2002.05.28スティグリッツデフレはインフレより怖い暗闇への跳躍GDPギャップ

デフレを脱却することが最優先課題


平成十四年度一般会計予算、平成十四年度特別会計予算、平成十四年度政府関係機関予算、以上三案に関する公聴会 (平成14年2月27日)の議事録から岩田規久男の公述を抜粋。【】内は抜粋者による補足。

岩田による「インフレ目標付き量的緩和」以外の政策提言については週刊『エコノミスト』2002年5月28日号に掲載の論文を参照せよ。


岩田公述人 私は、きょうは、デフレを脱却することが最優先課題になるべきであり、そのためには日本銀行の金融政策が根本的に変わらなければならない、特に金融政策のレジーム転換が不可欠であるということをお話ししたいと思います。
 基本的な金融政策のレジーム転換とは、金融政策の考え方あるいは方針を根本的に転換するということでありまして、それは、基本的にデフレはマイルドであっても悪であるというはっきりとした立場に立つ、デフレは不況をもたらしさまざまな負の影響をもたらす、それに対して、マイルドなインフレこそが日本経済を再生する必要条件である、はっきりと金融政策がそういう立場に立つということであります。一時期、日銀は、よいデフレであるとかあるいは当然のデフレであるというようなことを言ってきたわけでありますが、そういう立場に立っている限り、金融政策はある程度デフレ容認と見られますので、そういうものから、マイルドなインフレを目指すということにはっきりと転換する必要があるということであります。
 なぜそのように申しますかというと、一つは、デフレという中では、いろいろな資源、土地や労働あるいは資本といったものが成長産業になかなか移らない、産業構造の調整がおくれているのが日本経済の低迷だとよく言われているわけでありますが、それは私は、デフレのときには、成長産業といえども、いろいろなリスクがあって設備投資等をして参入することが非常に困難だということでありまして、むしろ、デフレ下で失業が生じたり土地が余ったりしても、成長産業そのものが基本的に出てこないわけでありますので、そこへ資源が移動しない、そのために産業構造調整がおくれるのであって、産業構造の調整のおくれは、デフレの結果であって原因ではないんだということを認識する必要があるかと思います。
 また、今、不良債権の処理の問題が随分言われているわけでありますけれども、果たしてデフレが不良債権をもたらすのか、逆に不良債権がデフレをもたらすのか、そういう議論がずっとされてきたわけでありますが、最近の計量的な経済分析によって、やはりデフレそのものが不良債権をもたらしているということがはっきりと立証されてきております。
 バブル崩壊による不良債権の処理という問題は九五年の住専とかその辺でほぼ終了していて、その後、不良債権がどんどんふえて、処理しても処理してもふえているのは、デフレ下で企業収益が上がらない、そのために優良な債権でも不良化していく、それが不良債権をふやしている状況で、そのデフレという根っこ、原因を正さずに一生懸命不良債権を処理しようとしても、次から次へと不良債権がふえるという問題を解消することはできないということであります。
 また、デフレ下で財政を再建しようということは、基本的にどだい無理なことである。デフレというのは名目所得や名目消費が伸びないという状況ですから、名目所得や名目消費に所得税や消費税はリンクしておりますので、税収はデフレが続く限り決してふえないということで、赤字がどんどんたまっていく。それでは、それを歳出の削減から始めようとすると、そのこと自体がデフレをもたらし、税収の減少をもたらすというこの悪循環から逃れることはできない。したがって、財政はデフレである限り再建不能で、破綻の道を突き進むだけである。
 それから、銀行の危機も不良債権の処理ができませんから進みますし、よく銀行はリスクをとったような十分な金利をきちんと取っていないと言われて、最近は、もっとリスクに見合って金利を取るようにということは新しいビジネスモデルだとして言われることがあるわけです。しかし、デフレの中では、金利を上げていってリスクに見合って取るということ自体が無理でありまして、金利を上げれば相手の企業、借り手が返せなくなるだけということで、そういうデフレ下でのビジネスモデルの変化による銀行の体質改善ということも基本的に無理である。
 また、生命保険が危機を迎えていますが、株価がどんどん下がる、あるいは金利が今非常に低いという状況では、逆ざやを解消することは生命保険にとっては無理でありまして、後でお話しします、インフレの中で緩やかに名目金利が上がってこそ初めて生命保険の危機も脱出できるということであります。
 さらに、公的年金制度も、これも生保と同じメカニズムでありまして、今、デフレにスライドして年金の支給額が減るわけではありませんが、逆に、年金保険料収入は名目所得にリンクしておりますから、デフレ下ではどんどん減っていくということで、生保危機と同じように年金危機も深まるばかりということです。
 この何年間、デフレがマイルドだからといって安心し切っていたと思うんですが、今このような危機が深まっているのはすべてデフレのせいであって、これを解消しないで何か違った経済政策から進めようとすることは、かえって問題を深刻化するだけで、いよいよ解決不能に陥る。デフレは、今、GDPデフレーターで見れば一・五%程度にとどまっておりますが、これがもし三%だというようなところまで行ったとすれば、ほとんど経済は再生不能に陥ることは間違いないと思います。
 そうなりますと、何としてもデフレから脱却するということでありますが、これは、ほかに幾つかの、財政支出を需要創出型にするとかいった政策ももちろんありますが、しかし、基本的な、根本的な政策は、何よりも金融政策がレジーム転換しなきゃいけない。
 デフレ脱却のためにはどうするかということでありますが、まずインフレターゲットを金融政策の目標としてきちっと設定する。インフレターゲットはどのくらいがいいかということを見ますと、先進国やいろいろな国でインフレターゲットを九〇年代ぐらいからずっと採用している国が多いわけですが、そういう国でうまくいっているというのは、大体一―三%の間にインフレターゲットを設定しております。この九〇年代の十年から最近までの経験を見ると、どの国も二、三%、二・五%ぐらいから二%程度にインフレをきちっと抑え込んでおります。そのような経済は、すべてやはり日本経済より成長率が高いというふうにして、非常に順調にいっている。これは、先ほど言った、デフレ下ではいろいろな問題があるということが、逆に、マイルドなインフレの中ではうまく解決するからであります。
 そのためにそういうインフレターゲットを設定する。しかし、設定しても、いつまで達成するのかということが明示されないものはだれも信用しないわけでありまして、いつまで達成するかをはっきりさせる。恐らく、これからお話しする過去の例を見まして、一年以内に十分インフレターゲットを達成できると私は思います。したがって、一年以内というようなことで達成時期を明記して、そして、そのためには日本銀行はできることは何でもやるという姿勢が必要であります。
 現在、日本銀行は、例えば長期国債は月に八千億円に制限するとか、あるいは日銀が保有する長期国債の残高を日銀券の発行残高に抑えるというような制約を設けておりますが、そのような制約はすべて取っ払うことが必要だと思います。それを取っ払った上で長期国債をどんどん買っていく、あるいは外国債を同時に定期的に買うというようなことも有効であります。
 このような政策によってデフレ収束。それは、どんどんマネーが市場に出てくるわけであります。現在、マネーはじゃぶじゃぶだと言っておりますが、それでもまだのみ込まれるように皆マネーを保有している、現金や預金を皆さんが保有しているということは、まだまだデフレ期待があって、マネーを持っていれば、デフレだけ、例えばデフレが一・五%であれば一・五%の利子がつくのと同じですから、そのようにして皆さん持っている。ですから、それをのみ込むほどマネーを供給することが必要であって、そうなればデフレはやがて収束、あるいはインフレ期待も出てくる。
 そのことで、まずすぐ起こることは、資産価格、株価を上げる、あるいは地価の下げどまり、あるいはドルの資産価格を上げる、つまり円安になる、そういう効果を最初発揮し、次第にそれが物への支出へと向かってくるというのが、過去のデフレから脱出する場合の経験法則であります。
 そういったことが果たしてうまくいくのかということを疑問に思われると思いますので、過去のデフレを脱出した二つの例をちょっとお話ししたいと思います。
 デフレというのは、戦後、日本しか今ないわけでありますので、デフレを脱却した大きな例としては、何といってもアメリカの一九三〇年代の大不況と、日本の三一年の後半ぐらい、三二年ぐらいからの昭和恐慌を乗り越えた例が一番参考になるかと思います。
 アメリカでは一九三〇年ぐらいから大不況に入ってくるわけでありまして、当時のフーバー政権のもとで緊縮財政をとる、そして、FRBは金本位制が一番望ましいと思って頑固に金本位制を維持する。金本位制というのは、為替レートを固定するとともに、金の保有量にリンクして貨幣を供給するということですから、貨幣供給量は金の保有量によって制約を受けて、デフレ下でも十分に貨幣供給量をふやすことができないという制度でありますが、そういう制度をとって、フーバーは、緊縮財政で、今で言う構造改革を非常に推進しようとするわけであります。
 フーバー大統領のそういう政策によって、物価が一〇%あるいはそれを超えるというような下落をし、失業率が二五%にもはね上がるというような状況がいわゆる大不況であります。
 この状況を、デフレを反転させたのは、フーバーから一九三三年三月にルーズベルトがかわり、即座に金本位制を放棄します。これによってドルは三〇%ぐらい切り下がる。そして、中央銀行総裁のFRB議長もかわって、どんどん国債の買いオペを大量に始めます。それによってマネーがどんどん出てくる。このようにしてルーズベルトは、フーバー政権のデフレ容認から、当時リフレ政策、リフレーション政策と言われた、ある程度のインフレを容認するという政策ですが、はっきりとそれを宣言する。
 現在大不況の研究がかなり進んでまいりまして、そのことによって人々の期待をデフレ収束からインフレ期待へと変えるという力があった。それがきっかけとなって、すぐ株価が反応して上昇に転じます。そして消費者物価も上昇に転ずるわけですが、最近の大不況の研究によりますと、通常のマネーの増加率以上にマネーを大量に供給したということがこのデフレからの脱却をずっと維持して生産を拡大した要因であったことを、計量経済学的な手法で明らかにする論文が幾つか出るようになっております。アメリカは、第二次世界大戦による財政支出、軍事支出ですが、そういったものを中心として初めて大不況を克服したんだとよく言われてきたわけでありますが、最近の研究によると、財政支出あるいは赤字は、ノーマルな水準よりもこの時代は決して多かったわけではないということが実証され、マネーサプライを通常の状況よりもはるかに多く供給したことがやはり一番効果があったという研究が出てきて、それが支持されるようになっております。
 実際に、大不況は世界不況だったわけですが、不況から脱出した国というのは、金本位制を放棄しマネーサプライを大量に供給するという政策に転換した国からどんどん景気が回復していって、最後まで金本位制に固執し、貨幣供給量をふやすことをしなかったフランスが一番最後まで低迷を続けることになったわけであります。
 それでは、日本の場合は昭和恐慌がありますが、お手元にお配りしました私の二枚紙のうちの図の五【安達誠司「昭和恐慌デフレとレジーム変換の重要性」2001年11月16日の図表2】というのを見ていただきたいと思います。
 金輸出再禁止というところが線が引いてありまして、これは三一年の十二月十三日であります。その前が、ちょうど井上財政が二年間あって、この井上財政のもとで日本は金輸出禁止を解除して、旧平価の割高な円相場で金本位制に復帰し、財政も緊縮財政をとるという、いわゆるデフレ政策をとるわけであります。そのときも、構造改革こそが日本経済を再生する道だということで、そういう政策を井上財政はとったわけでありますが、たちまち物価が一〇%ぐらいも低下し、失業がふえる、生産も落ち込むという不況に陥ったわけであります。
 そこで政変が起こり、高橋是清大蔵大臣のもとに再び金輸出が禁止される。つまり金本位制を離脱した。これによって円レートが三〇%ぐらい切り下がります。それによって期待が変わって、まず小売物価、そこを見ていただくと黒い丸に点々としたものが東京地区小売物価でありますが、それが上昇に転ずる。これは指数ですから、右上がりになるということが上昇に転ずる。つまり、強烈なデフレからマイルドなインフレに反転いたします。
 しかし、株価を見ていただきますと、まだ下がっております。これはなぜ下がっているかといいますと、実は金輸出再禁止はしたんだけれども、金融緩和はしなかったのであります。金融緩和を始めるのは三二年十一月二十五日で、財政を国債の発行で賄い、その国債を直接日銀が引き受けてマネーをどんどん供給するという金融緩和政策を大々的に打ち出す、それによって株価が急反転し、急上昇していることが読み取れるかと思います。これによって、当時のデフレ政策から、マイルドなインフレ政策あるいはリフレ政策への金融政策のレジーム転換がはっきりすることによって、生産数量というのは拡大の一途を遂げるということがわかると思います。
 このような例から、今金融政策のレジーム転換こそが非常に重要だということをお話ししたわけでありまして、やはりそういう政策に大きく転換してみるということが必要だ。
 しかし、それに対していろいろの反対論があります。時間が許す限り、反対論に対して私の反論をしたいと思います。
 まず第一は、現在は不良債権を銀行がたくさん持っているために、どんなに日本銀行がじゃぶじゃぶに資金を供給しても、銀行の手元に残っただけであって銀行の貸し出しがふえない、したがって景気は回復しない、これが圧倒的な支持を得ていると私は思います。
 しかし、それでは、銀行の貸し出しがふえることが経済の回復に不可欠でしょうか。この点を、もう一回図の五を見ていただきたいと思います。
 図の五で銀行の貸し出しというのはポチの三角で実線です。これは指数ですから、右下がりである限りは減っていることを示します。それを見ていただきますと、金輸出再禁止あるいは日本銀行の国債引き受けが始まって、生産は拡大し、消費者物価もマイルドなインフレに戻ります。しかし、銀行貸し出しは三四年まで減り続けているというところに注目していただきたいと思います。銀行貸し出しが初めてふえる、右上がりになってくるのは三五年であります。ですから、金融政策のレジーム転換をした後、三、四年もたってからようやく貸し出しは伸びるわけであります。
 それでは、なぜ貸し出しが伸びないのに生産は拡大し、設備投資は拡大するのかということを疑問に思われると思うのですね。一体どうやって企業はファイナンスをするのかということであります。それが図の六であります。
 図の六【安達誠司「昭和恐慌デフレとレジーム変換の重要性」2001年11月16日の図表3】を見ていただきますと、これはフリーキャッシュフローといって、企業の税引き後の純利益と減価償却から設備投資を引いた残り、フリーなキャッシュをどれだけ持っているかを企業の資産で割ったものであります。不況のどん底である三一年、それから三二年の後半ぐらいから回復を始めますが、そのころ法人企業のフリーキャッシュが大きくプラスになっていることがわかると思うのです。
 つまり、デフレが一番深刻になっている年というのは、生産も拡大しないから、だれも設備投資も何もしないわけです。法人といえども資金余剰主体になるのですね。もちろん、個々の企業の中で不足しているところはありますが、全体としては資金が不足していないんですね。そのために、これからそんなデフレというのが永久に続くわけではない、デフレが収束しインフレになる可能性もあるという、つまりインフレのリスクを人々に感じさせるということが大事なんですが、そして、実際に株価も上がり、資産デフレもとまってくるということになると、企業はその余った資金を初めて生産の拡大のために使うということがわかると思うのです。そして、いよいよ資金が足りなくなってきます、だんだん三四年ぐらいから足りなくなってきますね、マイナスになりますから。そうして初めて銀行の貸し出しがふえる。つまり、銀行にとって初めて資金需要がそこで出てくるから、銀行は貸し出すのであります。
 同じことは、図の七、次のページを見ていただきますと、アメリカも実は大不況を脱出する過程では、インフレが起こり、生産が拡大する後、やはり三、四年後に初めて銀行の貸し出しがふえるんですね。それまでは銀行の貸し出しはどんどん減ります。
 なぜ減っても生産が拡大していくのかというのが図の七【岡田靖「デフレ下のバランスシート調整」2002年3月8日の図表3】でわかると思うのです。三三年の三月にルーズベルトがかわってレジーム転換する、そのころには法人企業の中でキャッシュフローが十分にたまっているわけです。十分なお金を持っている。ですから、デフレが何とか収束するという期待、インフレが少し出てくるんじゃないか、あるいは株価とかそういうものも上がってくる、資産デフレも終わってくる、そういうことが初めて企業に生産の拡大意欲をもたらして、自己資金でやっていく。もちろん、その場合に中小企業などは資金がない企業もあるわけですが、そういう企業は企業間信用で生産を拡大していくということで、銀行に必ずしも頼らないということであります。
 それでは、現在はどうか。図の八【岡田靖「デフレ下のバランスシート調整」2002年3月8日の図表1】を見ていただきますとわかるように、現在、二〇〇〇年、二〇〇一年とフリーキャッシュフローが大きく法人部門にたまっていて、法人部門は実は資金余剰部門だということがわかります。したがって、銀行の貸し出しがなくても、最初の経済再生のときにはこの資金を使って再生が可能であり、中に、資金不足のところは、取引を通じた企業間の信用でもって拡大する余地があるということでありまして、この政策の有効性を私は示しているというふうに思いまして、必ずしもこれからの日本経済の回復にとって銀行貸し出しが先にふえなきゃならないということが必要条件ではないということをお話しいたしました。
 以上です。(拍手)

岩田公述人 現在の日本銀行の金融政策をどう考えているかということでありますが、政府と日銀の連携がデフレ阻止に向けて必要だということは、そのとおりであろうと思います。
 そういう点から見ますと、現在の日本銀行がインフレターゲットの設定に対して非常に消極的であるというのは、十分デフレ克服に断固たる姿勢を示していないのではないかということで、やはりインフレターゲットの設定とその達成時期まで踏み込んだ連携を政府と。
 そして、その場合によく日銀は、長期国債なんかをどんどん買っていくと、それに安心して政府が国債をどんどん発行して赤字を垂れ流しするんじゃないか、それによって国債の信認がなくなって金利がむしろ上昇するんじゃないかというふうなことを心配されます。
 ただ、私は、小泉政権の中では、三十兆円の枠をはめたりしてむしろ緊縮的でありますから、そういうことは考えられないと思いますが、それでも心配だということであれば、国債の発行に関するある程度の政府と日銀の合意というんですか、赤字国債を垂れ流しするというようなことをどんどん続けてはいかない、そういうある程度の合意は必要かと思います。
 それから、きょうは短い時間でしたので金融政策だけに絞って申しましたが、個別の対策では、やはり何とか需要創出をするような構造改革、あるいは財政構造改革でも、需要を創出するようなもの、需要を創出するというより、特にそれは民間投資を呼び込むという政策が必要であって、公共投資などでも、例えば都市の再生のために環状道路とかそういったものをつくることは、その周辺に民間投資を呼び込むということがありますし、あるいは都心の容積率を緩和してもっと高い建物を建てやすくするとか、あるいは今おっしゃった社会基盤を整備してやる、そういうところに財政支出を向ける、それは、人々の将来設計を非常に安心させるといいますか、そういう効果があって、いたずらに消費を抑制するというような効果、それに対しての抑制効果が働くということ、あるいは、これからある程度デフレ調整を進めるときのセーフティーネットとしてもそういう政策は必要だというふうに思っています。

岩田公述人 インフレターゲットを宣言するだけでいいのかということですが、宣言をしてその達成時期をはっきりする、これはまず必要不可欠の条件でありますが、ただそれだけでいいかというと、それはそうはいかなくて、宣言したとおりのことを実行するということが必要であります。
 そのためには、先ほど言った金融の超超緩和といいますか、あるいはインフレターゲットを設定したものを達成するためのあらゆる手段を使う。伝統的な手段の短期金利の低目誘導だけにこだわらず、長期国債を買う、あるいは外債を買う、それでもどうしてもデフレが続くという場合には、これは慶応の深尾先生などが提言されていますが、TOPIX連動の株式上場投信であるとか、そういったものも買わなければいけなくなる可能性はあるわけです。
 私は、すぐそれをする必要はなく、まず長期国債の大量購入から始めればよくて、恐らく、気持ちとしては、銀行が持っている国債を全部買うぐらいの気力があれば、かなり効き目があると思っていますが、それでもだめな場合には、ほかの手段だってとり得る、とるのだという姿勢が大事でありまして、そういうものは伝統的に中央銀行はやっていないからだめだ、だめだと言ってしまうと、効果はまずなくなる。
 ということで、実際にやる。やるということによって、銀行が貸し出しをした場合にも民間にマネーが出ますが、銀行がいろいろな資産をとにかく買えば、マネーというのは民間に出てまいります。銀行が国債を買う、社債を買う、株式を買う、CPを買う、あるいは外債を買う、とにかくそういうことをすればマネーが出てきて、マネーをマネーだけで持っているというのがデフレ経済ですが、しかし、それが相当潤沢になってくれば、やはり投資信託に向かう、株式に向かうというふうにして資産に向かう、あるいはさらに土地住宅にも向かう可能性もある、あるいは耐久消費財に向かう可能性があるということによって、資産デフレが最初にとまってくるということであります。そして、外債を買えば、それは円安になってきて、円安自体は輸入財の価格の上昇に始まって、必ずインフレ効果を持ってくるわけであります。
 そういう意味で、とにかくインフレターゲット達成の断固たる姿勢ということは、まず最低限していただいて、それを実際に担保するような金融政策の運営をするということが不可欠だと思います。

岩田公述人 政府のデフレ対策でありますが、やはり私は、先ほど言ったインフレターゲットの量的緩和といいますか、そういう政策が基本の柱になっていなければいけない。それが政府のデフレ対策、政府ですので、日銀の管轄ということもあって遠慮していると思いますが、それが基本に据えてなくて、日銀に働きかけるというところが十分見えないところが心配であります。それなくして、むしろ不良債権の処理等を早めるとかそういったことが割合前面に出てきてしまって、これは、去年のまだデフレ問題が余り言われなかったときの緊急経済対策から抜け出ていないのではないかと思います。
 例えば、不良債権の処理がどうしてデフレ対策になるのかと思うのです。まだ何となく、不良債権を処理すると銀行が成長産業を見つけ出して急に貸し出すのではないか、こういうふうに思っていらっしゃるのだと思うのですが、デフレの中で不良債権を処理した銀行が、なぜ急にきょうから、成長産業がここにあったよと気づいて貸し出すのでしょうか。なぜ急によりよい投資先が見つかるのでしょうか。もしもよい投資先や成長産業があるなら、幾ら不良債権があっても既に銀行は貸しているはずです。なぜならば、不良債権があっても、有利な借り手には貸した方が利益が上がりますから、その利益から初めて不良債権は償却できるはずであります。不良債権を処理しないと成長産業に資金が回らないというようなことはあり得ないということです。むしろ、現在、不良債権の処理を早く進めれば進めるほど、企業倒産が起こり、デフレが起こって、なお一層の不良債権になる。それを、引き当てを積みなさいといっても、引き当てする資金がないわけでありますから、それは無理な話だと思います。
 問題は、結局、インフレターゲットつきで量的緩和をやれば、みんながインフレになると信じてやるかどうかという点でありますが、これは、最終的に言えば、やってみなければわからないという答えしかないわけであります。なぜならば、こういう政策をやること自体が実験でありまして、部分的にこの辺で実験しようということはできないわけなんです。これが経済政策の宿命であります。
 そういう場合には、過去の事例はどうだったんだろう、そういうことが一つの参考になるのでありまして、過去にそういう政策をしてデフレ脱却があったわけです。逆にそういう政策をとらなかったフランスの場合、いつまでもデフレ脱却できなかった。そういうことが一つのメルクマールになる。
 そういっても、今度は、そういう議論をすると、当時と今では違うじゃないか、こういう話になる。それは当然ですね、当時は私も生まれていませんから、それは当然違うと思う。あらゆるところで、違うことは幾らでも探せるわけでありまして、そういうあら探しといいますか、とにかく否定するためには、実は議論は幾らでもできるんですね。当時とは違うんだ、昭和恐慌を脱出したときと違うんだとか、大不況をアメリカが脱出したときとは違うんだと幾らでも言えるわけでありまして、つまり、反対論は、言おうと思えば幾らでも言えるということを気をつけなきゃいけないと思います。
 したがって、最後は、ではどこが問題かといいますと、きく、きかないの議論をいつまでやっていてもらちが明かないということであります。一生懸命こうやって、過去の例とかいろいろな例を調べたり、いろいろ言ったって聞かないわけですね。きかないと言う人はもう聞かないんですよ、それこそ。ですから、これは説得はだめなんですね。
 ということになると、きかないと言う人は、つまり、インフレターゲットの徹底的な量的緩和をどんなにやっても、いつまでたってもインフレが起こらないで、貨幣が来るとみんなただ貨幣を持っているだけだ、こういうふうに言っているわけですね。そうである人には、それだったらそれでいいじゃないかと私は開き直りたいと思います。要するに、この政策はきくという可能性があると言っているので、それを信じないで、貨幣を持ったらずっと貨幣を持ったきりだ、これはデフレ経済の特色ですが。そうであれば、この政策、インフレターゲットつきの量的緩和をやると日本経済が奈落の底に落ちるんだということを言ってほしいと思うのです。つまり、この政策は、きかないんじゃなくて、悪くなるんだと言ってくれれば私も納得するんですが、悪くなるという論拠が示されたことがないんですね。
 今、富田さんが悪くなる一つの論拠として言ったのは、インフレターゲットのインフレ期待が起こったときに、長期金利はインフレ期待を反映してすぐ上がってしまって実質金利は変わらないじゃないかという議論でありますが、これは基本的に、デフレギャップがある世界では、長期金利や名目金利はインフレ期待だけでは上がりません。理論的にも上がらないし、歴史的にも上がっていません。
 例えば、昭和恐慌でこういう政策で徹底的に日銀が国債を買っていくわけでありますが、そういう中で一〇%のデフレから三%のインフレにたちまち変わるわけです。つまり、一〇%下落から三%ですから、足し算して一三%インフレ率が上がった。したがって、人々もそれだけぐらいの期待をしたとする。しかし、名目金利は下がっています。上がらないんですね。
 どうしてそういうことが生じるのかというのは、理論的に考えるとわかるのですが、まず、もしも一三%のインフレになって一三%だけ名目金利が上がったとすると、実質金利は富田さんのおっしゃるように下がりませんね。下がらないと、設備投資は依然として有利になりませんから、設備投資は起こりません。耐久消費財を買うことも有利ではありませんから、需要がふえないんですね。需要がいつまでたってもふえないということを富田さんはおっしゃっているんです。実質金利が変わらないということは総需要がふえないということを言っていらっしゃるんです。
 総需要がいつまでたってもふえない、そうすると、足元ではいつまでたっても物価が上がりませんね。いつまでも物価が上がらないで、なぜインフレ期待が生まれてきたんでしょう。インフレ期待自体が生まれないんですね。自己矛盾に陥っているわけです。最初は、インフレ期待が起こるから名目金利が上がると言ったけれども、足元ではいつまでも物価が上がりませんから、インフレ期待が間違いだという修正が起こるはずですね。
 したがって、なぜインフレ期待が起こって物価が上がってくるかというのは、インフレ期待が上がったほど名目金利が上がらないで実質金利が下がるから、在庫投資から始まるでしょう、設備投資や耐久消費財の支出がふえてくるというメカニズムがあるから需要がふえてくる。したがって、デフレがとまってじりじりと物価が上がり始めるんです。
 そして、このときになぜ実質金利は上がらないのだろうかというと、そうやって総需要がふえてきますと所得がふえてまいります。所得がふえると人々はその一部を貯蓄しますね。その貯蓄資金が設備投資や在庫投資をファイナンスする資金になるんです。だから実質金利は上がらないで済むんです。
 つまり、名目金利はインフレ期待ほどしばらくは上がらないんです。しかし、デフレギャップがなくなってしまうと名目金利は上がり出すんです。ですから、デフレギャップがなくなる過程ではそういうことは起こらないということです。そういう意味で、今おっしゃったのはきかないという例ですね、あるいは悪くなるという例に対する一つの反論です。

岩田公述人 ペイオフの延期ということに関してなのかとも思いますが、基本的に私は延期はすべきじゃないと思います。
 結局、ペイオフを受けて、もしも金融のシステミック不安が出てきて、システムが崩壊するような危機には危機対応勘定で対応するというのが筋で、そうでないと、銀行はいつまでたっても公的資金に頼るような状況から抜け出せなくなってきて、やはりペイオフというのは市場の監視機能を強めるというところで有益だ。
 ただ、それだけをやっていくとやはり大変なことになるので、先ほどから、デフレを脱却するための金融の政策を同時に徹底的にやらなければいけない、そういう立場です。