002年に始まり,すでに中学校でも移行措置がとられている新学習指導要領)では,指導要領どおりの順序でない教科書はつくれないことになった.つまり,指導要領で並んだ項目通りに教科書をつくれ,というのである.今までは,指導要領に並んだ項目をうまく統合したりして,教科書の展開上よりわかりやすい,教えやすいものに工夫することができたのである.規制緩和(これにも問題はなしとはいえないが)がいわれる時代に非常に強い縛りが加わったのである.

(左巻健男、『科学』2000年6月号、479頁より)


苅谷剛彦氏の論説は必読

苅谷剛彦氏は、最近の文部省の上からの教育改革は社会の活気を損なうような形で平等性を傷付けてしまう恐れがある、という視点から活発に議論を展開しています。

苅谷氏の「日本の教育はどこに向かおうとしているのか」の abstract を以下に引用しておきます:

2002年に本格始動する学習指導要領は、これまで文部省が進めてきた“教育改革”の総仕上げともいえる。同じ路線で進められてきた現行学習指導要領 (1989年公示) の成果を実証的に検討することを通じて、“教育改革”の成否を検証した結果、“ゆとり”教育は学習時間の減少とテレビ視聴時間の延長をもたらしていること、“生きる力”の教育は、生徒の興味関心・意欲低下と格差の拡大をもたらしていることがわかった。これらの結果は、よほどの条件の改善がない限り、教育改革の前途が暗いことを意味する。現代日本を“危険社会”ととらえ、そうした視点から、“なぜ学ぶのか”について考察すると、現在の教育改革が、危険への対処をいっそう困難にする方向に進んでいることが明らかになる。

(苅谷剛彦、『科学』2000年10月号、 825頁より)

さらに、苅谷氏は「「中流崩解」に手を貸す教育改革」において、最近の日本の教育改革その他で流行中の「結果の平等よりも機会の平等」という考え方が結果的に「機会の不平等」を促進することに貢献していることを示しています。「結果の平等よりも機会の平等」と安易に言う人を見かけたら要注意です。

[追記2001年8月18日:推奨文献教育の節でも紹介している苅谷剛彦著『階層化日本と教育危機――不平等再生産から意欲格差社会【インセンティブ・ディバイド】』 (有信堂高文社、 2001.7) は必読である!]


寺脇研氏を信用してはいけない

私はまだ読んでないのですが、友人によれば、『論座』1999年10月号の寺脇研・苅谷剛彦対談「子供の学力は低下しているか」も“面白い”そうです。文部官僚の寺脇氏は肝腎の点で逃げて誤魔化そうとしているのだそうだ。 asahi.com でも寺脇・苅谷対談を読めます:

寺脇氏の考え方に関しては次のインタビューも参考になります:


中学校数学から消えた二次方程式の解の公式

二次方程式の解の公式が中学校数学の新学習指導要領から消えた件が象徴している文化的・社会的・政治的な背景に関しては次を読んで下さい:

さらに、「「数学嫌い」とはいかなる存在であるのか」も見ておいた方が良いでしょう。


ずさんな小学校算数の新学習指導要領

小学校算数の新学習指導要領の問題点に関しては次のブックレットが詳しいです:


有馬朗人氏が文部大臣時代にやったデタラメ

有馬朗人氏が文部大臣時代にやったデタラメに関しては以下を見て下さい:

科学者出身の有馬朗人文部大臣(当時)は科学的にデタラメなやり方で授業時間数削減を正当化していたのだ。これは科学および科学教育に対する二重の裏切り行為だと思います。

有馬朗人文部大臣(当時)は「ゆとりの教育」について自民党の機関紙のインタビューに答えており、ネット上でも読めます:

追記2001年8月7日:最近、有馬朗人氏は「理科と数学の時間は減らしすぎた」と言っている:

有馬氏は文相当時の暴挙の責任を取ろうとしているのだろうか? 個人的には『論座』2001年9月号の論説における有馬氏の言い訳の仕方は汚ならしいと思いました。文部大臣の立場に立ってデタラメな教育行政を積極的に支援した有馬氏は自分自身の責任を認めることから出発するべきです。]


学習指導要領

現行および新学習指導要領は文部科学省のウェブサイトで読めます:


教育白書の欺瞞

2000年度の教育白書が「ゆとり」をどのように正当化しようとしているかについては以下を見て下さい:

2000年度の教育白書は以下の場所で読めます:

新学習指導要領批判に対する文部科学省の言い訳にならない言い訳は Question 7 で読めます。